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ちっぽけなしあわせ(谷田部と)



その日、三好はひどく眠そうだった。毎日黄巾賊のために情報収集に努めてくれてるんだから、無理もないことかもしれない。連日夜遅くまで池袋中を走り回っていては、そりゃ疲れだってたまるだろう。
それでも集会中は定位置の壁際。廃材に寄りかかって重そうな瞼を擦りつつ持ちこたえていたようなのだが――。

将軍から行動の方針や注意点などの伝達を受け、後はみんな三々五々散らばるだけといったあたりで限界を迎えたらしい。
つり目がちの大きな瞳が微睡みにとろりと溶け、かくりと頭が揺れる。今にも深い眠りの淵を転げ落ちそうな様子に、俺は慌てて駆け寄った。傍らに膝をついて三好の肩に手をかける。
「おい、三好! こんなとこで寝るなよ」
「……んー………」
返ってきたのは頷きとも吐息ともつかないもので、ひどくゆっくりになった瞬きとかゆらゆら頼りない視線とかが、どうしようもなく無防備だった。なんだこの生き物。
「……三好、ちゃんと帰って寝ろって」
「……ん、………ぃ」
「三好っ」
微かにねむい、と聞こえた瞬間。糸が切れた人形みたいに、かくんと崩れそうになる細い身体を慌てて支えた。頼りない重さが腕に掛かり、本当にこれは俺と同じ男なのかと不安になる。
気持ちよさげな小さな寝息が鎖骨あたりをくすぐって、よくわからない熱が内側に灯った気がした。ちょっとこれ、触れ続けてるのツラいんすけど。
しかし胸に凭れた顔は安心しきった幸せそうな表情で、なんか起こす気も霧散する。っていうか、これの肩強引に揺さぶって起こすなんてよっぽどの極悪人じゃないと無理だろう。赤ん坊や小動物に虐待レベルの罪悪感だ。
ずり下がりそうな身体を脇の下を通して回した腕で引き上げながら、俺はこれからどうしようと考えた。


起きてくれと思うし、またそれと同時にもう少しこのままで、とも思うのだ―――。




ちっぽけなしあわせ



「…谷田部さん、いつまで三好抱えてるつもりなんすかねぇ」
「とりあえず、ソファーに寝かせてやればって思うけどなー」
「……あと五分はほっといてやってくれ」
「「五分?」」
「五分経っても離れないなら、俺が谷田部を蹴り飛ばす」
「…将軍、親バカなどっかの父親みたいっすね」




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