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小ネタまとめ・11月分@


何が出ても許せる心の広い方のみスクロールお願いします。












「みーよし」
ジュンク堂で雑誌を買った帰り道。駅に戻る途中で妙な節つきで己の名前を呼ばれ、三好は振り返る。こんな風に自分を呼ぶ知り合いを、三好は一人しか知らない。
コンビニの壁に寄りかかっている青年が、黄色いバンダナを巻いた手をひらりと振っていた。

「暗くなってからの一人歩きは危ないってー」
自分から近付かなければ動かないかと思えば、彼はゆるい足取りを進めて三好の隣に並ぶ。顔を覗き込むようにして諭され、三好は少し眉を顰めた。まだ7時前だ。
わずかに機嫌を損ねたらしいことに気付きながらも、青年はいつものにやにや笑いを崩さない。珍しく口元にくわえられたロリポップが甘く香る。
「心配してるってことだよ、最近物騒だから」
言ってることは尤も。しかし喋るたびに唇の動きに合わせて飛び出した白い棒がひょこひょこ動き、説得力はまるでない。
「…もう、帰るよ」
何となく不本意なものを感じながらも、特別用事があるわけではない。意地を張って揉め事に巻き込まれては、確かにばかばかしいわけで。
それじゃあ、と別れようとするより早く青年は歩きはじめていた。三好の前を、駅方向へ。
「え、…?」
「なにやってんの、置いてくぞー」
半身振り返った青年にこいこいと手招きされ、三好はちいさく首を傾げた後、足を早めて追いかけた。


「家、こっち?」
「んー」
駅までの道すがら隣に並んで訊ねてみれば、生返事が帰ってくる。どうなんだ、それ。
ちょっとした抗議を込めて見上げた先、視線がいくのは白い棒で。
「…甘いの、好き?」
ひょこひょこしてるそれを見詰めたら、八重歯を剥き出してやにさがった顔が向けられた。
「べつにー。貰っただけだし」
「…?」
「トリック・オア・トリート」
「え?」
「…って言ったら、三好は何くれる?」
「えぇー…?」
――Trick or treat。
お菓子をくれなきゃイタズラするぞ。
…………って、いきなり言われても。三好は何かなかったかとパーカーや制服のポケットに手を入れて探ってみたが、なにも入ってなかった。
ふるふると頭を振る。
「ないで、ふぁっ!?」
三好が開いた口の中になまあたたかくて少し表面がとろけた、あまったるいそれが突っ込まれた。
「じゃあ、イタズラな?」
「…っ!?!?」



キャンディ・シュガー・ロリポップ



口内に残るあまったるさは、しばらく消えそうにない。



「……こういうのは、誰にでもやっちゃダメだと思う」
「誰にでもなんかやんないってー。特に男なんかには」
「……僕、男なんだけど」
「知ってるけど」
「じゃあ、なんで…」
「だから、三好だけだってー」
「…………はい?」
「三好だけだよ」




(ハロウィン、八重歯の兄さんとヨシヨシ)






(臨也さんに独善的な答えだと言われたので、谷田部くんに訊いてみました)



「不幸が一切無い世界がありました。その世界で、虫は蜘蛛の巣に捕まる事はあるのでしょうか?」



「――俺だったら、」
廃工場。コンクリートがうちっぱなしの壁に寄りかかり、谷田部は三好を見ることなく口を開く。
「俺だったら、虫を捕らえる蜘蛛の糸を断ち切りに行く」
「え?」
なんだか問いかけに対する答えにしては、方向がずれたように聞こえて三好は首を傾げた。
谷田部は睨み付けるように強い視線を高い窓から見える小さな空へやったまま、ゆっくり拳を握りしめて先を続ける。
「例え『虫』自身が蜘蛛に喰われることを望んでたって、それが『虫』にとっての幸せだったとしたって、…俺がその『虫』の仲間だったら――その『虫』が…大事なダチだったら、会えなくなるなんて嫌だ。何もしないで諦めるなんて、絶対に…」
自分の気持ちにさえまだ名前を付ける勇気がなく、目を背けたまま『ダチ』っていう曖昧で便利な関係に甘んじているのに。割って入る資格なんてないと分かっていても。
二度と話せない、触れられないなんて嫌だ。
誰かのモノになんて――、

「…谷田部くんって、かっこいいね」

爪の先が掌に食い込むほど固く握りしめた手から力が抜ける。
ぽつりとした三好の呟きに谷田部は目を見開いた。思わず三好の方へ視線を移す。
三好は、まぶしいものでも見たように大きな目を細めて谷田部を見上げていた。
素直に、まっすぐ見つめられて、谷田部は耳まで熱が上がるのを感じる。慌てて三好から視線を引き剥がし、腕で顔を隠した。
「っ……何がだよ。自分の我を通すってだけだろ」
「僕は、自分だったらって、相手にとって役に立てたらそれでいいって、そのことしか考えなかったから」
虫の仲間が、取り戻したいほど強い思いを抱くかもとまでは予想もしなかった。

みんながみんな幸せになるって難しいね。

谷田部の言葉の裏側に潜む真意には気付く様子もなく、生真面目にそんなことを呟く三好。
そりゃあ難しいに決まっていると、谷田部は心の中でだけ深く息をついた。



他にない綺麗な羽を持つ貴重な蝶。それの捕食を赦されるのもただ一つの存在となれば、退かず譲らず手に入れるまで足掻くしかないのだ。



(渡したくない谷田部と気付かないヨシヨシ)




(静雄さんの場合)



「――大事にする。自分の自由投げ捨ててでも傍にいることを選んでくれるってなら、傷付けたりしねえようにするから。ずっと――傍にいてくれ」




(無自覚でヨシヨシに対して口説き台詞を口にする静雄さん)







「臨也さんて、ろくな最後を迎えられなさそうですよね」
手ずからカップへと注いだ紅茶にミルクを入れてかき混ぜながら三好が言った台詞に、臨也の片眉が上がった。
「何なの、いきなり」
若干低くなった声に気を悪くさせたことは分かっただろうが、三好は渦を巻いた白が透き通った綺麗な赤をにぶく濁らせていく様を見つめたまま口を開く。
「たくさんの人を陥れて傷付けて。直接あなたが手を下したことはなくても、命を絶たれたり人生を狂わされた人だって数知れないですよね」
「だったら? それを知った君は、俺に説教でもするつもりなのかい」
つまらなそうな声音に、三好は首を振った。
そんなこと無意味でしょう、と。
「これからどれだけの時を一緒に過ごしたって、僕にあなたを変えることが出来るとは思えません」
傍にいることで、自分たちの間にあたたかな何かが生まれることはないだろう。
だけど――、
「もしもの時は、傍にいますよ」
「何それ。俺が死ぬ時ってこと」
すうっと秀麗な顔から表情を消した臨也に、ようやく三好は視線を向けて。
澄んだ双眸をやわらかく細めてみせた。

因果応報。人はいつか酬いを受けるものだ。
畳の上で――と言うような穏やかで幸せな最後を迎えるとは思えないこの人。
残酷で身勝手だと知っても。それでも、嫌えない。
放っておけない、突き放せないなら、選べる未来は一つだけだ。
「これからも傍にいます」
一人孤独の中で逝かせたりしないから。
「だから、もしもの時は僕で我慢してください」
包みこむような笑顔を浮かべる子供の顔を見返して、臨也はため息をついた。
「馬鹿じゃないの」
仕事用のデスクをするりと回ると、黒革のソファーに腰掛ける三好の傍に立つ。肘掛けと背もたれに両腕をついて、三好の逃げ場を奪った。
「そんないつ来るかもしれない不確かな未来のことを案じるぐらいなら、今ここにいる俺のことを考えなよ」
暗紅色の双眸を細めて、三好との距離を詰める。
遠回りな、傍にいるなんて誓いよりも。
「…俺が好きだって、素直になればいい」
何か言おうと開かれた三好の唇が言葉を紡ぐよりも早く、臨也は噛みつくように己のそれを重ね合わせた。




(臨也とヨシヨシ)







いつもの廃工場。普段よりだいぶ早い時間にやってきた将軍・正臣と、その後ろに隠れるように白いパーカーに赤茶の髪の少年が続く。
「将軍、三好! 早かったすね」
谷田部と仲間たちが、待ち兼ねたように場を開けた。
「あ…あー、ちょっとな」
目をあさっての方に逸らして、正臣が頭を掻いた。その背中に半分身を隠す立ち位置の三好は、口元を両手で覆って俯いたままだ。
明らかに様子がおかしい。
「三好…? どうしたんだよ、……具合悪いのか!?」
谷田部が詰め寄って薄っぺらい両肩に手を置いた。三好は一瞬びくりと谷田部の顔を見上げたが、必死に首を横に振る。口元は隠されたままで、一言も声を出さない。
「…三好…?」
心配そうな谷田部の声に、三好は眉を下げて顔を伏せるともう一度小さく首を振った。
「…いや、あのな谷田部――」
正臣がまあちょっと落ち着けと肩を叩くが、どうにも谷田部には届いていないようだ。
「声、出ないのか…?」
三好はふるふると首を振る。それが拒絶されているようで、谷田部の胸中を波立たせた。
「おい、谷田部――」
「じゃあ、なんで…」
真剣で切実さを滲ませる顔で谷田部は三好の言葉を待つが、三好は困った様子で目も合わせてくれない。
思わず谷田部の両手に力が入る。
ぎゅっと、強く両肩を掴まれた三好の口から――、
「…いたいにゃ」

廃工場内の時が止まった。



赤く染まった顔でしゃがみこみ、両腕で顔を覆い隠すようにして「だから嫌だったにゃ」と泣きそうな三好を、それより真っ赤になった谷田部が必死で宥めている。
その微笑ましいような滑稽なような光景を、少し離れたところから窺う正臣と仲間たちはぼそぼそと言葉を交わした。

「…語尾が“にゃ”になる呪いっすかー」
「意味不明」
「実際そうなんだからしょうがないだろ。そんなの、ヨシヨシ本人が一番思ってるっての。だからさ、学校いるのもつらいから、ここに連れて来たんだよ。お前らもあんまりからかうなよ」
「…まあでも、かかったのが三好でよかったっすよねえ。むしろアリって感じ?」
「だからなあ…っ!」
「だって、ゴツいおっさんが語尾に“にゃ”なんてつけて話してたら、オレちょっとどうするかわかんないっすよー」
「それは、まあ…俺も嫌だな」
「オレも、蹴り砕く」
「それは頼むから自重してくれ」
「――まあ、だから、三好は世界平和の尊い犠牲になってくれたってことでー」
「それでまとめるつもりか、おい!?」
「おーい、三好ー。おはようからおやすみまで一通り言ってみてくれねー?」
「やめろこらぁ! ケータイ構えんなお前らあぁぁ!!」
「平和」




(黄巾賊とにゃんこ言葉ヨシヨシ)




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あきゅろす。
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