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パシリ/P


今日も屋上から見える空はいい天気だ。

目の前には屋上のタイルの上に広げたプリント数枚と向き合う平和島先輩。
いつかのあの日。日誌を提出に行った職員室で先生に頼まれたプリントを平和島先輩に届けて以来、週に二回ほど放課後はこうして屋上で過ごすのが習慣化している。

今僕の差し向かいで眉間に深く皺を刻み、時折低い呻き声を漏らす平和島先輩は、校内・校外を問わず恐れられている存在だ。常人の枠組みから逸脱してしまった怪力と卓越した身体能力、一般の人より低い沸点。金髪長身、均整のとれた体躯と端正な顔立ち。その重なりまくった要因から校外では他校の不良やチンピラな人たちから喧嘩を売られ、校内でも平和島先輩を怒らせる人たちと乱闘になり、その度に机やらフェンスの一部やら看板やら金属製のゴミ箱やら自販機やらが宙を飛ぶ。
人は常識の範疇を超えたものに恐怖を抱くもの。それは先生方も例外ではなく、暴れられるのを避けてか授業を頻繁に自主休講しても怒られることはないようだった。
しかし、学校には出席日数というものが存在する。それを補填するためにあるのが、課題のプリントやレポートなどの提出物である。

「…なんかよ、いっつも付き合わせちまって悪ぃな」
歴史の穴埋め問題を教科書(平和島先輩は家に置きっぱなしらしいので、紀田君に頼んで知り合いの先輩から借りてもらった)片手に解いていた平和島先輩が、ぽつりと呟くように謝った。
僕はゆるく首を振る。
始まりはともかく今は自分の意志でここへ来ているのだから、平和島先輩が気にすることは何もない。
「楽しいので大丈夫です」
「…お前、やっぱり変わってんな」
息をつくように笑う平和島先輩は優しい顔をしていて、何だかちょっと胸が詰まった。
この人は、こんなにも穏やかに話しをして優しく笑える人なのに。
そういう姿を知らずに喧嘩をふっかけてみたり、恐れて遠巻きにしたり、みんなもったいないことをしてる。哀しいことだとも、思う。

「三好?」
黙りこんだ僕を心配そうに覗き込んできた平和島先輩の顔を見返せなくて、僕は何とか笑顔を作って立ち上がった。
「少し、休憩にしましょう。僕、飲み物買ってきますよ」
先輩はコーヒーでいいですか?と続けるつもりだったのに。
僕の言葉の途中で平和島先輩は腰を上げた。不自然だったろうか、気を悪くさせてしまっただろうか。
身を僅かに竦めた僕の頭を、平和島先輩はぽんと軽く撫でてやんわりと遮る。

「俺に付き合わせてるんだ、飲み物ぐらい奢らせろ」

言い終えると同時に身を翻して給水塔の隙間を向こうへ抜けてく平和島先輩。呼び止める間も与えてもらえなかった僕は、撫でられてくしゃくしゃになった髪を直しながら、ぽつりと呟いた。

「こんなに…いい人なのに…」

言っててちょっぴり泣けてきたのは秘密だ。





パシリ(さえさせて貰えないんです)







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あきゅろす。
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