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成歩堂とみぬきと彼女(逆転4)
7年前
某日、某時刻
成歩堂法律事務所
「成歩堂龍一!!!」
バアン!と派手な音を立てて開かれた…否、弾き飛ばされた扉に成歩堂は悲鳴を上げた。養子縁組は済んだものの転校の手続きは済んでいないみぬきはパパってば修羅場!?と子供らしからぬ事を考えて素早く成歩堂と飛び込んできた女性とを見比べる。
「由奈ちゃん…!」
あからさまにしまったと言う顔をした成歩堂を見て余計に眉間の皺を増やした彼女は、10センチはあろうかという高いヒールをカツカツと鳴らして成歩堂の前に立つと、彼のネクタイを掴んで引っ張った。一瞬甘い展開を期待したみぬきは、子供らしく目を閉じるべきか考え、それが必要ない事を知る。成歩堂と彼女の顔は確かに近いのだが、それがくっつく様子は見られない。メンチを切るって奴だねパパ!思わず目の前で起こっている現象を口にしたみぬきだったが、その声をきっかけとした彼女がバッとみぬきに視線を移した事で硬直する。ステージに始めて立った時より緊張する…!!いわば蛇に睨まれた蛙状態。
「内藤由奈よ、あなたの名前は?」
ネクタイを突き飛ばす様に放した由奈がみぬきの前にしゃがみ込む。怒りに満ちていた瞳が瞬時に色を変え、慈しむ様な色に変わった。人の本性を読むに長けたみぬきは瞬時にこの人は悪い人じゃないんだと判断して、それでも緊張したままで口を開いた。
「みぬき」
「名字は、成歩堂で良いのね?」
「…はい」
「あの、由奈ちゃん…連絡しなかったのは本当に悪いと思ってるんだ…」
おずおずと口を挟んだ成歩堂は、ネクタイと一緒にソファに倒れ込んでいた体制から立ち直ろうとしている所だ。
「パパの彼女、ですか?」
どうせ彼女なんていないだろうと言って成歩堂を貶したのは記憶に新しいが、本当に恋人がいるのならそれは問題だと思った。自分は邪魔ものになってしまうのだろうかと不安に揺れる瞳を由奈に向けると、彼女は冷たい眼で成歩堂を見やってから首を傾げた。
「どうかしら、世間では退職も養子縁組も教えてくれない男を恋人とは呼ばないと思わない?」
そうですねと言っていいものか、チラリと見た新しい父親は助けてみぬき!と叫びたげな眼差しをみぬきに向けている…――みぬきに言われても。みぬきは瞬時に成歩堂が頼りにならない事を認識して、由奈に視線を戻した。
「みぬき、子供なんで大人の事情はちょっと」
「そうね、じゃあ子供の話題をしましょう。ハンバーグ好き?」
「大好きです!」
「じゃあ家においで、おばさん作ってあげる」
おばさんと言うにはまだ若いと思ったみぬきだったが、なにか言葉を返す前に慌てて彼女達の間に身体を捻じ込ませてきた成歩堂の背中に一旦口を噤む。
「みぬきは僕の子供なんだから自分で面倒みるよ」
同情でもしてるのか!なんて突然怒り出した成歩堂はどうやらプライド的なものを傷つけられたらしい。成歩堂がみぬきを庇うようにしゃがんだ事で、由奈はバランスを崩して尻もちをついた。
「目線ずらしてから言いなさいよ」
「(パパ…パンツ見えたんだね)」
「(なんだろう、みぬきからあきれた視線を感じる)」
パンパンと埃をはたいて立ち上がった由奈が、まるで僕を馬鹿にしに来たのかとでも言いたげな成歩堂を見下ろして息を吸い込んだ。みぬきは咄嗟に両耳を塞いだ、本能がそうしろと言っていたからだ。
「こ、んの馬鹿!!ただでさえ民事の仕事受けないせいで収入少なかったくせに!どうせ貯金なんてないんでしょう!?加えてあんたは今無職なのよ、む・しょ・く!!何が自分で面倒みるよ!馬鹿じゃないの!?ちゃんと子供育てる気有るの?子供はカップ麺食わしときゃ育つもんじゃないの、ちゃんと成長の為に栄養のある食事をさせないといけないの、夜には寝かせないといけないの、本気でこの子を守っていく気があるんならね、同情するなら金をくれぐらい言ってみたらどうなのよ!!!」
一息で言いきった由奈は、ふうと呼吸を正してからみぬきを見た。みぬきの瞳はキラキラと輝いている。
「すごいです!その通りですよね!!家計は楽になるに越した事ないです!」
「みぬきちゃんは良い子ね、とりあえずおばさんと一緒にお買いものに行こうか。ちゃんと安いスーパーも覚えて、暫くしたらみぬきちゃんが作れるようにならないといけないわよ」
「はい!お姉さんはなんのお仕事をしてるんですか?」
「検事よ、パパがしてた弁護士とは敵みたいな関係」
あはは、うふふ、と和やかに去っていく女2人に取り残された成歩堂は、どうしてか流れてきた涙を拭って立ち上がった。
「待ってー!荷物持ちくらいするよー!!」
階段を駆け降りた先で当然のように待っていた由奈とみぬきは、当然のような口調でこう言った。
「当たり前でしょう、女子供に重い物持たせるつもりなの?」
視界がかすんだのは、気のせいではない。
。
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