[携帯モード] [URL送信]

小説
第20話 「堕天使と騎士 最後の想い」





「ゼウス、光闇の書を持ってきたよ〜。」

結界を抜け、ゼウスが捕らわれていた扉の中。

そこから、一番奥にある部屋に到着し、ネブラはゼウスにそれを渡した。

「ようやく主の元へと戻ってきたか。」

それを受け取り、パラパラと捲っていく。

「フン。
 俺が眠っている間に、何度か開かれたみたいだな。」

最後の方にある白紙のページに書かれている名前を見て、ゼウスは笑った。

「けど、全員殺したよ。」

「だろうと思ったぞ。」

ネブラの陽気な返答に、ゼウスは本を閉じて返す。

「コレは元々、俺がお前達との関係を繋ぎ止める為に作ったものだ。」

光闇の書─────

それは、七星が当時の王に仕えていた時の事。

権力者達は、彼らの力を信頼し、周囲の国を次々に制圧して行った。

しかし、人間は必ず衰えをみせる。

それを恐れた当時の権力者達が、七星の体を弄り、光闇の書に“収納”できるようにした。

そして、その光闇の書を扱う為の人物として白羽の矢が立ったのが、ゼウスだった。

当時、ゼウスは王の側近だった。

騎士としても優秀。

しかも七星の全員と交流があった為、彼らからの信頼も厚かった。

その為、“最初の使用者”として、ゼウスが光闇の書、七星と契約をした。

しかし、それは表向きの話。

本当は、“永遠の使用者”として契約したのだった。

光闇の書と七星、これらすべてに共通するコアを自分にも移植したのだ。

これにより、光闇の書と七星はゼウスを主と認め、他の者に強制的に従う事は無い。

そして、ゼウスは光闇の書の使用できる能力を書き変えた。

「あの女を傀儡にする前に、数人ほど新たな者を加えておくか。」

フェイトが眠るポッドに近付き、光闇の書を掲げる。

すると、光闇の書と同様に、フェイトも光り輝いていく。

「この女の戦闘データを、新たな奴のベースにするの?」

「そう言う事だ。」

やがてそれが終わり、発光も治まる。

そして、今度は光闇の書を床に抛る。

「いでよ、ヴォルケ、ステラ、フドゥル。」

それに応えるように、光闇の書からは3人の人影が出てきた。

「これで、あの女も含めたら12人か。」

ネブラはポッドに眠るフェイトを見やりながら言う。

「さしずめ、12神と言ったところか。」

ゼウスは笑い、ヴィレイサー達との再戦を心待ちにしていた。










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第20話 「堕天使と騎士 最後の想い」










[それじゃあ、2人とも、準備はいい?]

モニターに映されたなのはの質問に、ヴィレイサーとゼストは無言で頷く。

「ゼスト隊長………。」

「なんだ?」

対峙しているゼストに、ヴィレイサーは“あるナックル”を嵌めながら言う。

「いくら俺が半戦闘機人になったばかりとは言え、手加減はしないでください。」

それを聞いたゼストは笑った。

「フッ、もちろんだ。
 お前こそ、俺に遠慮するなよ?
 でないと、すぐに終わるぞ。」

「大丈夫です。
 ゼスト隊長が応えてくれますから。」

「そうか。」

そこで会話は終わり、再び沈黙がおりる。

ゼストは得物を構え、ヴィレイサーをキッと見据える。

「さぁ、お前の力を………全力を引き出せ!」

「はい!」

声高らかに答え、エターナルに告げる。

「ヴィーナスシステム!」

[Venus System,Get set.]

「ドーン・ルチフェル!」

[DAWN・LUCIFER.]

コードネームを告げた瞬間、あの12枚の翼が生える。

「行くぞ、ヴィレイサー!」

「はい! ゼスト隊長!」

ゼストの確認に、ヴィレイサーが答えた刹那………。

「ウオオオオオォォォォォォォ!!!!」

「ダアアアアアァァァァァァァ!!!!」

2人はぶつかり合った。

太刀と槍の刃先がぶつかり合い、火花を散らす。

「チッ。」

舌打ちし、ヴィレイサーはゼストから一気に距離を取る。

(さすがに押しあいじゃあ勝てる訳ないか。)

「勝てなければすぐに引くか。」

逃がさない気のゼストも、素早くヴィレイサーを追ってくる。

「勝てない戦法にいつまでも拘る気はありませんからね。」

翼をはためかせ、速度を上げる。

(追いつけそうもないな………。
 ならば………。)

速度を上げ続けるヴィレイサーに追いつけないと判断したゼストは、
軌跡を変え、ビルの影に身を潜める。

(身を隠したか………。)

ゼストがついてこない事を知り、ビルが立ち並ぶ空間を振り返る。

(無闇矢鱈に近付けば、不意打ちを喰らって一撃で落とされるな。
 そうすると………。)

[Arrow Mode.]

(魔力消費は大きいが、バスターライフルほどじゃない。)

魔力を一点に集中させ、どこを狙うか考える。

その隙を狙い、ゼストが背後から躍り出た。

「ハアアアァァァ!!」

「クッ………。」

[Prism Shield.]

盾を発生させ、振り下ろされた槍をいなし、即座にエターナルを鋏型に変える。

「アアァッ!」

ゼストはいなされながらも、体を捻り、再び斬りかかる。

「こなくそ!」

それを鋏で受け止め、鍔迫り合いとなる。

(隊長の胴はがら空き。)

蹴りを叩きこもうと、体勢を変えた瞬間、ヴィレイサーの腹に衝撃が走った。

「ガハッ!」

視線を腹に向けると、ゼストの拳が入っていた。

「ダァ!」

叩きこまれた拳に吹き飛ばされ、ヴィレイサーはビルに突っ込む。

しかし、ゼストは表情1つ変える事無く、土煙に身を投じる。

この程度で沈む相手では無い事を理解しているのだ。

「ウオアァァァ!!」

案の定、土煙に足を踏み入れ、ビルのフロアに足を着いたその時、
ヴィレイサーが身を躍らせた。

「雷煌滅閃斬!」

雷を纏った剣が、ゼストを捉える。

しかし、それよりも先に、ゼストの槍が足元に突きたてられ、床に罅が入る。

音を立てて崩れる床と一緒に、ゼストの姿も飲み込まれる。

「なっ!?」

ゼストの姿を見失った為、ヴィレイサーの剣は虚空を薙いだ。

力強く振り下ろした為、ターゲットを見失った彼は体勢を崩した。

それを待っていたと言わんばかりに、ゼストが穴から槍を一閃させながら迫る。

「クッ!」

一閃されたその槍を、翼をはためかせて上昇し、紙一重でかわす。

[Javelin Mode.]

そして、天井にぶつかる寸前で転身させ、ジャベリンで天井を砕く。

「ムオッ!?」

追撃に迫ろうとしていたゼストに、瓦礫が迫る。

しかし、自分が入ってきた箇所から外に脱し、ヴィレイサーの潜む階層を見る。

(姿を隠したままか………。
 まだ外に出ていないのならば………。)

再びビルに入り、ある一点を目指す。



◆◇◆◇◆



「フゥ………。」

[リーダー、逃げの一手では勝てませんよ?]

「悪い………。
 まさか、まだこれ以上の差があるとは思ってなかったからな………。」

まさかゼストにここまで対等に戦う力が残されているとは思わなかった。

[ですが、ゼウスを少しは圧倒したバスターライフル。
 あれを使えば勝てるのでは?]

「魔力消費が大きいアレは無闇矢鱈に使える訳でもないし、
 狙いを定めても、フルドライブでかわされて、逆に落とされるだろうな。」

嘆息し、これからの一手を考えたその時─────



ズドォォォン!



「なんだ!?」

地響きにも似た音に続き、ビル全体が揺れ出した。

「まさか………!」



◆◇◆◇◆



「どうだ、ヴィレイサー?
 これならば、外に出るしかあるまい。」

ゼストはそう言って、崩れつつあるビルから外に脱する。

背後には、粉々に砕かれたビルの支柱があった。



◆◇◆◇◆



「ビルの支柱を粉砕したな………。」

[どうするんです?]

「どうするもこうするも、今は脱するしかないだろ。」

立ち上がり、外をこっそり窺う。

(外に出た瞬間、フルドライブで叩き落とされるかもなぁ………。)

ゼストの考えを見透かし、ヴィレイサーは翼から微粒子の魔力を放出する。

(残像を作りながら行くしかないか。)

意を決し、外に出る。

しかし、何故かゼストは仕掛けてこなかった。

(どういう事だ?)

訳がわからず、ヴィレイサーは周囲を見回す。

あるのは未だに崩れているビルと、それによってあがる土煙。

そして、健在しているビルの数々。

しかし、その中にゼストの姿を捉える事は出来なかった。

だからこそ、ゼストがどこから迫っているのかがわかった。

(死角に決まってんだろ!)

背後を振り返らず、宙返りし、肉薄していたゼストの槍をかわす。

「ムッ!」

「そらぁ!」

そこで動きを止めず、ゼストの体躯を蹴る。

「グオッ!」

[Buster Rifle.]

そこですぐさまバスターライフルを構え、引き金を引く。

「フルドライブ!」

「なっ!?」

しかし、黒い光芒にゼストの体が飲み込まれると思った瞬間、
彼の体が僅かに光り輝いた。

そして、迫る光芒をかわし、ヴィレイサーに槍を突き刺そうと、肉薄する。

「ギア2!」

[Twin Buster Rifle.]

ゼストの槍を片方のライフルで槍を受け止め、もう片方で照準を定めて撃つ。

「甘い!」

だが、それに既の所で気付き、飛び退く。

[Unison Buster Rifle.]

そのゼストを追撃するように、合体させたバスターライフルの引き金を引く。

しかし、それをもゼストは体を躱し、また死角からヴィレイサーに仕掛ける。

「ダアアアアアァァァァァ!!!」

「クッ………。」

間一髪、シールドを展開するも、それは紙切れのように簡単に破られた。

「まだぁ!」

刃がヴィレイサーの体を斬り裂こうとしていたが、
それをナックルを嵌めた左手で受け止める。

「IS、レゾナンス!」

ナックルからカートリッジが飛び出し、備え付けられたナックルスピナーが回転しだす。

今は亡き母、クイントが遺してくれた、ヴィレイサー専用のナックル。

その名は、『リボルバーハデス』。

ヴィレイサーのIS、『レゾナンスブレイカー』の威力を高める為のナックルだ。

当初は、エターナルへの負荷が増大だった為、その代用として考えられていたのだが、
ヴィレイサーがシューティングアーツを、少しだけだが修得したので、
ナックルとしても申し分ない物に仕上げられた。

カートリッジとナックルスピナーにより、その破壊力は折り紙つきだった。

しかも、エターナル以上の強度を持つ為、乱用しても問題ない。

「ハアアアアアァァァァァァ!!!」

槍の刃を鷲掴みにし、共鳴させる。

徐々に罅が回る得物に、ゼストは苦々しくそれを見る。

やがて槍が完璧に砕け散った時、ゼストの拳がヴィレイサーの顔面に迫った。

「ウオオオオォォォォ!!」

その咆哮に、ヴィレイサーは怖気づきそうになるが、最後の力を振り絞り、
太刀に戻したエターナルを─────振るった。

武器が壊れても、騎士として戦った隊長。

それに応えるべく、ヴィレイサーも刃を振るったのだ。



◆◇◆◇◆



地に下りた2人は、しばらく対峙していたが、ゼストが膝をついた。

「ハァ、ハァ………。」

息は荒く、素人目にもどんな処置をしても助からないとわかった。

「ゼスト隊長………。」

「強くなったな、ヴィレイサー………。」

告げられた言葉は暖かく、しかし、弱々しかった。

「お前なら、やれる………。
 必ず救い出し、戻ってこい………。」

「はい………。」

ゼストの優しい言葉に、ヴィレイサーは涙を抑えきれなかった。

「涙を流すな………。」

「しかし!」

「俺は1度、死した身だ。
 再び土に還るだけだ………。
 あの時も、既に涙を流しただろ?」

「それでも、悲しい事に変わりはありません………。」

嗚咽混じりの言葉に、ゼストは笑った。

「アギトは、シグナムが引き受け………。
 ルーテシアは、お前の所の少年と少女が見てくれるそうだな。
 アルピーノは………メガーヌは、お前が見てやれ。」

「はい。」

「良き戦いだったぞ、ヴィレイサー………。」

それを最後に、ゼストは逝った─────

「ありがとうございました、ゼスト隊長………。」

そんなゼストを、ヴィレイサーは敬礼しながら看取った─────

空は、何にも侵食されぬ蒼天だった─────





第20話 「堕天使と騎士 最後の想い」 了


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!