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佐伯と運命の赤い糸(庭球)
「なんで来なかったの?」
唐突にそんな事を言われて、私はシャーペンを持つ力を間違えた。ポキ、と軽い音と共に折れたシャー芯が地面へと落下していくのを見て掃除当番の友人に心の中で謝り、それからようやく不思議な事を言いだしたクラスメイトの顔を見た。
「急になに」
「昨日の地区予選、来なかった」
そんないじけたような顔をされても、効果音をつけるとシューンと言った感じの佐伯はさっきも言った通りクラスメイトである。地区予選があったのは知ってる。知ってるけど、別に来いとか言われてない。言われてもないのにたかがクラスメイトの地区予選を見に行くだろうか?答えは微妙だ、だっていまだ凹んでいる佐伯虎次郎は大層モテる。頼まれなくても応援に行く女の子なんて掃いて捨てるほどいるに違いないのだ。とりあえず、私は頼まれもしないところにわざわざ休日を返上してまで行くほど、佐伯信者ではなかった。
「予選突破したらしいね、おめでとう」
今朝仕入れた情報を元におめでとうと言うと、佐伯は何とも言えない顔をして笑った。
「ありがとう、次はちゃんと見に来てね」
え、次は関東大会だから東京に行くと聞いてますが。東京までの電車賃は誰が出すの?ていうかなんで私が。
「普通に無理ですけど」
「駄目だよ、ちゃんと俺を見ててくれないと」
「ていうかさっきからよくわからないんだけど、なんで私が佐伯を見てないといけないの?私達ただのクラスメイトだよね」
「なに言ってるの、俺達は運命の赤い糸で繋がってるんだから」
いやいや、こっちの台詞です、何言ってるのはこっちの台詞ですよ。大事なことだから二回言っちゃったよ。むしろもっと言いたいよ。
「運命の赤い糸とか……とりあえず誰がそんなこと決めたのか教えてよ」
「運命なんだから、それは神様じゃない?」
なにこの人、頭おかしいよ。とりあえず助けてバネさん。
「あ、由奈どこ行くの?」
「内藤って呼んで、そしてついてこないで」
「はは、照れ屋だなぁ」
「バネさーん!!あんたんとこの部員おかしいよ!!」
「え、他の男の所になんて言っちゃ駄目だよ。たとえバネさんでも許さないよ」
「お、サエに由奈じゃねーか。やっと付き合う事になったのか?」
「やっとってなに。付き合ってないし付き合わないよ」
「駄目じゃん、俺以外の男と話しちゃ」
グイグイと制服の裾を引っ張られながら、私はバネさんを見る事に集中するように努める。
「ほんとなんなの?佐伯って頭おかしいよ。なに運命って、この人私の事好きなの?」
「駄目だってば」
「小学校の時からな」
え、今私達中学生の最後の年ですけど。長、片思い歴長!
「……駄目じゃん俺をフリーにしちゃ!!」
ぎゃ、なんか怒りだした!!ちょ、バネさん笑ってないでどうにかしてよ!!
(由奈は俺のなんだから!)(ははは、わかってるよ)(わかってるとかなに、私は私のものです!!)
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