小説
第13話 「それぞれの出撃 堕ちた者の飛翔」
大きな地響きを上げ、天空へと飛翔するその巨大な船を、
カリムは苦々しく見ているしかできなかった。
彼女の預言が、当たってしまったのだ。
“躍る死者達、死せる王の元、聖地より帰った船。”
“古代ベルカ、聖王時代の究極の質量兵器、天地を統べる聖者の船。”
その名は、“聖王のゆりかご”
◆◇◆◇◆
「一番なって欲しくない展開になってもうたな。」
アースラの艦長席に座したはやては、それだけ言うしかなかった。
彼女の目の前に映るモニターには、申し訳なさそうにしているカリムがいた。
「さて、どないしよか………。」
今後の手順に悩んだはやてに、クロノから通信が入った。
[はやて。
本局はアレを、極めて危険度の高いロストロギアに認定した。
機動六課、動けるか?]
クロノの問いかけには、どこか確信めいた感じがあった。
動けるのだと、信じているのだ。
はやてもそれを感じ取り、そして応える。
「うん!」
魔法少女リリカルなのはStrikerS─JIHAD
第13話 「それぞれの出撃 堕ちた者の飛翔」
一方、各地では戦闘機人達が高速で移動していた。
そんな彼女達に、ウーノから全体通信が入った。
[聖王のゆりかごが、安定領域に入ったわ。]
「もう向かってる。」
ノーヴェは走りながらそうぶっきらぼうに返す。
[ミッドの地上全てが人質だ。]
自信に満ちたトーレの声に、ウェンディが疑問を投げかけた。
[あのゆりかごの中にいる、聖王の器って言う女の子って………?]
その質問に答えたのは、楽しげに厭らしい笑みを浮かべているスカリエッティだった。
[あのゆりかごの起動キーだよ。
王と言っても、ただの器さ。]
最後に、彼は全員に「遊んでおいで」と言い、通信を切った。
[あぁ〜………。
相変わらずドクターの話はわかんないなぁ………。]
セインは、自分と同じような意見を出したウェンディに、念話で伝える。
彼女もそれに同意するしかなかった。
[そうっすね〜。]
[けどあの堕天使って、本当に死んだのかな?
ゲイルが納得して無かったみたいだけど。]
[ミラージュの戦闘映像を見させてもらったすけど、
あの出血量じゃあ助からないっすよ。
あたしもこの目で見たっすから。
ノーヴェもちゃんと外にぶん投げたっすよ?]
[まぁ、崩れたビルの残骸の下敷きになったなら、
血液が微量も検出されないのは頷けるけどね。]
[掘り返したら、化けて出るかもしれないっすね。]
[んなまさか。]
以降、2人は通信を終えた。
◆◇◆◇◆
そして、七星の方も徐々に動き出していた。
「皆、これからは無闇に戦闘を起こさないように。
あの方が目覚めるのに、遊んでばかりいるのも悪いからね。」
ニクスは、目の前にいる6人の同志に告げる。
「僕はもう少しスカリエッティと情報をやり取りするよ。」
「その間、あたし達は?」
暇なのがつまらないのか、ネブラは不満げに言う。
「君達には、各地の戦局を逐一報告してもらう。
とは言え、あそこの調査も必要になるから、それぞれ単独で動いてもらうよ。」
「了解。」
「さて、君らの役割分担は、次の通りだ。
まず、ヘイルは例のゆりかごが浮上した箇所。
つまりは、ゆりかごが埋まっていた所の、更に奥の調査。」
「あそこに、主が隠されてる可能性があるからだな?」
「そう。
君は僕ら七星の中では、最も目がいいからね。
恐らくは、最深部にあるんだろうけど。」
「了解だ。
んじゃあ、先に行ってるぜ、お前ら。」
ヘイルは踵を返し、ゆりかごが浮上した後にポッカリと出来た穴に入っていく。
「次に、ネブラ、ミラージュ、ゲイル、ヴァン、レーゲンの5人は、
スカリエッティ組と、機動六課組の動きを見ていてほしい。」
「介入は?」
期待を込めた瞳を向けるネブラに対し、ニクスは首を振っただけだった。
「けど、ネブラには隠密行動で、魔力を出来るだけ集めて欲しい。
あの方の呪縛を解くには、それしかないからね。」
「了解。」
「なら、ゼストの動きは私が見ておくわ。
彼の速さにも、着いて行けるしね。」
ヴァンはそれだけ言って、すぐさま飛翔した。
レーゲンは、ゆりかごの近くに向かい、ネブラは市街地へと。
ミラージュは、スカリエッティのラボの付近へ。
そして、ゲイルはノーヴェ達の所へと向かった。
「もう少しですよ、我が主。」
微笑し、仲間を見送ったニクスは、蒼天を見上げた。
◆◇◆◇◆
[第1グループの降下ポイントまで、後3分です。]
ルキノの声が、アースラ艦内に響き、これからの出撃の緊張感を高めた。
「今回の出動は、今までで一番ハードになると思う。」
なのはの真剣な声に、フォワード陣は無言で頷く。
「それに、あたしもなのはも、お前らがピンチでも助けに行けねぇ。」
ヴィータもそう付け加える。
「ここまでよく着いてきた。」
ヴィータのいきなりの褒めに、彼女達は驚いた。
「4人とも、誰にも負けないくらい強くなった………っていうのはまだだけど。
だけど、どんな相手が来ても、どんな状況でも負けないように教えてきた。
どんなに辛くても努力を重ねた時間は、絶対に自分を裏切らない。」
拳を握り、なのはは4人を励ます。
それに応えるように、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ。
4人は力強く頷いた。
「じゃあ、機動六課フォワード隊、出動!」
「「「「はい!」」」」
各々、最後の準備を始めるべく移動したが、なのはとスバルは残った。
「スバル、ギンガとヴィレくんの事………。」
「あの、違うんです。
ギン姉は、大丈夫だと思います。
必ず私が取り戻してみせます。
それに、ヴィレ兄だって、絶対に生きて帰ってきます!」
スバルの強い口調と熱意に、なのはもそんな気がした。
「だけど、今はヴィヴィオの事と、なのはさんの事が心配で………。」
「ありがとう、スバル。
でも大丈夫だよ。」
翳った顔を見ないように彼女の頭を撫で、なのはは優しく言う。
スバルの顔を両手で包み、真正面から言う。
その暖かい言葉と、確信に近い力強さに、スバルは涙を流しながらも頷いた。
◆◇◆◇◆
そして、出撃の刻(とき)が来た。
シグナムはリィンフォースUと共に、地上本部へと一足先に飛翔する。
それに合わせて、スバル達フォワード陣を乗せたヘリも、
防衛ラインの降下ポイントまで飛行する。
それを見送ったはやては、残ったなのは、フェイト、ヴィータに告げる。
「ほんなら、隊長陣も出動や!」
「「「うん!」」」
[降下ハッチ、開きます。]
ルキノの声と同時にハッチが開き、そこから4つの光芒が舞い踊る。
[機動六課、隊長、副隊長一同………。
能力限定、完全解除。]
カリムが手をかざし、球体がそこに現れる。
[はやて、シグナム、ヴィータ、なのはさん、フェイトさん。
皆さん、どうか………。]
それに頷き返すと、最後の一言を高らかに告げる。
[リミット、リリース!]
その瞬間、彼女達を巨大な魔力が駆け巡る。
なのははそれを感じ、自分の切り札の1つを使う。
「エクシードドライブ!」
[Ignition.]
エクシード専用のバリアジャケットを展開し終え、なのはは3人に並んだ。
「なのは。」
その時、横に並んだフェイトが声をかけてきた。
「お願いだから、無理だけはしないで。」
懇願する目のフェイトに、なのはは返す。
「私はフェイトちゃんの方が心配だよ。
フェイトちゃんとバルディッシュのリミットブレイクだって、
スゴイ威力の分、負担も消費も酷いんだからね?」
「私は大丈夫。」
かたくなに返ってきた返事に、なのはは溜息をついた。
「フェイトちゃんは相変わらず頑固だなぁ………。」
それに頬を僅かに紅潮させ、フェイトも言い返す。
「な、なのはだって、いつも危ない事ばっかり………。」
「私は航空魔導師だよ。
それくらい当たり前だもん。」
「だからって、なのはは無茶が多過ぎるの!
それも、ヴィレイサーみたいに………。」
いきなり出てきた、行方不明の仲間の名に、なのはは一瞬顔を曇らせた。
だが、スバルが自分に言ってくれた言葉を信じ、すぐさま笑顔になる。
「大丈夫だよ、フェイトちゃん。
だって、皆がどれほど私の事を心配してるのかも知ってるもん。
ヴィレくんだって、今この瞬間、ここに向かってきてるかもしないよ。」
「なのは………。」
「私も、ちゃんとヴィヴィオを連れて帰ってくるよ。
一緒に元気に帰ってくるよ。」
「うん!」
安心したのか、フェイトは3人とは離れる。
単身、スカリエッティのラボに向かう為だ。
そして、なのはとはやて、そしてヴィータは前を見据える。
(ヴィヴィオ、必ず助けるからね。)
それぞれの決意を胸に秘め、3人はゆりかごへと向かった。
◆◇◆◇◆
そして、また別の所では、4人の男女がいた。
「どう、“エターナル”?」
[問題ありません。
すこぶる好調と言っても、過言ではありませんね。]
「そう、良かった。」
薄紫の長い髪を揺らし、リュウビ・T・キリシマは微笑んだ。
「リュウビ、全員分のデバイスの調整、終わったぞ。」
短い金髪を綺麗にまとめたデュアリス・F・セイバーが、彼女に告げる。
「エターナルも、大分回復したわ。」
「じゃあ、後は“ヴィレイサー”だけか。」
「リュウビ、デュアリス、アタラクシアとアークティックを受け取りに来たぞ。」
言いながら入ってきたのは、ヴァンガード・レイスだった。
「アタラクシアも?」
「あぁ。
エクシーガは今、ヴィレイサーをみてるから。
その代わりに。」
自分のデバイス、アークティックを先に受け取り、エクシーガのも説明後に受け取る。
「目、覚めたか?」
「いや、まだだ。
けど、大分安定してきたから、そろそろだろうな。」
「急がないと、色々と間に合わなくなるな。」
デュアリスはモニターに映る巨大な船、聖王のゆりかごを見る。
「でも、焦って功を逃したら、それこそ大惨事だよ。
慎重に、だけど迅速に行こう。」
「そうだな。」
「あぁ。」
3人は静かにモニターを見ていた。
ヴィレイサーが目覚めるのを確信して………。
◆◇◆◇◆
ヴィレイサーに繋がれた医療機器の音だけが、静寂を破る部屋。
壁は綺麗な白に統一されていたが、逆に“患者”なのだと意識させる息苦しさがあった。
その部屋で、ヴィレイサーはただ眠っており、エクシーガはそれを静かに見下ろしていた。
そもそも何故ヴィレイサーがエクシーガ達と共にいるのか。
それは、公開意見陳述会にまで遡る。
ケルベロスに腹部を喰われ、出血多量で死にかけたのだが、
エターナルがばれないように、応急処置を施していたのだ。
だが、再びケルベロスに喰われ、奥のフロアに突っ込んだ時、
ヴィレイサーはあまりの衝撃に気を失ってしまった。
そしてノーヴェが窓から放り、落下して行く最中、エクシーガが彼を助けたのだ。
エクシーガは、七星の事を捜査するべく、単身で会場の近くにいたのだ。
そして事件が起きた時、エクシーガの専用デバイス、『アタラクシア・ラスター』に、
エターナルからの緊急救難信号が届いた。
急いで指定のポイントに到着した時、ヴィレイサーが窓から放り出され、
彼女の所へと落下してきたのだ。
『ヴィレイサー!?
こんなにも、傷だらけに………。
急いで治療をしないと。 アタラクシア!』
[Homing Dash.]
そしてエクシーガは、すぐさまその場から消えた。
彼女が使った移動魔法は、指定したポイントの高速で移動するものだ。
移動している最中は、敵に見つからない細工をしている。
そうして彼女が着いたのは、港だった。
周囲に誰もいない事を確認し、1つの倉庫に入る。
そして、最深部に積まれた物の箱を飛び越え、隠されたパネルを操作する。
[PASSWORD.]
『Catastropheっと。』
パスワードを打ち込み、扉は音も無く開いた。
そして、エクシーガはヴィレイサーを連れて入る。
エレベーターに乗り込み、そこから更に奥へと向かった。
ようやく辿り着いたそこには、既に連絡を受けていたヴァンガードが待機していた。
『ヴィレイサー………!』
『急いで医療班を。』
『あぁ………。』
そして、今に至る。
「っ………。」
その時、ヴィレイサーが小さなうめき声をあげた。
「ここは………。」
うっすらと目を開け、ヴィレイサーは辺りを見回した。
「エクシーガ?
俺は………。」
「五体満足で生きているわよ。
それに、治療もあなたが目覚めた事で、完璧に終えたわ。」
「生きてる、のか………。」
「今、皆を呼んでくるわ。」
病室を出、エクシーガは3人とエターナルを呼んだ。
そして、彼に聖王のゆりかごの事を話した。
治療を完璧に終えたヴィレイサーは、話の途中から立ち上がり、
身体が鈍ってないか、大きく運動する。
「今、なのは達が動き出しているわ。」
「俺達も動きたい。
七星を抑えられるのは、俺達だけだからな。」
「ヴィレイサー、行ける?」
「まだ休んでてもいいぜ。」
上から、エクシーガ、デュアリス、リュウビ、ヴァンガードが言うが、
彼らはヴィレイサーの答えを聞く必要は無かった。
どんな答えが返ってくるか、わかっているからだ。
「愚問だろ、お前ら。」
エターナルを受け取り、そう言う。
「先に出撃準備してるから、早く着替えなさいよ。」
エクシーガがそう言い、彼女を筆頭に病室を出て行く。
「わかってるよ。」
言いながら着替え、エターナルを手にする。
「戻るか。
仲間達の元へ。」
[えぇ。
この戦いを終わらせて、ですがね。]
エターナルの答えを聞き、エクシーガ達の元へと走り出す。
待っていた彼女達は、ヴィレイサーを見て、出撃の最終準備に入る。
「ヴィレイサー、自分自身のリミッターは全て外せる状態にあるからな。」
「あぁ。
“ヴィーナスシステム”だけは、まだ解除しないよ。
エクシーガも、それでいいな?」
「えぇ。」
ヴィレイサーのリミッターは、機動六課に傭兵として雇われたとは言え、
解除権はヴィレイサー自身にゆだねられている。
つまり彼は、自分の外したい時にリミッターを外せるのだ。
切り札である、“ヴィーナスシステム”は別としてだが。
このシステムは、エクシーガも同様に所持している為、
互いが解除を促さないと使用できない仕組みになっている。
だが、緊急時の手立てとして、5分間のみの使用が出来る。
やがて、5人が立った位置が徐々に浮上し、海面が割れる。
「行くぞ、皆。」
ヴィレイサーは、4人を順々に見回す。
「チーム、カタストロフィー、出撃だ。」
敵に破局─────CATASTROPHEを与える部隊が、
地獄より戻りし堕天使を先頭に、大空へと舞った。
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