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無駄なものだらけの中、大切なひとかけら(静雄さん(→ヨシヨシ)+α)



短い休憩時間。昼飯を摂るため60階通りを歩いていた俺は、門田のとこのツレにつかまった。一見普通の、しかしそれぞれが目一杯に膨れたリュックを背負った騒がしい二人組。挨拶から始まり戦利品がどうこうと話立てるのを聞くともなしに聞いてると、不意に話題が飛んだ。
狩沢がキョロキョロと俺の周囲を見回したかと思えば、不思議そうな顔を向ける。
「ねえねえ、シズシズー。今日はヨシっち一緒じゃないの?」
「は?」
なんで当たり前みたく一緒にいると思ってんだ。確かに学校帰りの三好とはよく顔を合わせている気がするが、今日は一度も会っていない。意識せずにいたことを思い出させられれば、何だか無性にもやもやしてきた。眉間に力が入る。気を紛らすように煙草を取り出し、口にくわえた。
こっちの挙動などお構い無しで、遊馬崎までもがうんうんと頷いてみせる。
「今日は街でも見掛けてないっスからね、てっきり静雄さんのとこかと」
「だよねー。シズシズにも会いに来てないなら、どこ行ってるんだろ。ヨシプーの行動範囲って広いから予想つかないよねー。せっかくだからこの間したカラオケの約束煮詰めたかったのに。電話だと巧く躱されちゃうんだもん」
「あれは狩沢さんがヨシヨシ君に無茶振りするからっスよ。確かにあの曲はコスプレ・振り付きで見てみたいっスけど」
「でしょでしょ。絶対カワイイよね〜!」
「いやだからって強要したら、逃げられっぱなしになるじゃないっスか。ヨシヨシ君、見た目もそうだけど逃げる時は猫並みの見事な逃走っぷりスよ」
「普段は仔犬並みの人懐っこさなのにねー」
「いやあ、ヨシヨシ君には猫耳っスよ。あのつり目といい、細い体といい、譲れないっス」
「なんでなんで!? ゆまっちの馬鹿! ヨシプーならわんこ耳でもいけるよ!」
「いやいやいや」
「ばかばかばか」
ぎゃあぎゃあぎゃあ。
何だか途中聞き捨てならない方向に行った話から、猫だの犬だのと訳の分からないことで言い合いを始めた狩沢と遊馬崎。
通りを見るともなしに眺めながら、俺がここにいなければならない理由を三秒考えた。
腹も減った。行くか。
踏み出しかけた俺を、狩沢と遊馬崎が同時に振り向いた。
「ねえ、シズシズ! ヨシプーはわんこでしょ!? だってあんなにシズシズに懐いてるもん!!」
「ここははっきり言って下さいっ! ヨシヨシ君はふわふわの仔猫だって! 膝に抱き上げたくなる可愛さっスよね!?」
意味も理由も分からないが、堪らなく不愉快だった。
眉間に深々と皺を刻み、俺は低い声で告げる。
「馬鹿か。犬でも猫でもねぇ、三好は三好だろうが」

直後。狩沢が耳に突き刺さる歓声を上げたのが心底解せなくて、俺は溜め息の代わりに煙草の煙を吐き出した。
――――何か、無性に三好の顔が見たいと思った。


無駄なものだらけの中、大切なひとかけら





一方その頃、とあるオフィス。

「…ふあっ…くしゅん!」
「…風邪でもひいたの?」
部屋の奥、本棚付近から聞こえたくしゃみに女はキーボードを叩いていた手を止めると、艶やかな長い黒髪を揺らして顔を向けた。
数冊のファイルを抜き出し、波江の元へ運んで来ながら少年は首を傾げる。
特に寒気はしないし、熱もないと思う。ただ、なぜか鼻腔が落ち着かない感じだった。
「…そんなことはないと思うんですけど」
幼げな眉を寄せてみせるその様にため息をつき、受け取ったファイルの替わりに波江は数錠の薬が入った小袋を押し付けた。
きょとんとした顔を見ずにパソコンへと向き直り、波江は無感情に言葉を紡ぐ。
「誠二の周りにいるあなたに風邪をひかれると、迷惑なのよ」
「…ありがとうございます、波江さん」



冷たい横顔と手の中の錠剤。
それは優しさのひとかけら。










タイトルは『悪魔とワルツを』さまからお借りしました。


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あきゅろす。
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