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黎明に触れる指先(FEif/レオンとカム子)


その時彼女は城壁にひとり佇んでいた。
吹き抜ける風を楽しむように、僅かに伏せた瞳が遠くを映す。鮮烈な色合いの紅瞳は翳りを帯びれば酷く儚げに見えた。



普段の少し抜けてておっとりした彼女にはない僅かな近寄り難さを覚える姿。ためらいつつも石造りの回廊に歩みを進め、レオンはそっと声をかけた。
「――メイ姉さん」
豊かに波打つ髪を揺らし振り返った彼女は、黒衣を纏う義弟を視界に認めると柔らかな微笑を湛えてみせる。
「レオンさん」
「こんな所に一人でいるなんて珍しいね。探したよ」
いつもの姉が向ける笑顔にほっとしたのは内心だけに留めて叩いた軽口に彼女は申し訳なさそうに眉を下げ、小さく謝った後で城壁の外に広がる景色を指し示した。
「今日は天気が良いですから。ここからだと遠くまで見渡せて気持ちいいんですよ」
ふわふわと白い煙をあげる食堂の煙突、桜並木の彩りと、実り豊かな田畑の向こうに青々とした山の稜線。
高い空の下に横たわる光景は、今が戦の最中であることを忘れる程に平和そのものだ。
「…早く私たちの世界にも取り戻さなくてはなりませんね」
白夜には光の元の平穏を。
暗夜には闇の元の安寧を。
誰も争うことなく、奪い合うこともしない。その上で富みと豊穣の恵みを分け合える世界を両国が手を取り合い、目指していけたらと――。
正直レオンとしては甘い理想論だと思う部分もある。
一度、暗夜と白夜の間で開かれた戦端のしこりはすぐには消えず、国民間の感情だってそう簡単には変わらない。
けれど――
今回の戦で彼女の元、長い戦いの中にあった暗夜と白夜の王族は協力することが出来た。
行動で変化は手繰り寄せられる、それを教えてくれた彼女が傍にいるなら。
「…そうだね。いつか少しずつでももっと良い方向に世界が変わっていけたらいいって、僕も…そう思うよ」
「はい!」
嬉しそうに頷くその笑顔。
胸にあった、メイが手の届かないどこか遠くに行ってしまいそうな、消えてしまいそうな不安が小さくなるのを感じて――レオンもまた微笑を返した。




黎明に触れる指先



「…そういえば、レオンさんは私を探していたんですよね?」
何かありましたか、とメイが小首を傾げる。
束の間逸れていた思考を再び結び直し、レオンはここに足を運んだ本来の理由を口にした。
「姉さんがくれた楽園の招待券、マークス兄さんが勝ち取ったよ」
「そうですか。楽しんで貰えるといいのですが」
普段から暗夜王国の第一王子としての責任感から色々と背負いがちの兄を想えば、少しでも良い気分転換になってくれたら嬉しいと――。
「大丈夫じゃない? 少なくとも普段の執務からは離れるんだし、その分は休めるはずだよ。それより配下の二人にも土産を頼まれてたみたいだし、姉さんも何かねだってみたら?」
「いえ…この機会にマークス兄さんが休息を取れるのが一番ですから。私が我儘を言うなんて出来ませんよ」
「ふぅん…」
生真面目な物言いにレオンは密かに溜め息をつく。メイのお願いなら兄は何を差し置いても叶えるだろうし、それが我儘なんて思わないだろう。
――なんと言っても彼はメイに甘い。
「本当は全員分の招待券、当りを引ければ良かったんですけど」
「? 姉さんもやっぱり行きたかったの?」
確かこんな戦時に総大将である自分が軍を放り出して遊ぶ訳にはいかない。その分きょうだいの誰かに自分の分まで楽しんで来て欲しいと、そんな理由で招待券を譲り渡したと記憶していた。
しかしメイが行きたいのを我慢しているなら、それはきょうだい全員望むところではない。統率者として役目を果たそうとする気持ちは立派だが、それこそ彼女が休暇を楽しむためなら満場一致で役割を肩代わりするぐらいの決意はみんなが持っているだろう。
レオンの言葉にメイは首を振る。
「暗夜で育った私達は海を見たことがないから…興味がないと言えば嘘になりますけど」
「うん…?」
本意が読み解けず疑問を顔に出した弟を見詰めた後で、メイは城壁の外に広がる風景に目を向けながら言葉を紡いだ。
北の城塞に閉じ込められていた時には、きょうだい達が聴かせてくれる話と文献を元に想像するしかなかった、広い広い世界。
それは駆け出せば届きそうな近くにあって、でも戦の直中に軍を率いる者としての責任をすべて投げ出すことなど出来るはずがない。
それに何より叶うことなら――
「みんなで行きたかったです」
どこまでも続く空と海。打ち寄せる白い波に飾られた砂浜。見たことのない花や木々。
剣も鎧も手放して、楽園みたいな場所をきょうだい全員で。
遠い憧れを滲ませた双眸をメイの横顔に見たレオンは、呆れを隠そうともしない溜め息をついた。
「なんだ、そんなこと」
「…え?」
「そんなのはさ、全部終わらせた後で叶えればいいだけじゃない。戦争を終らせて、人々の生活に安定を齎せた後なら僕達だって自由な時間を楽しむことぐらい許されるはずだからね」
酷く難しい事を至極平然と言い、レオンはきょとんと瞳を瞬かせるメイに口角を上げてみせた。



†††


「…さ、それじゃあ勉強しようか」
「ええっ」
「時間は有効利用しないとね。行く場所が時間の流れが違う異界とは言え、兄さんが戻るまではそれなりにかかるんだから。僕達は僕達で、此方側で出来ることをやるべきだろ?」
「……そ、そうですよね。レオンさんに先生を頼んだのは私ですし。…でも、レオンさんはいいんですか? この機会に少しだけでも皆さんに休暇を楽しんで貰えたらと思ったのですが」
「別に構わないさ。姉さんに勉強を教えるのは僕自身のためでもあるし」
「え…?」
「ほら、行くよ」
「あ…それじゃあ、お願いしますね。レオンさん」
「さすがはメイ様、素晴らしい向上心にこのジョーカー、感服するばかりでございます」
「!? ジョーカー!?…あんた、いつから…!」
「これはレオン王子、可笑しな事を。メイ様の影差す所、その執事たる私が在るのは当然でしょう」
「……気配を殺してとかはおかしいだろう。いつから聞いてたんだ」
「勿論最初からですが」
「ジョーカーさんですからね」
「はい、御理解戴けていて嬉しいです。それではメイ様、後程お部屋の方に紅茶をお持ち致しますね」
「よろしくお願いします」
「……………姉さんはもう少し自分のプライバシーについて尊重した方がいいと思うよ」













ストーカー大量過ぎだと思う主人公周り。

15.10.12



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あきゅろす。
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