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pkmn+α
2.5



コダックは倒した。立ち上がる気配のない事、他に敵影のない事を確かめたところで、彼女に怪我はないだろうかと不安になった。
見るからに華奢な人間の少女。掠り傷であれ負わせてしまっていたらと考えれば焦りが浮かんだ。
振り返り、眼に映った先にふらりと覚束ない足取りをこちらへ進めようとする彼女。
気が付けば全力で傍へと駆け寄っていた――。
震える膝にどこか痛めているのかと見上げれば、彼女はその場にしゃがみ込む。
柔らかく細められた瞳に真っ直ぐ映され、怯むような気持ちで視線を落とした。
「…ありがとう、助けてくれて」
すぐ傍で優しい声が礼を紡ぐ。
目線を合わせるために態々しゃがんだらしい彼女は、ぺこりと頭まで下げて見せた。
――仕えるべきマスターすら得ていない、凡骨たるポケモンに。
「…リオル?」
呆然と棒立ちになったのを不思議そうに、そして心配そうに見詰められて我に返る。
言葉より明確に伝わってくる感情は素直な感謝と微かな不安。それはそうだ。彼女のパートナーであるロコンは、未だその細い腕の中で意識を取り戻さずにいるのだから。
何よりの気掛かりを抱えて、それでもこうして“ありがとう”と同じ目線で伝えてくれる――その誠意を尊いと思う。

慌てて頭を振り、乱暴にならないよう腕を掴むと立ち上がるのを手伝った。
人間の少女の軽い身体は身長差と体格差を不利とさせず、難無く引き上げられる。
言葉を貰えたのは今日が初めて。しかし伝わる感情が切なくも心地よいから、傷も痛みも汚れすらも負って欲しくはないのだ。その身に目立つ怪我がないこと、膝やスカートの裾にも汚れがないことを確かめられて、ほっとした。
気が緩むと同時、強張っていた顔の筋肉も弛んだ気がする――と、指先が伸ばされたかと思えば頭を撫でられた。
人間の柔らかい皮膚。透き通るように薄くて綺麗な爪を備えた華奢な指先。
――優しい、手のひら。
そうして、彼女はふんわりと綻ぶような笑みを浮かべ、もう一度「ありがとう」と告げてくれる。
呼吸が止まるぐらいびっくりしたのには気付かれなかったらしく、でも、と言葉を繋げた。
汚れたら、洗えばいい――その意味する深いところを知ることになるのは、もっとずっと後になるのだが。



足りない背伸び



ただ守ること、傍にいること。
それすら確約のないこの時では、知る術すらなかったこと――。












『足りない背伸び』は選択式御題さまからお借りしました。


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