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もう少し、一緒にいよう(紅葉と黄龍)



ちいさく流れる音楽の中、雑誌のページを捲るぱらぱらと乾いた音だけが響く。窓から差し込む夕陽に照らされたその部屋で、どうしたものかと緋勇は内心頭をひねった。

緋勇の薄い肩の上には隣に座った男の頭が乗っていた。完全に寄りかかってはいないようで、重たいとは感じない辺り気遣う様子が見て取れる。
時折、ふらりと現れた壬生が緋勇の部屋でなんとなく時間を過ごしていくことはあった。緋勇も口数が多いほうではないし、沈黙が気まずい相手でもないけれど。
しかし―――、
肩に凭れたまま音楽に耳を澄ませてるのか、目を閉じたきりというのは珍しい。

(……疲れてるのか?)

静かに過ぎゆく時間と共に心配があたまをもたげ、緋勇は立てた膝の上に開いていた雑誌を床に置いた。

「…紅葉」
「うん」
「紅葉、」
「すまない」
「紅葉」
「…あと少しだけ、」

続く言葉を恐れるように遮られる。思わず洩れた吐息に、怯えるみたく指先が掴まれた。
「もう少しだけ、このままでいてくれないか」
「……どこかに行ったりはしない。傍に、いる」
大丈夫だ、と。紡いだ優しい声音に壬生が深く息をつく。
甘えるように預けられた頭。Tシャツの薄い布越しに感じる体温。さらさらした毛先が頬を掠めてくすぐったい。

(というかこれは――甘えてる、のか)

辛いことがあっても、落ち込むことがあっても、壬生には頼れる人も甘えられる人もいなかったはずで――今も、悩みや相談事を人前で口に出すことは無い。
どれだけ心を開いても、距離が縮まっても、彼が背負っていくと決めている業のすべて取り除くことは不可能で、出来ることはすごく少なくて。
それでも、こうして自分の傍で休息をとっていくことで僅かでも安らげるというなら、触れ合う温もりで何かを与えることができているのなら、それは素直に、嬉しいと思う。
大丈夫だ、とまた一つ繰り返して、冷たい指先を温めるように柔らかく掴みかえした。


絡む指先は縋るようで 閉じた瞳は祈るようだったから


傍らに寄り添って、そっと願う。
君が闇の中に立ち尽くすなら手を伸ばすから、どうかその手を取って欲しい。
瞼を開けて映る景色の中で、ここにいる俺を見て。








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