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毛布の隙間から見上げた空はぼんやりとした薄墨色で、じっとしていると溶け出したそれが頭上からとろりと降りかかり、呑み込まれてしまうんじゃないかと不安になる。
風が揺らす木の葉のざわめき。昼とは違う虫や鳥たちの鳴き声が不気味に響き、焚き火で照らされた狭い空間の向こうに広がる暗闇により濃く黒い影が踊る。
街から街への間、陽が落ちた森の中で夜を越すのは苦手だった。

顔を上に向けたせいで背中の方へ少しずれた毛布を目深に被り直して、小さく息をつく。
視界の端、傍らで小さな体躯を丸めたリオルは穏やかな寝息をたて眠っていた。仲間になってくれたばかりですぐモンスターボールの中というのは寂しいと思うし、仲良くなりたいとも思って、こうして側にいてもらってる。
安心して睡眠をとっているということは、信頼されてる証であるはずで。となれば、夜闇が怖くて眠れないなんて情けないこと言ってられない。
早く寝てしまおう。次の町への道のりも、夜が明けるまでの時間も、まだまだ遠い。今はしっかりと休むべきなのだから。


――なの、だけれど。毛布の前をぎゅっと手繰り合わせて目を閉じれば、視覚が閉ざされたことで鋭敏になった聴覚に周囲の物音が一段と強く響くようだった。こわい。
「……ぅ、ねれない」
閉じた瞼の裏に入り込む、揺らぐ焚き火のあかい光がまた胸をざわつかせて、どうにも落ち着かない。仕方なしに再び瞼を持ち上げた。眠気も確かにあるというのに、心臓が慌ただしく動いて眠れないとかすごく不本意だ。
はぁ、と胸で重たくわだかまる不安を息と共に吐き出したとき、傍らからそっと頭を撫でられる。視線を向ければ眠っていたはずのリオルが起き上がっていて、その黒くて短い毛の生えた獣の手が頭の上に置かれているのがわかった。人のものよりずっと高い体温が毛布と髪の毛を通して伝わってくる。
どうしたのかと疑問に思って顔を合わせれば、大きなあかい瞳が真っ直ぐに見つめてた。
「リオル…?」
どうしたのと名前を呼べば、紅玉のように透明できれいな瞳がゆるりと細まった。不意にあたまが近付いてきて額がわたしの頭にこつりと当たる。触れた部分から何かふわりとした柔らかな温もりが広がって身体全体を包み込んだ。暖かく揺らぐ空気にも似たそれは、はもんポケモンであるリオルから放たれる“気”の力なのだとわかる。
これは、不安を感じてるわたしを気遣ってくれてるんだろうなぁ…。
マスターとしては情けないことだけど、不安を和らげようとしてくれてる気持ちはすごくすごく嬉しくて。強張っていた肩から力が抜けるのを感じた。
「…ありがと、リオル」
触れ合った額はそのままに、小さな肩へと手を伸ばす。ぎゅっと甘えるように抱きしめても、リオルは嫌がる素振りもみせずにいたから。温もりの心地よさを目一杯享受してしまおうと思う。


小さくて温かな身体と寄り添いあって目を閉じるうち、波立つ不安は徐々に消えて。
いつしか穏やかな眠りへと落ちていった――。



ちいさなおまじない



たいせつなきみにおとずれるねむりが
どうかやすらかなものでありますように
ねむりからさめたきみが
どうかやわらかなえがおでありますように
あわさったぬくもりがきみのこころをおだやかにできるといいと
うすく きゃしゃなせなかにまわしたうでに ちからをこめた









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あきゅろす。
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