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小ネタまとめ・11月分A


何が出ても受け入れ可能なおおらかな方のみスクロールどうぞー。












「静雄さん、ポッキーは好きですか?」
次の取り立て先に行くまでの短い休憩時間、公園で出会った三好が鞄の中から取り出したふたの空いた箱を静雄に振ってみせた。
ああ、と頷いてみせれば、三好は良かったと顔を綻ばせる。
「今日はポッキーの日だからって学校でもらったんですけど、食べきれなくて」
一緒に食べませんか、と誘う言葉に断る理由は何一つなく。二人はベンチに並んで腰を下ろした。
傍の自販機から静雄が買った缶ジュースを飲み、二人がかりで手を伸ばせばポッキーはあっという間になくなっていく。
丁度二本残ったそれを一本ずつ分けて、――先に食べ終えた静雄が半分の長さになったポッキーをくわえる三好の口元に手を伸ばした。
唐突に唇を固い親指の腹で撫でられ、三好がかくりと首を傾げる。口の中はポッキーを噛み砕いてる最中なので、喋れない。行儀悪いし。
「………チョコ、ついてたぞ」
そっと離れた指先が静雄の口内に消えていくのを見た三好は、つり目がちの双眸をおおきく見開いた。





「もう、シズシズの意気地無し! そこはむしろ唇で! ちゅーしちゃえばいいじゃない、ってゆうかするべきだよ! あんなにヨシプー隙だらけなのに〜!!」
「狩沢さん、もうちょっと小さい声で! 覗き見バレたらぎたぎたのぎにゃーっすよ!!」


(静雄さんとヨシヨシ+出るに出られなくなった狩沢さんと遊馬崎)







「ヨシヨシ。これやるから、食いながらちょっと待っててくれ」
黄巾賊のアジトである某所・廃工場。錆び付いた鈍い色彩の占めるその場で一際鮮やかな黄色のソファー、半ば強制的にそこへ座らされた三好に正臣からポッキーの箱が手渡された。
つぶつぶイチゴのポッキーを不思議そうに眺めつつも、待てと言われた三好は素直に頷くと箱を開ける。
一本目を口にくわえた三好の頭にヘッドフォンが乗せられた。結構な大音量で耳に響く音の奔流に三好は少し眉を寄せる。
見上げた先ではニット帽の青年が唇に人差し指を立てていた。
首を傾げながら、とりあえず自分には聞かせられない内緒の話でもあるのだろうと結論付け、三好はポッキーに専念する。
耳に届くのはデュラン・デュラン。渋いの聴いてるなあと感想を抱きながら、三好は歌声に身を委ねた。


三好の注意がポッキーとiPodから流れる音楽に集中したところで、正臣はステージ周りに集まるメンバーに声を上げた。
「んじゃ、ヨシヨシとのポッキーゲームをかけた三番勝負開始すんぞ、野郎共!」
『了解っす、将軍!!』

制限時間は三好がイチゴポッキー最後の一本を食べ終わるまで。
勝者は誰か――たった一つの座を巡って、今、熱い戦いの火蓋が切って落とされた。

『じゃんけん、ぽん!!』



(ポッキーゲーム争奪戦/黄巾賊とヨシヨシ)








デフォルメされた顔に付いたおっきなきょろんとした目はなぜか斜め上を見上げていて、どうあっても視線が合うことはない。ひょっこり伸びた長い二本の耳を含めると、全長は2メートルに届くだろうピンク色のウサギがカラフルな風船を配る様はひどくシュールだった。
風船を受け取る子供たちはおっかなびっくりで、まだ園児とも言えないような幼児に至ってはふわりふわりと紐に繋がれ宙を揺らぐ風船を物欲しそうに眺めるものの、巨大なウサギに近付く勇気は持てないようだった。

視界の端、紅茶色の髪を肩で揃えた幼女が赤い風船をじぃと見つめていることに気付いたウサギは、彼女の前にしゃがみこみ、ずいっとそれを差し出した。
赤い風船とウサギの顔(しゃがんでも上向いた視線はあさってを見てた)と差し出された紐に視線をうろうろさせるものの、受け取るまでにはいけない幼女。
微妙な間が流れた時。周囲を取り囲む人垣の隙間、白いパーカーを翻し軽い足取りですり抜けて現れた少年が赤毛を揺らしてウサギの横にしゃがんだ。

「僕にも風船くれますか」

下から覗き込むようにウサギを見上げ、にこりと笑う少年。ウサギは意を得たとばかりに小さく頷くと、持ってた赤い風船を渡す。
ありがとうございます。そう丁寧に告げて、少年は幼い娘に向き直った。
「はい、どうぞ」
温かみのある笑顔と共に胸の前で握った手のすぐ近くに風船の紐が差し出されて、幼女は一瞬きょとんと目を瞬かせたもののすぐにぱあっと満面の笑みを浮かべる。紐を掴んで、空を散歩する赤い楕円を嬉しそうに見上げた。
「ありがとう、おにいちゃん!」
「どういたしまして。ウサギさんにも、言ってあげて?」
「はいっ。ありがとう、ウサギさん!」
元気よく気持ちのいい感謝の言葉を受けて、傍らのウサギさんが纏う雰囲気が柔らかくほどけるのを、少年だけが気付いていた。
少年は、こちらこそありがとうと彼女の小さな頭を優しく撫でる。
くすぐったそうに肩をすくめて笑い声をあげると、彼女は母親に呼ばれてぱたぱた駆け出して行く。一度、途中で振り返り、大きく手を振った。並んで立ち上がったウサギと少年も手を振り返して、母親の腰にしがみついて風船を嬉しそうに見せている幸せそうな光景を眺めた。
ぽん、と少年の後頭部にピンク色のまふまふした手が触れる。
感謝とか嬉しさとかが伝わってきた気がして、少年はウサギの顔に笑いかけた。
「よかったですね、喜んでもらえて」
こくりとウサギの頭が揺れたその時、遠巻きにしていた子供たちがわらわらと集まってくる。風船を求めて伸ばされるたくさんの小さな手。自分の腰までしかないような子供たちに一斉に囲まれおろおろと狼狽える様子を見せたウサギの顔が、少年の方を向いた。
助けを求められたのがわかり、少年は眉を下げながらもウサギへと手を伸べて風船を半分受け取る。
ちょーだいちょーだいと騒ぐ子供たちに少年は呼びかけた。
「みんなー、ウサギさんは人見知りするから、ちゃんと並んで受け取ってあげてね」
赤毛の少年のにこにこ笑顔と、巨大なピンク色のウサギが醸し出す妙な迫力――そのシュールさゆえか子供たちはよいこのお返事をすると、時折押し合いながらも仲良く風船を受け取っては待ってる親兄弟の元へ笑顔で戻って行く。

――風船は、あっという間になくなっていった。




「あいつらみんな、嬉しそうだったな」
ウサギの被り物を外して出てきたのは、整った顔立ちの青年だった。
熱の籠もる着ぐるみの中にあった金髪はへたり、綺麗な線を描く頬にも汗が伝い落ちていたけれど、その表情は満足そうに見えた。
それをあたたかい気持ちで見つめ、少年はそっと言葉を紡ぐ。
「平和島先輩が、あの笑顔を作ったんですよ」
「いや、俺は風船配っただけだろ。お前が手伝ってくれたからじゃねえか」
心底不思議そうな顔をするから、三好はどうしようもない気持ちになる。首を振った。
「僕は何もしてないです」
自分は、きっかけを作っただけだ。
最初に紅茶色の髪の女の子に風船を差し出した、あの優しさがあったから――。
「平和島先輩が、がんば…っ」
言葉が不自然に途切れたのは抱き寄せられたからで、
胸が締め付けられるのは――…

「……礼を言われるってのは、悪くねぇな」
囁くような声が真摯で、ひどく優しかったから。

「ありがとな、三好…」




(バイトパラレル/着ぐるみ平和島先輩と後輩ヨシヨシ)




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