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炭酸水(イラさんと/夢100)




休暇に訪れた、潮風の吹き抜ける海沿いの街。白い外壁の建物が通りに並び、歩道に使われる石畳もまた白い。夏の強い陽射しが降り注ぐそこは眩い光に溶け込むようだった。

――光に溶け込む景色。しかしそこで寛ぐ人々までもがだらしなく溶けているのはどうなのか。
海を臨む遊歩道脇に備え付けられたカラフルなパラソルと白く丸いテーブルセットは生憎と満席で、僕とメイは砂浜に降りる階段から少しずれた高台の端に座って話していたのだが――。
小高い場所な分砂浜の様子が見て取れ、僕は沸々とわき上がる怒りの衝動と戦っていた。
いくら夏の暑さと観光地ゆえの開放感に浮かれていたとしても、肌も露に無秩序に寝転び、またはそこら中で喧騒を撒き散らす様にはどうしても苛立ちが渦巻く。
「…こうもだらけた様子を見てると、思わずその緩んだ姿勢を正したくなるね」
「イラさん」
押さえ付けるつもりが胸に蟠る怒りの一端が口をついて出た、その瞬間。柔らかい声音が僕の名前を呼んだ。
隣で楽しそうに海を眺めつつ炭酸水を飲んでいたメイが、カップから手を離して真っ直ぐにこちらを見詰めていた。
冷たいものが頭の芯を痺れさせる。
「…! ごめん、君といるのに…っ!?」
弾かれたように彼女の方を向いて謝る言葉を紡ぐ途中、ほんのりとした温もりが手の甲を包むように触れた。
「イラさん。今日はこんなに天気が良くて、暑いけれど気持ちのいい風が吹いていて、海はどこまでも青くて綺麗です」
空と海の青をその澄んだ目に映すメイは、柔らかな笑みを浮かべて僕を見つめる。
「浜辺にいる人たちも、道行く人たちもみんな楽しそうです」
弾む声音で彼女がそんなことを言うから、無責任で無秩序な馬鹿騒ぎも、開放感に溢れた楽しげな歓声に思えてくるから不思議なものだった――。
出逢った時からずっと、メイに僕は救われ続けている。
誰も繋いではくれなかった手をこうして取ってくれて、どれだけ自分を律しようとしても抑えきれない三度目の衝動も、柔らかな温もりで溶かしてくれた。
彼女が離れて行かないように、この手を離さずにいてくれるように。憤怒の一族なんて言う厄介な血が齎す衝動に、自分の意思で抗える強さが欲しいと心から願う。
「…ありがとう。君の手は不思議だね…こうして触れているだけでこんなにも心を穏やかにしてくれる」
優しい体温に感情が落ち着いていくのを感じ言葉にした僕へと、彼女は僅かに目を伏せ小さく声を紡いだ。
「イラさんが色々な事を見過ごせない、不器用で優しい人だって知っています。でもこんな気持ちのいい休みの日には少しだけ目を瞑って楽しんで欲しい。私はいつもイラさんといると楽しくて幸せですから」
「……メイ…」
「い、イラさん…?」
両腕の間に閉じ込めたメイの動揺した声をきかながら、本当に彼女はわかっていないと思う。
楽しくて幸せ――それはいつだって僕がメイに貰っている感情だ。自分でも三度目以降は決して制御出来なかった憤怒の激情。独りなのは当然で、傍にいてくれる誰かなんて望むべきじゃないと諦めていたのに。
でも――メイはこんな僕の手を取って、こうして一緒にいることを選んでくれた。
重なる掌の熱が胸に染み込むようで、優しい柔らかさが心まで温めてくれる。激情に呑み込まれてしまいそうな気持ちを、ただひとり掬い上げてくれた彼女。
どうかこれからも僕から離れずに隣でずっと笑っていて欲しい。
そんな願いを込めながら、僕はメイを強く抱き締めた。





しゅわしゅ、わ、り、




炭酸の泡が弾けて水に溶け込むように、君と触れ合って僕の怒りは溶け消えていく――。















あれ、1シーン入らなかった。




『しゅわしゅ、わ、り』は花洩さまからお借りしました。
20160830



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あきゅろす。
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