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一緒に帰ろう(弦月と黄龍)



戦局は圧倒的に不利といえた。

旧校舎の中、仲間たちから劉と二人はぐれたところを魔物の群れに囲まれていた。どうにか迫る敵を退けつつ距離を稼ぐも、再び追い詰められるのは時間の問題だろう。
(―――何よりも、…)
緋勇は傍らに立つ劉を見た。
左腕から流れる血は止まる様子がなく、失血のせいで顔色もひどく悪い。
「…そない顔せんでも平気やて、アニキ」
僅かに顔を上げる仕草すら重たげで、笑みの形に持ち上げた口唇からも血の気が引いていた。血止めの手当てをする時間すら作ってやれない現状、心配もするし、焦燥だって覚える。顔に出さないなんて無理だ。

じりじりと、様子を見ていた魔物たちが動きをみせはじめる。
疲労に軋む手を拳の形に握ると、乾く間も無く手甲を汚す魔物の体液が嫌な感触を伝えてきた。まだ、終わりは見えない。
「……21グラムなんやて」
「弦月?」
いきなり何を言うんだと思った。
「魂の重さ。……アニキに21グラム分引っ付いてもええかな」
もしも、その時は……
目を開けてるのも億劫そうに、でも歪んだ笑みはそのままで続けられた言葉に横面張り倒したくなった。怪我人だと慮るのは忘れてなかった為ぎりぎりで堪える。本気で冗談じゃない。
「21グラム程度で満足するな。今のお前を、俺に背負わせろ。馬鹿」
傾ぐ身体を肩で支えてやると、切れ長の黒瞳が見開かれた。本当に馬鹿だ。



五百円玉3枚分。たかだかコイン数枚の重さがお前だなんて認めない






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あきゅろす。
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