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かけがえのない君に(鬼道と)




●かけがえのない君に●


「オレはもう駄目なんだ」

そう言って雷門を去った風丸の背中を思い出して、俺にとってのあいつの存在は何だったんだろうと考えてしまう。
いつも傍で支えてくれていた、親友。幼なじみでチームメイト。
試合に負けてボロボロの体で立ち上がることも出来ずにいる時、労るように、守るように、背中に添えられた手の温かさを覚えている。
なのに、どこから道は隔たれてしまったんだろう。何度ぶつかって負けたって、諦めなければそこで終わりじゃない。みんなでなら、必ず強くなってどんな壁も越えていけるって、信じたい。
だけど、一緒に強くなろうって言葉は届かなかった。言葉じゃ、届かなくて――あいつは行ってしまった。
神のアクアを求める程に力を渇望していたことも知っていたのに、悩みの深さに気付いてやれなかった。
「…もっとちゃんと向き合えていたなら、失わずにすんだのかな…」
「失ったなどと諦めるのは、お前らしくもないな」
完全に独り言のつもりだった呟きに応えがあって、俺は慌てて顔を上げると声の主を探した。
「…鬼道」
黄昏を背負って土手に立っていたのは、チームメイト。ゴーグルの奥の切れ上がった赤い瞳には、いつもより優しい光が宿ってるように見える。
「…でも、俺は風丸を支えてやれなかった」
風丸にはこれまで何度も助けられてきたのに。ぐっ、と拳を握り締めて俯くと、草を踏みしめる音が近付いてきてすぐ横で止まった。風を孕んでたなびく青色が視界を掠める。
「恐怖を乗り越えられるのは、自分だけだ。今以上に強くなろうと思えば、自分自身で壁を破るしかないのは風丸だって分かっているだろう」
「……」
その通りだと思う。それでも、何か出来たのではないかと後悔がつきまとうんだ。チームメイトとしてだけじゃない、友達として、幼なじみとして大切な存在だから。
言葉を返せずにいると、鬼道は小さく笑みを含んだ息をついた。
「雷門は筋金入りのサッカー馬鹿ばかりだ。そう簡単にサッカーを辞めることが出来るとは思わんがな」
「へ?」
「円堂。サッカーという絆がある限り、俺達の道は必ず交わる。その時あいつらが帰ってくる場所を守るために強くなることが、今の俺達がやるべき事じゃないのか」
「鬼道………さんきゅ!」
ほんの僅か口元を緩めて差し出された鬼道の手を取って、立ち上がる。
「帰って練習して、もっと強くならなきゃだよな」
こうやって立ち止まった時手を差し伸べてくれる仲間がいるから、まだ立ち上がれる。強い相手に立ち向かうのが怖いのは俺も同じ。それでも、一人じゃないから前に進めるんだって、いつかちゃんと風丸に伝えるんだ。みんなでなら強くなれるんだって、信じてほしいから。
そのためにも絶対に地球を侵略させたりしない。サッカーは戦いの道具ではなく、楽しむものなんだから。

必ず勝って、みんなの居場所を守るんだ。






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あきゅろす。
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