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一陣の風が吹いた(リオルと)




栗色の毛皮に包まれたちいさな身体は渦巻く水流によって宙に弾かれ、地面を数度転がり動かなくなった。

「ロコン…っ!」
血の気が引くのを感じながらもぬかるんだ土を蹴って必死で駆け寄り、水に濡れたロコンを腕へと抱えあげる。目を閉じ意識のない様子に泣きたくなったが、今はそんな場合じゃない。コダックの周辺に再び槍を連想させる水流が出来つつあり、直撃を受ければ無事では済まないことは確実。傷に障らないよう、しかししっかりとロコンを抱えて走り出したわたしの足を追うように水流が突き刺さる。衝撃と広がる水に足が取られてバランスを崩した。靴底が滑り転びそうになるけれど、それはどうにか堪える。けど。すぐ傍の茂みががさがさと大きく揺れた。
まさか、こんな状況で更に新手が。絶望的だと思えば思考も動きも止まってしまう。
一瞬。でも致命的な瞬間の隙に三度コダックが水流を繰り出そうとするのが見えた。膝をついた体勢では避けきれそうにない。覚悟を決めて、しかしロコンだけは守ろうと濡れてぐったりした身体を強く抱きしめた――。


草地を蹴る音にどんっ、と鈍く重い音が続き…、
……。
…………………。
「…………………あれ?」
でも、いつまで経っても想像した衝撃はこない。自然に固く閉じていた目を開いたわたしの視界に、これまた小さな青い背中か映り込む。ちょこんとした耳をそなえた丸っこい頭部。先端が少し曲がった太い尻尾――頭を押さえて距離を取ったコダックからわたしを庇うように立つのは、
「…リオル?」
どうやらさっき茂みから飛び出して来てコダックを蹴り飛ばしてくれたらしい、野生のリオル。
リオルは細い腕を振るってわたしに下がるよう促し、コダックへと構えを取った。かくとうタイプに相応しい隙のない所作は頼もしいもので、わたしは呆然としながらも僅かの安堵も覚える。
「守ってくれるの…?」
ぽつりとした問い掛けにリオルは小さく頷きで返して、力強く地を蹴るとコダックへ距離を詰めて行く。
そう。その小さな背中は本当にわたしを守るために現れてくれたようだった。




一陣の風が吹いた







title.『星空ロマンチカ』さま



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