なんとなく10題(ボンゴレ+10) 09 雄々しくたえろ 私は不意に目を覚ました。 辺りを見回してみると、どうやら私は木に寄りかかって寝ていたらしい。 「どうして…」 何が起こったのだろう。 「ただいま帰りました」 そう言って、皆を連れて帰ってきて。 京子たちを失ったと思っているボスに、京子たちを返せば、噂どおりのボスになってくれると思った。 甘ちゃんで、マフィアには向いてない、ボス。 なぜか私は、そのときのボスに会ったことなどないのに、そっちのボスの方がボスらしいと思った。 「おか…えり…?」 真っ先に私を出迎えたボスの表情は、驚愕といったもの。 私ではなくて、私の後ろにいる京子たちを見ていた。 「ただいま、ツッくん。ごめんね、心配かけて」 京子が笑いかけて、隣にいたハルも笑って。 「ジャンニーニに知らせておいたはずなんだけど」 「じゃあジャンニーニが伝えるのを忘れてただけなんだ…」 「うん、そうみたいだね。僕たち、ただ旅行に行ってただけなんだよ、ツナ兄」 フゥ太が困ったように言えば、ボスは安心したように笑った。 本当に、笑った。 今まで見たことのない、優しげな笑みで。 でもそれは、ボスの表面でしかなかったことを、私は理解していなかった。 「…じゃあ名前は京子ちゃんたちを連れてくるために、いなくなったんだね」 「そうです。すみません、黙っていなくなって…」 「うん。詳しいことは後で聞くよ。…京子ちゃんたちは、お風呂とか入ってゆっくりしてきなよ。俺は、名前から詳しい話を聞くから」 「うん、わかったよツナ兄」 「了解しました!」 「あらツナ、気が利くじゃない」 「いいですねーお風呂」 皆が楽しそうに返事をする中、京子だけは。 「ツッくん、詳しい話を聞くだけだよね…?」 と、言った。 今思えば、京子だけはわかっていたのかもしれない。 「うん、そうだよ?」 そう言って笑って、ボスは私の手を引いて部屋に連れてきた。 それから、何があったか思い出せない。 ここはどこ? 必死に辺りを見渡すけど、私の傍には木と、河しかない。 「目を覚ましたの?名前」 不意に、空からボスの声がした。 「ボス?ここはどこなんです?」 「んー…、箱庭、だよ」 箱庭…。 ボスの部屋にあった、アレ…。 意味がわからない。 「どういうことですか…?」 「名前を小さくしてね、俺の部屋にある箱庭の中に入れたんだよ」 「…どう、して…」 「見るためだよ。名前がどこかに行かないように。ずっと俺の傍にいさせるために」 ボスは、可笑しくなってしまった。 そうとしか思えない。 きっと、優しいボスは、“ボス”という重圧に耐えられなくなってしまったんだ。 もう、甘ちゃんな沢田綱吉はいない…。 「ちゃんと名前の家も作ったからさ。使ってよ!気に入るといいけど」 楽しそうに言うボスの声が、空から降ってくる。 私は恐ろしくて顔を上げられなかった。 耐えるしかなかった。 ただ、ボスは誰かの喪失を、誰よりも、恐れているのだ、と。 そう理解した。 [*前へ] [戻る] |