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小説
第21話 「最後の戦いへ」






七星が提示した期日。


「あの日から、もう30日か………。」


鏡に映し出された自分の姿を見ながら、ヴィレイサーは大きく息をついた。


(あの時とは違う。
 己の無力さに慟哭していたあの時とは………。)


ヴィレイサーがいた部屋は、あの病室だった。

左腕と左足を失い、さらには自分の答えを待っている人を連れ去られた。

否応なしに痛感させられた無力。

それによって、自分はただの抜け殻になっていた。

虚無しかない自分が今、こうして立っているのは、数十日前に逝った隊長のお陰だ。

新たな手足として、戦闘機人の義肢を受け取り、再び戦う事を決意した。


「本当に、ゼスト隊長には感謝してもしきれないな。」


呟き、その病室を出て、別の場所に向かう。

自分と同じように、“遺された者”がいる所へ─────



◆◇◆◇◆



「久しぶり、姉さん。」

「ヴィレイサー………?」

「うん………。」


ヴィレイサーが向かったのは、スカリエッティのラボで見つかった姉─────メガーヌが入院している施設だった。


「良かった。
 あなたと会えて………。」


メガーヌは、目に涙を浮かべていた。


「今まで連絡できなくてごめん。」

「いいのよ。
 こうして会えたんだから………。」

「姉さん………。」


ベッドに腰掛けるメガーヌに近付き、そっとその頬に触れる。


「本当に、姉さんなんだよね。」

「えぇ。
 そうよ、ヴィレイサー。」


あの時─────

母が遺体となって帰ってきた時、自分は全てが潰えたと思っていた。

母も姉も、隊長も、隊員達も─────

皆が皆、自分から奪われたと、そう思っていた。

しかし、姉は今もこうして生きている。

それだけで、ヴィレイサーは嬉しかった。


「来たばかりだけど、ごめん………。
 どうしても行かなきゃいけない所があるから………。
 俺の事を待ってくれている奴もいるから。」

「そう………。」


残念そうな瞳をしたメガーヌだったが、顔をあげる。


「行く前に、ちょっとベッドに座って。」

「ん? うん………。」


姉の突然の願いに、ヴィレイサーは頷き、彼女の近くに座す。

すると、ヴィレイサーの背を、温もりが包んだ。


「姉さん?」

「ごめんね、ヴィレイサー………。
 けど、あなたが遠くに行ってしまいそうな気がして………。」


メガーヌの心配に、ヴィレイサーは「大丈夫」だと返せなかった。

これから行く所は、それほど危険な所なのだ。

しかしそれでも、姉に不安を植え付けたまま出撃するのはできなかった。

それが悩みの種になり、自分を苦しめると思ったからだ。


「大丈夫だよ、姉さん………。
 俺は必ず帰ってくるから。」

「ヴィレイサー………。」

「だから待ってて。」

「えぇ、わかったわ。」


ヴィレイサーをそっと離し、メガーヌは彼の背を見る。


「それじゃあ………。」


立ち上がり、扉の前でメガーヌの方を振り返る。


「行ってきます、姉さん………。」

「行ってらっしゃい、ヴィレイサー………。」


それ以上の会話を断ち切るように、扉は閉じられた。










魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD

第21話 「最後の戦いへ」










「ここか………。」


ヴァンガードの案内で、初めてゆりかごが浮上してできた穴を覗くデュアリス。


「結界は………。」


その隣で、リュウビが結界を見る。

その瞬間、透明なガラスのような結界は粉々に砕けた。

それと同時に、ゆっくりとニクスが穴から姿を現した。


「ニクス………。」


ヴィレイサーは苦々しげに彼の姿を睨む。


「来たか………。
 それにしても、大勢だね。」


ニクスは全員を順々に見回していく。


「そんな事はどうでもいい。
 決着はどうやって着けるんだ?」

「最深部にある、『インソムニア』という所で行うよ。
 先行するから、どうぞ。」


そう言って、ニクスは先に最深部へと足を運ぶ。


「俺が先行する。
 以前にもきた事があるからな。」


ヴィレイサーがニクスの後に続き、エクシーガ、ヴァンガード、デュアリスと、続々と続いて行く。

そして、ようやく辿り着いた場所には、あの時とは違う扉があった。


「ゼウスが閉じ込められていた扉とは違うな?」


ヴィレイサーの質問に、ニクスは嗤った。


「あんなもの、残しておく必要はないからね。」


スタスタと扉の前まで歩き、開門する。

しかし、それ以上は足を踏み込まず、ヴィレイサー達を見る。


「コレは、ゼウスが作った『インソムニア』だ。
 中には無限の世界が広がっている。
 わざわざ外で戦って、君らが他の事に気をとられる事も無い。」

「ありがたい事だな。
 だが、そこから出られる保証はあるまい?」


ヴィレイサーは射抜くような視線を向けるが、ニクスはまったく気にしない。


「なら、外で全てを壊しながら戦おうか?」


そう返されては、従うしかない。

自分達の大事な仲間、フェイトを助けるためとはいえ、民間人がJS事件の終結に安堵しつつある中、再び絶望に突き落とす訳にもいかない。


「わかった。」

「それでは、どうぞ中へ。
 先に言っておくけど、『インソムニア』から出るには、我々に勝利する以外に方法はない。
 いいね?」

「あぁ。」


ハッキリと答え、ヴィレイサーは七星に立ち向かう仲間達を見る。


「少しでも不安のある奴は残れ。」


だが、誰もその事を告げない。

皆、自分と同じようにフェイトを救うべく立ち上がってくれた者たちだ。

今更引き返すなどと言う事は、誰もしない。


「それじゃあ、行くぞ。」


ヴィレイサーを筆頭に、彼らは『インソムニア』へと足を踏み入れた。


「っ………。」


足を踏み入れた瞬間、眩しい光が降り注いだ。

あまりの眩しさに、一瞬目を閉じる。

そして、光が止んだと思い、目を開けると─────


「ここは………?」


─────扉に入る前には見えなかった通路にいた。

どこかの王宮なのか、その造りは荘厳だった。

周囲を窺うヴィレイサーだったが、ある事に気がついた。

自分の後ろにいたはずの仲間が、誰一人として、彼の傍にはいなかった。


「皆!」


急いで入り口に戻ろうと走ろうとしたが、ニクスの声が響いた。


[ご安心を。 全員無事だよ。]

「何?」


声のした方を見やるが、ニクスの姿を確認する事は出来なかった。

恐らく、全体に響くような設定が、この『インソムニア』に施されているのだろう。


[今、君達はバラバラになっている。
 唯一、4人組が1つだけあるけどね。]


4人組と聞いて、ヴィレイサーは心当たりがあった。


(スバル達か………。)


今回の任務はかなり危険を伴う為、できればフォワード陣達は連れて来たくなかった。

しかし、彼女達の決意は固く、そして真っ直ぐだった。

だからこそ、連れていく事を許可した。

死なない事を絶対の約束として─────


[それと僕らは今、最早七星じゃない。
 全員で12人だ。]

「12人………。」


ヴィレイサーは内心で舌打ちした。

まさか戦闘情報を知らない敵が、増えていたとは………。


[さしずめ、12神と言ったところさ。
 さぁ、自分の戦うべき相手の所に急ぐといい。]


そこでニクスからの言葉は途絶えた。


「進むしかないな。」


独りごち、ヴィレイサーは奥へと歩き出した。



◆◇◆◇◆



Side:ヴァンガード



「扉………。」


今、ヴァンガードの目の前には新たな扉があった。

ニクスからの通信が終わり、通路を適当に歩いた。

そうして辿り着いたのがここだった。

その扉の前に立つと、独りでに開いた。

中に入ると、そこは綺麗な庭園だった。

中央には噴水があり、水路が様々な所にのびていた。

その周囲には、緑豊かな草木が生い茂っていた。

そして、ようやく自分が相手をする者姿が見えた。

中央の噴水の奥に繋がる階段の最上段。

そこには、バリアジャケットとは別の、真紅のコートに身を包んだネブラがいた。


「君か、ネブラ………。」

「ヴァンガード………。」


ネブラはゆっくりと階段を下りてくる。


「君に………。
 いや、君達に聞きたい事がある。」


ネブラから視線を逸らさず、彼女をキッと見据える。


「何かしら?」

「どうして君達は人間を………。
 ひいては世界を壊そうとするんだ?」

「あなたにだけ教えるのもつまらないし、全体通信で答えてあげる。」


階段を全て下りきったネブラは、コートを翻し、庭園を回りながら答える。


「私達七星は元々、他の者よりもズバ抜けた能力を持った者達を集めた部隊だった。
 けど、その絶対的な力に目を付けた当時の王が、軍人として私達を採用した。」

「そして、君達は王の命令で各所を制圧し、勢力を拡大していった。」

「そう。
 だけど、私達にも当然寿命がある。
 それを恐れた馬鹿な権力者達が、『光闇の書』を作り出し、私達の体を弄って、それにしまえるようにした。」

「戦士の長期保存として、だな?」

「正解。」

「けど、それだけの事で世界を滅ぼす気にはなれないな。
 例え光闇の書に保存できる肉体にされたとは言え、寿命がある事に変わりは無い。」

「そうね。
 けど、力がある者が生きていくには、どうしても避けては通れない道がある。
 貴方達の部隊にも1人や2人はいるでしょ?
 強過ぎる力を持つ者が………。」


笑みを浮かべ、ネブラはヴァンガードに向き直る。


「私達は疎まれ、奇異の目で、異端者として見られ続けた。
 力がある事が、間違いだとでも言うようにね!
 そんな私達を救ってくれたのが、今の主、ゼウスと、ヘラよ。」

「ゼウス………。
 そして、ヘラ………。」

「そう。
 ゼウスは軍事転用された私達を助けるべく、永遠の契約者になった。
 彼もまた、若くして上り詰めた階級を持つが故に、影では疎まれていた。
 だから私達に同じ色を見出してくれたのよ。」

「じゃあ、ヘラは?」

「ヘラは、私達みたいな異端者を救済すべく、人間との架け橋になると奔走した。
 だけど………。」


そこで言葉を切り、肩を震わせる。


「だけどヘラは殺された!」

「っ!?」


ヴァンガードは息を呑んだ。


「徐々に認められていったヘラの考えを、人間は壊したのよ!
 だから私達は、世界の全てを殺す! そう決意したのよ!」

「そんな………。
 けど、人の答えが全て同じになる事は無い。」

「なら、ヘラの考えは間違っているとでも言うの!?」

「それは………。」


返答できなかった。

ヴァンガード自身、ヘラの考えには同調していた。

彼女の思想、行動。

その全てが、尊敬できるものだったから。


「人間が自分で滅びの道を選んだだけよ。
 ヘラを殺せば、私達が黙っていないことぐらい、わかりきっているでしょ!」

「ネブラ………。」

「ヘラを殺した世界を………人間を! 私達を拒み、喰い殺す全てを!
 私達が、殺す!」


その宣言とともに、ネブラの足元に魔法陣が浮かび上がる。

それは、ミッド式でもベルカ式でも無く、12神が持つ独特のものだった。

真紅に染められたそれは、彼女の憎しみをそのまま映し出しているとも言えた。


「ヴァンガード!
 私はあなたを殺して、世界を殺す!」

「俺も、君の考えには同調できる………。
 だけど! 解り合える事ができる人諸共殺すなんて………。
 そんなのは間違っている!」


二刀流のアークティックを構え、ヴァンガードは吠える。


「いいわ………。
 だったら、試してみましょうよ。
 終焉を望む私達と、存続を選ぶ貴方達………。
 どちらが最後まで信念を貫くのか!」

「あぁ!」

「字はネブラ。 真名はアルテミス!
 本気で行くわよ………。」

「ヴァンガード・レイス………。
 ネブラ………いや、アルテミス!
 君を止めてみせる!」


その言葉が叫ばれ、2人は激突した。



Side:ヴァンガード 了





第21話 「最後の戦いへ」 了


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