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FunnyShortStory
平和島先輩とヨシヨシ




――僕の先輩は、自分の手が好きではないらしい。


力の加減を少し間違えば、コンクリートも鉄も軽々と破壊する手。そんな力を持ってしまったら自分自身が一番怖いだろうと想像は出来る。握りしめただけで、大切にしたいものを粉々にしてしまうかもしれない。その『もしも』を思うだけで、どれだけの恐怖だろう。
でも、僕はその手がそっと慎重に恐々と伸ばされて、優しく撫でられる心地よさを知っているから。
平和島先輩が自分自身で厭う手は、僕にとって何よりの安心を与えてくれた。家族以外の年上に頭を撫でられることも、先輩と呼べる相手が出来たことも初めてだったこともあるかもしれない。しかし、大きな力強い手に触れられるのは不思議と安堵するものだったのだ。
先輩の手が好きです、なんて口に出すのは気恥ずかしくて言えない。
ただ、今日は風が冷たくて、屋上の給水塔の陰になっているこの場所には平和島先輩と僕しかいなくて―――だから。
「…平和島先輩」
僕はフェンスに凭れ掛かってぼんやりしている先輩に歩み寄ると、力なく垂れた大きな手に自分の手を重ねた。
今日も喧嘩を売ってきた相手を反射的に殴り飛ばしてきたらしい。落ち込まないで欲しい。争いを望んでない平和島先輩が、穏やかに過ごせればいいのに。
「三好?」
驚いたように見開かれる琥珀色の両眼にそっと笑いかける。
ポケットから出した僕の手は冷たくなっていて、少し熱く感じるぐらいの平和島先輩の手が心地いい。
「チャイムが鳴るまででいいです。僕の手、温めてくれませんか?」
「…三好…、」
ぐ、と喉を詰まらせたように平和島先輩は言葉の先を失い、それと同時に僕は先輩の胸に引き寄せられていた。
「…チャイムが鳴るまででいい。抱きしめてて、いいか?」
囁くような低い声音にもちろんですよ、と答える代わり――僕は平和島先輩の背中に回した腕に力を込めた。




その温もりで溶かされる

澱みたいな自己嫌悪も、怒りも――…全部。



冷たい温度であたためられているのは、いつも俺の方なんだ。






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