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one dolce(FE覚醒/ガイアとルフ子)



軍略会議用に設えられた天幕に一人、夜も深まる中でメイは大きな机に大版の地図といくつもの資料を広げて思案を続けていた。
聖王エメリナを救出する――そのためには策も、取るべきルートも綿密に練り、万に一つの間違いも許されない。
薄氷を踏むような、細い糸を辿るような、それは恐ろしく無謀な賭けではあった。



「多数の竜騎士を抱えるペレジアを相手に砂漠での戦いはこちらの消耗が激しい。…でも…」
何度も何度も地図を見直し推考を重ねたが、迅速かつ寡兵での進軍ルートとして導き出される結論は一つだけだ。
砂の海では方向を見失うのは容易く、安全な野営場所を見付けるのも難しい。
イーリスの兵にとっては国王が。何よりクロムやリズにとっては肉親が囚われ命の危機に晒されている極限状態。少しでも負担を減らしてあげられたらと思うのに現実は厳しい面しか見せてくれない。
「…最良はここを行くしかない、ですね」
「邪魔するぜ」
小さくメイが溜め息を落とした時、飄々とした声と共にばさりと無遠慮な音をたてて天幕の入口の布が払われ一人の青年が姿を見せた。
夕陽色の髪に黒い布を巻き、纏った衣裳も黒系で纏められた夜闇に溶け込むような格好。
ガイアさん、と青年の名前を呼んだ娘は小首を傾げる。
「もう夜も遅いですよ。行軍は明け方前ですし、早く休まないと身体に悪いです」
「………………………ハァ」
呆れも隠そうとしない顔でメイをしばし見つめた後、ガイアは深々と溜め息を吐いた。
「な、なんですか、その反応」
心配してるのに、などと言い募るメイの頭を革手袋を嵌めた掌が軽く叩く。
「それはこっちの台詞だろ。お前、昼間の軍議から全然休んでないだろうが」
「今出来るだけの策を講じるのが私の役目ですから」
「そうやって一人で背負い込んでお前が倒れちゃ意味ないって分かってるか?」
此方こそ心配してるのだと伝わる真剣な顔付きで言われたメイは少しだけ瞳を伏せ、小さく頷いた。
「…大丈夫です。もう少ししたら、ちゃんと休みますから」
「全く信用してみる気にならない言葉だな」
「ひどいですよ、ガイアさん!」
堪らず声を上げたメイを軽く掌で制し、ガイアはベルトに挟み込んでいた紙片を取り出す。
「――ま、こんな状況下で無理しない奴じゃないよな、お前。って訳で、これは土産だ」
「…え?」
机の上に畳んでいた紙が広げられた。描かれているのは地形のようで、それは今も机を陣取る大陸地図の一部に重なる部分がある。
岩山と砂礫の海が大部分を占める中にぽつぽつ付いた印。
「これは…この辺りの簡易地図ですね」
「急いで描いたから雑だがな。で、印の付いてる場所は地図に載ってない小さな集落だ。駐留は好まれなくても水や多少の食料なんかは融通してもらえるだろうよ」
「…調べてくれたんですか」
ぱ、と顔を上げたメイから目を反らして、ガイアはがしがし頭を掻きつつ言った。
本当にこんなのはらしくないと思う。
「密偵や斥候に割ける人員だって今回限られてるんだろ? 使える駒なら全部使えばいい」
「ガイアさん…。ありがとうございます」
ようやく綻んだ笑顔を見せる、まだ大人とは呼べない年齢の娘のそんな姿にほっとする――らしくはない。しかし同時に悪くないとも思い、ガイアは自分自身に苦笑した。

「…じゃあ、俺はもう行くが、お前もそろそろ休めよメイ」
「はい。もう少しだけルートを見直したら寝ようと思います」
「お前本当に頑固だよな」
やれやれと肩を竦めたガイアは踵を返しかけ――思い出したように懐を探る。
「ガイアさん?」
きょとんと目を瞬かせたメイの口に突然甘さが広がった。
押し込まれたのはロリポップ。
状況を飲み込めず困惑も顕な隙だらけの顔を見てると生じる感情もあったけれど、それからは意識を背けてガイアは悪戯気に笑って見せた。
「頭使って疲れたら甘いもの、だろ?」




one dolce



一度捲られ再び閉じた天幕の入口。一瞬掻き混ぜられた空気が落ち着いた時には一人の空間に戻っていた。
呼び止める間はもらえず、残されたのは口内の甘さだけ。
「…もう。いつも突然なんですから」
気遣ってくれた優しさと疲れを癒す甘味の報酬は何が相応しいのか――ほんのりと口元を綻ばせたメイは残りの仕事を片付けるべく机上の書類へと手を伸ばした。












タイトルは『悪魔とワルツを』さまからお借りしました。


15.10.16




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あきゅろす。
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