小説
第19話 「光への激励 新たなる力」
ヴィレイサーが己の無力に、自身を喪失していた頃。
「お久しぶりです、ナカジマ三佐。」
「えぇ、ゼスト隊長。」
陸士108部隊の隊舎では、ゲンヤとゼストが話し合っていた。
「娘さんの容態はどうですか?」
「ギンガはメンテナンスが滞りなく進んでいます。
スバルは、兄を心配している毎日でしょうね。」
「そうですか………。」
息をつき、話を切り替える。
「それで戦闘機人事件の方ですが、レジアスの許可も取っていますので。」
そう言って渡された事件の資料に、ゲンヤは素早く目を通していく。
「しかし、今これを明るみに出せば、レジアス中将は………。」
「構いません。
事件解決は早期に行われるべきだと、レジアスも言っておりましたから。」
「わかりました。」
それを承諾したゲンヤに頭を下げ、ゼストは立ち上がる。
「俺は、最後にやらなければならない事があるので、これで。」
踵を返したゼストを見送り、ゲンヤはパネルを操作した。
「マリエル技官に繋いでくれ。」
[少々お待ちください。]
マリエル技官に繋がる間、ゲンヤは椅子に背を預ける。
(上手くいくかはわからんが、やってみる価値はある。)
[ナカジマ三佐、マリエルです。]
「いきなり呼び出してすまねぇな。
急ぎ、確認してほしい事があるんだ。」
[何でしょうか?]
「実はな………。」
◆◇◆◇◆
「ヴィレくん、大丈夫かな?」
一方、なのはは病室の扉の前にいた。
先程、ヴィレイサーの慟哭が聞こえてからは、怖くて部屋に入る事が出来ずにいた。
「失礼。」
「ゼストさん!?」
「ヴィレイサーは?」
「中にいますけど、機嫌はあまり………。」
その先を聞かぬまま、ゼストは扉を開け、中に入る。
「ヴィレイサー。」
「ゼスト隊長………。」
茫然自失としていたヴィレイサーだが、ゼストに声をかけられ、そちらを仰ぎ見る。
「ヴィレイサー、お前は何をしている?」
「え?」
質問の意図が読めず、ヴィレイサーは首を傾げる。
「何故お前は、茫然自失としている?」
「俺はもう、無力ですから………。」
「だから戦えないと?」
「はい………。」
抑揚のない返事をした瞬間、ヴィレイサーの顔を、ゼストの拳が捉えた。
鈍い殴打の音に、外にいたなのは達は何事かと病室に入ってきた。
「ヴィレイサー。
お前は今、どうしている?
生きているだろ!」
ゼストの一喝に、ヴィレイサーはハッとした。
「まだ戦えるだろ!」
「はい………。」
「なら、戦って取り戻せ!」
「はい………。」
「生きている限り、戦え!」
「はい!」
ゼストの激励に、ヴィレイサーの全身が奮い立つ。
「必ず、勝利します。
そして、フェイトを取り戻します。」
決意を秘めた声に応えるように、瞳にはその決意の色が見てとれた。
魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD
第19話 「光への激励 新たなる力」
「そうか。
じゃあ、フェイトは………。」
「恐らく無事なはずや。」
車椅子に乗り、会議に現れたヴィレイサーを、はやては笑顔で迎えてくれた。
「七星については、デバイスに残された映像を頼りにするしか無いな。」
「その前に、皆に話しておきたい事があるんだ。」
デュアリスの発言に、全員が彼の方を見る。
「七星の中に、ゲイルという男がいる。
アイツは俺のオリジナルだ。」
「って事は、まさか………。」
「あぁ………。
奴はセイバーの称号を持つ、太古の騎士だ。」
「だとすると、七星のメンバー全員はセイバーが生きていた時代の者………。」
「そうなるわね。」
「そんなに前の時代の人が………。」
「世界を滅ぼす為に活動しているのか。」
沈痛な面持ちを見せるはやて達だったが、なのはふと、ある事が気になった。
「そういえば、ヴィレくんはこれから、どうやって戦うの?」
「せやな………。
そのままっちゅう訳にもいかんし………。」
左腕と左足を失った体。
利き腕では無いにしろ、この状態で戦うのには無理があった。
「ちゃんと考えてあるさ。」
はやて達に言い、ヴィレイサーは笑みを見せる。
◆◇◆◇◆
六課の隊舎を出、ヴィレイサーは陸士108部隊へと向かった。
「よう、来たか。
ヴィレイサー。」
「父さん。」
「ゼスト隊長に一喝されたみたいだな。」
「うん。
ところで父さん、マリエル技官は?」
「彼女には今、ある仕事を頼んでる。」
「そっか。」
日を改めて来ようと、踵を返したヴィレイサーだったが、ゲンヤに呼び止められる。
「その仕事、お前の協力が必須だ。」
「俺の協力?」
「あぁ。
どうせお前も、アレに目を付けたんだろ?」
笑みを見せる父に、ヴィレイサーは驚いた。
「まさか………。」
「お前の義手と義足。 それを作って貰っている。」
「けど、この方法はある意味犯罪だ。」
「“義手と義足を作り、それを患者に嵌める。”
それのどこが犯罪なんだ?」
「父さん………。」
◆◇◆◇◆
[ヴィレイサー、“新しい腕と足の調子はどう?”]
ガラスの向こうにいるマリエル技官からの問いに、
ヴィレイサーは手術台から下りながら答える。
「バッチリです。
ここまで違和感が無いとは驚きですよ。」
[ヴィレ兄、本当に良かったの?]
スバルの不安の入り交じった声に、そちらを見やる。
彼女の隣には、ギンガの姿もあった。
「これから先、四肢が動かなくなる事が多くなる。
それに、ただの義肢じゃあ、戦っていけないからな。」
そう言って、ヴィレイサーは新たな左腕で虚空を突き、左足で蹴りを繰り出す。
「文句無しですよ。
この………………“戦闘機人の手足”は。」
[まさか上手くいくとは思わなかったがな。]
ゲンヤは未だに驚きの声をもらす。
[クイント、それにスバルとギンガのデータを残しておいた甲斐がありましたね。]
「でもまさか、義肢をベースとした戦闘機人の四肢を作るとは思いませんでしたよ。」
[ヴィレイサーみたいに、力仕事が多い人にはただの義肢だと満足しないだろうからね。
義肢をベースにしている訳で、強度と性能は戦闘機人のものにしてあるわ。]
「これからは“半戦闘機人”って事か。」
[じゃあ、術後経過も見るから、その日程も渡すわね。]
「そっちに取りに行きます。」
リハビリがてら、マリエル技官達のいる所まで歩く事にした。
◆◇◆◇◆
「結構時間かかったな。」
「ごめんなさい………。」
息が上がった状態で平謝りに謝るヴィレイサーに、ギンガは笑う。
「義肢を付けた人は皆、最初はそんな感じよ。」
「そうそう。
これ、日程表だから。」
「ありがとうございます。」
「……ねぇ、兄さん。」
「なんだ?」
日程表を受け取ると、ギンガが話しかけてきた。
「今回、兄さんは左足と左腕を義肢にして、半戦闘機人になった訳だけど、
私やスバルみたいに戦闘機人になったら、遺伝子崩壊も止められたりしないの?」
「残念だが、それは無理だろうな。
お前達2人は、元々戦闘機人の状態で生まれた。
だが俺は、人間兵器としてだ。
コンセプトが違うから、難しいだろうな。」
「でも、人間ベースの戦闘機人もいるよ?」
望みを失いたくないスバルの瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。
「確かにそうだが………。
それは被験者をベースにしている。
つまり、寿命も被験者によって左右されるって事だ。
それに、その場合は戦闘機人になる為に育てられなきゃならない。
今からじゃあ、俺の体を戦闘機人タイプにするのは無理だよ。」
「じゃ、じゃあ、じゃあ………。」
他の方法を探ろうと、必死になるスバル。
既にわかっている事とは言え、やはり兄妹。
大好きな兄を失うのは嫌なのだ。
「ヒック………グスッ………。」
止め処もなく流れる涙と嗚咽。
「ありがとう、スバル………。」
慰める方法を見出だせず、ヴィレイサーはただ静かに彼女を抱き締める。
「ヴィレ兄………。」
「助かる方法はまだ見つからないが、それでも俺は、生きていくよ。」
「うん………うん!」
兄を揺らがす事が無いよう、スバルは笑顔を見せた。
◆◇◆◇◆
「義肢の調子はどう?」
「結構いいぜ。」
ヴィレイサーが半戦闘機人となってから1週間。
術後の経過も問題なく、順調に日々を過ごせていた。
「あとは、ヴィーナスシステムを完全解除して、それについて行けるかの確認だな。」
左手を開いたり閉じたりして確認する。
「なら、模擬戦がいいわね。」
「その役目、俺が引き受けよう。」
そう言ったのは、ヴィレイサーの上司、ゼストだった。
「ゼスト隊長……しかし………。」
そんな事をすれば、間違いなく彼の体は耐えられず、消えてしまうだろう。
ヴィレイサーにとって、それは耐え難いものだった。
「お前の言う事もわかる。
だが、遅かれ早かれ果てる身だ。
ならば、お前と交わした約束を果たす方が、俺にとっては喜ばしい事だ。」
「わかりました。」
ヴィレイサーも決意し、ゼストの申し入れを承諾する。
上司と部下として、1人の人間として、戦いたい─────
その想いが、ヴィレイサーの中で大きくなった。
第19話 「光への激励 新たなる力」 了
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