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かわいくて、かなしくて(ヒロトと)



「好きだよ、円堂くん」
ヒロトは何度もそう言う。何度も何度も繰り返しては、優しく微笑む。
だけど、「好き」と言いながらなんでこいつは苦しそうなんだろう。
「好き」という感情はもっと幸せなものじゃないのか。
オレはサッカーが好きだ。一緒にサッカーをするみんなのことが大好きだ。試合のこと、特訓のこと、考えるとワクワクして胸が熱くなる。一つのボールを追いかけて走り抜ける喜び、達成感、どれも楽しくて仕方ない。
オレの知る「好き」とヒロトの言う「好き」は違うのだろうか。
深い緑色の目に湛えられた何か昏い感情を見ていられなくて、オレはヒロトの頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫で、自分の腕とヒロトの赤い前髪でその視線を遮った。
「え、円堂くん?!」
ヒロトが慌ててオレの腕を外そうとする。両手首を押さえられ、わりと無惨なことになってしまった赤髪の間から情けなく下がった眉が覗いたところで、言う。
「ツラいんだったらさ、ツラいって言っていいんだよ。言わなきゃわからない」
「……え?」
「悩みとか、自分一人で抱え込む必要はねーんだ。お前が手を伸ばせば、オレはその手を掴むよ。周りのヤツらだって力を貸してくれる」
「円堂くん、何言って……」
戸惑うような声音を作ってもオレの手首に触れたままのヒロトの手は震えていて、縋りつくような力を感じたから。
たぶん、的外れではないだろう。
「お前の『好き』は『助けてくれ』って聞こえるんだよ」
不思議なものを見るようにオレに向けられてた深緑の目が、徐々に泣きそうに歪んだ。
ヒロトが掴んだままになってたオレの手首を不意に思い切り引き寄せるから、逆らうことも出来ずにその胸へと飛び込んでしまう。
話を聞こうとしていたのにこの状況はなんなのか。そう、思ったけど。
背中に回された両腕は怯えるように震えていたから、伝わる温もりでオレは側にいるんだってことを知ってくれればいいと、
強い力で深く抱き込まれたオレはヒロトの背中を優しく叩いた。







触れたところから移る高い体温。
その温もりが安心と、それとは正反対の不安を齎す。

(君の何気ない言葉一つで、俺がどれだけ救われているのかなんて
君は全く気付いてないんだろうね)



俺のことを分かってくれる君は、
けれど俺だけを見てはくれない。
今この腕にある温もりは、きっといつの日か手離さなくてはならないことを俺は知っているんだ。





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