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ウィーズリーたちと(はりぽた)




フレッドとジョージに引きずられるように去って行くメイは酷く蒼白な顔をしてたから――嫌な予感はあったんだ。



●●



ハリーと二人で座席いっぱいのお菓子を片っ端から口に運んでいる最中、コンパートメントの戸が勢いよく開かれた。
「〜〜〜…っロンー!」
向き直る暇も与えず、駆け込んできた人影がそのまま突進してくる。体ごとぶつかってきたかと思えば絞め付ける勢いで首に両腕が巻き付いた。
「いやだって! いやだって言ってるのにっ! フレッドもジョージもヒドいよー!!」
リーが持ってきたタランチュラを見に行く双子にムリヤリ連行されてったメイ。虫が大嫌いな彼女にしてみれば憤懣やる方ない思いを少しでもぶつけたいのは、蜘蛛嫌いの僕も分かり過ぎるほど分かるんだけど。
でもこれ、絞まってるから!
「ゆ、…メイ……」
細い腕のどこにこんな力が、と内心おののく。そろそろオチそうだった。
「…あの、…それ入ってるから」
絞め落とされる寸前。視界が妙に暗くなり始めた時、横手から戸惑うような声がそっと割って入ってくれた。第三者の静かな声に、ぼろぼろ涙を零しながら手加減なしでぎゅうぎゅうと首ねっこに抱きついていた腕の力が抜ける。
ようやく呼吸が自由になって、酸素のおいしさを噛みしめた。ハリーに礼を言うと、彼は「どういたしまして」と笑ってくれる。いい奴だ。
「あ…、ごめんなさい」
大きく深呼吸を繰り返す僕にメイは涙目のまま頭を下げる。水の膜が少し灰がかって見える黒瞳の表面を覆ってゆらゆらと潤む様は何故か罪悪感を擽られるもので、僕は慌てて首を振った。
「大丈夫だよ! メイこそ、災難だったよなー、タ、タランチュラ…なんて………」
口に出すと毛むくじゃらの足とごそごそ動き回るソレが頭に浮かんで、鳥肌が立つ。僕の胸に縋りついたままのメイも身震いしてた。
「そう、だよ…っ。二人とも私が虫ってゆう虫ぜんぶダメなの知ってるのに! なんでわざわざ連れてくの!?」
がくがく震えつつ再び激昂するメイだったけど、それについては、たぶん、分かる。
フレッドもジョージもメイのことはスゴく気に入ってるから、どうしたって傍から離したくないんだ。ホグワーツでは学年が違うから、休み中と違って常に一緒にはいられない。少しでも多く長く、一緒にいたいっていう独占欲なんだろう。あと、気に入った子をちょっと苛めて反応をみたくなる子供っぽい心理。
かわいいからこそ意地悪したいなんて、メイ本人には言えないけど。
ともかく、メイがあの二人のお気に入りであることは間違いないことで、………こんな風に抱きつかれている状態は役得な反面、非常にマズいような気がする。見られたら何されるか、考えただけで血の気が引く思いだ。
もったいないけど。ほんっとうに、もったいないけど。
「あのさ…、メイ……」
「「メイ!!」」
惜しむ気持ちを振り切って身を離そうとした、まさにその瞬間。コンパートメントの戸が勢いよく開かれて、聞き慣れた今は一番聞きたくないユニゾンボイスが飛び込んできた。
びくりと体を強ばらせたメイは僕の背中に隠れようとしたけど、それより早く伸びてきた四本の腕がメイの肩と腰を優しく絡めとって攫っていく。
「や…っ」
「「…メイ、ごめん」」
とっさにといった様子で双子の腕から逃れるべく身じろいだメイは、絞り出すように紡がれた二人の真剣な謝罪に動きを止めた。
「意地悪するつもりじゃなかったんだ」
「反省してる。…一緒に戻ろう」
深い後悔と反省を滲ませたジョージとフレッドの声は誠意に溢れている。
僕は驚愕した。…どんなイタズラをしたって、双子が人に対して本心から謝ったことなんてこれまでないのに!
しかしメイは目にいっぱいの涙をためたまま、ふるふると首を振った。
「や、やだ………クモいるとこ、やだ」
雨に濡れた子猫を連想させる潤んだ大きな双眸に見上げられた双子は動揺も露わに一瞬固まったが、すぐに柔らかくメイの頭を撫でて宥めながら必死の形相で言葉を紡ぐ。
「もういないよ!」
「リーは他の奴にタランチュラ自慢しに行ったから!」
「「だから、戻ろう」」
「ほんとに…?」
「俺達はいっぱい嘘つくけど」
「メイのことは騙したりしないよ」
「「もし嘘だったら舌を切り落としたっていい」」
二人の間にほとんど抱き込まれた体勢で、至近距離から交互に、そして声を合わせて訴えかけられ、ついにメイはこくりと頷いた。
「…わかった、……信じる」
「「メイ!!」」
それまでも近い距離にいたのに、隙間すらなくなればいいとばかりにぎゅう、っと。それはもうぎゅうーっと、双子はメイを抱きしめ、それから名残惜しげにそっと身を離して彼女の背中を押しながら開きっぱなしのコンパートメントの戸口をくぐる。
ジョージもフレッドもすっかり僕たちのことなんて視界から外れていると思ってたのに、双子は通路に出たところで肩越しにこちらを振り返った。
「――ロン」
やたらと優しげな声音で僕の名前を呼んだジョージの視線は反対にひどくひんやりした冷気をまとっていて、
「メイを慰めてくれたご褒美に、後でたっぷりお菓子をくれてやるよ」
言葉を繋いだフレッドがこれまでになく優しい笑顔を見せるのに、何故だか僕は胸と胃が重くなったのだった――。




御愁傷さまです



「……えぇと、なんていうか………お気の毒さま」
静かになったコンパートメントの中。
労るように肩を叩くハリーの言葉に、僕は泣きたくなった。





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あきゅろす。
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