小説 第9話 「信ずる者同士の戦い」 魔法少女リリカルなのはWars 第9話 「信ずる者同士の戦い」 「それじゃあ、私とデュアリスは一旦レーベに戻るわ。」 「あぁ。 俺は墓参りを済ませてから向かうよ。」 「ポートフォール・メモリアルガーデンだっけ? 距離は少しあるけど、定時には戻ってこられるよな。」 「気を付けてね。」 「2人もな。」 そして、リュウビとデュアリスはレーベに、 ヴィレイサーはポートフォール・メモリアルガーデンへと向かった。 「リュウビ、ここら辺で三提督に連絡するか。」 「そうね。」 リュウビがミゼット提督へ回線を開いた。 「ミゼット提督、予定通りヴィレイサーは目的地へと移動しました。」 [ありがとう。 なのは達に連絡するよ。] 「しかしミゼット提督、本当にヴィレイサーとなのは達は仲間になれるんですかね?」 [あの子のまっすぐさには、誰も敵わないよ。] 「それに、これからの戦いには確実に私達だけでは無理だわ。」 「そうだな。」 [それじゃあ、ヴィレイサーが捕まらない事を祈って、彼女達に出てもらうわ。] 「「はい。」」 Side:なのは 私達は今、ブリーフィングルームに居て、三提督の話を聞いていた。 [今回の任務はヴィレイサーを捕らえてほしいのだ。 彼は今、この位置を南下しながら進んでおる。 頼めるか?] 「あの、それは構わないのですが、何故そこまで固執するんですか?」 [奴の力は危険視しなければならない所が多々ある。 このまま野放しという訳にもいかんのでな。] その後、詳細を確認して通信は切れた。 「しっかし、何もヴィレイサー1人に対して全員が出なくてもいいんじゃねぇの?」 「クロノ、私もヴィータの言う通りだと思うけど。」 「いや、現状ではヴィレイサーの力量は全くわからないからな。 ある意味何が起きてもあながち不思議じゃない。 ここは全員で出撃するべきだろう。」 「私もクロノくんの意見には賛成だなぁ。 セグルニア沖での戦い方を見ると、やっぱりそうした方がいいよ。」 「なのはの言う通りだ。 奴はかなり強い。」 「シグナムもザフィーラも認める程ならそうやろな。 ほんなら、準備を始めよか。」 はやての言葉に、各々動き出す。 (今度こそちゃんと「お話し」できるかな?) なのはがボーッとしていると、クロノがやってきた。 「なのは、どうかしたのか?」 「あぁ〜、いや、なんでも・・・。」 なのはが口籠る。 以前フェイトにヴィレイサーともっと話したいという事を伝えた所、それは無理では? と言われたので、自分の中に秘めておきたいと思っている。 「ところで、クロノくんも出るの?」 「あぁ。 念には念をいれてな。」 「そっか。」 (さすがにこの人数じゃあ、キチンとお話しできないよね。 どうしよう・・・。) なのはは窓から、どこまでも青く澄んだ大空を見上げた。 Side:なのは 了 「どうだ?」 [順調なペースで進んでいます。] 「なら、足止めを喰わなきゃ、レーベには定時に到着するか。 ん? あれは・・・なのは?」 ヴィレイサーは、真正面に静止飛行をしているなのはを捉えた。 彼女の眼は、どこか辛そうな色をたたえていた。 「ヴィレくん・・・。」 なのはは、出来れば出会いたくは無いと思っていた。 ここで再会してしまえば、仕事とはいえ、彼と戦う事になるのだ。 そして、彼は創世主軍の部隊を殺す事に躊躇いが一切感じられない。 その躊躇いの無い刃が自分の大切な人に振り下ろされるのは嫌だ。 かと言って、彼と全力で戦えるかどうかもわからない。 だから、もっと話しがしたい。 仲良くなりたいと思ったのだ。 「ヴィレくん、やっぱり、お話し出来ないかな? 話し合えれば、私達は絶対に仲良くなれるよ。」 なのはが左手を差し出しながら、静かに説くように言った。 「確かにそうかもしれない。 だが、お前以外の奴はどうだ?」 「大丈夫。 皆わかってくれる、優しい人だよ。」 なのはは三提督から命ぜられた任務よりも、彼との会話を優先させる。 何故そこまでするのか、自分にもよくわからない。 何かが自分を衝き動かしていた。 その気持ちの正体はわからないが。 「なのは、お前は何故俺の前に立っている。 何か任務じゃないのか?」 「三提督から、あなたを捕らえるように、と。 武装を解除して、投降して!」 「それはできない。 俺にはまだ、果たさなければならない『約束』があるからな。」 「なら、力づくでもあなたを捕らえます。 ディバイン・バスター!」 桃色の光芒を、現在位置から高度を上げてかわす。 「だりゃあーっ!」 すると、真正面からヴィータがアイゼンを振りかぶって肉薄してきた。 それを抜刀したエターナルで防ぐ。 [Harken Slash.] ヴィータとせめぎ合っている間に、フェイトが仕掛ける。 だが、ヴィータの押す力を利用してその場から飛び退き、それを回避する。 次の手を読んでか、エターナルが動き出す。 [Select Cartridge.] 「ハァーッ!」 そんなヴィレイサーの背後から、シグナムが躍りかかる。 「レヴァンティン!」 [Exprosion.] 「エターナル!」 [Defender Cartridge Get Set.] エターナルが素早く『防御』の名のカートリッジをセットする。 「紫電・・・」 レヴァンティンが炎に包まれる。 ヴィレイサーはエターナルを鞘に戻し、迎え撃つ。 [Load Cartridge.] 「一閃!」 「遮破(しゃんは)!」 レヴァンティンを受け止め、そこからシグナムを思い切り押し返す。 「そぉらぁっ!」 「ぐぅっ!」 シグナムを押し返した刹那、背後に迫っていたザフィーラの拳を、 抜刀した刃で受け止める。 そして、そのままその拳を逸らし、ザフィーラの胸部に蹴りを入れる。 だが、それは屈強な身体に阻まれ、足を捕まれる。 「君の敗北でこの戦いは終了だな。」 目の前にクロノが現れ、ヴィレイサーにバインドをかける。 「その過信は命取り。 されど自信を持たねば、想い叶わず。」 ヴィレイサーはかつて教えられた教訓の1つを口にする。 「何?」 「俺はまだ、負けない。」 [Anti Gravity.] バインドが反重力によって解かれる。 クロノ達が驚いている間に距離を取る。 「バインドが・・・。」 「せやったら、弾数の多い技で動きを封じつつ、チャンスを見出すんや!」 ユニゾンしたはやてが指示を出し、なのは達が準備をする。 ヴィレイサーはこの隙に逃げようとするが、シグナムとザフィーラがそれを妨げる。 「ディバインシューター。 シュート!」 「プラズマバレット。 ファイヤ!」 「シュワルベフリーゲン!」 「バルムンク!」 「スティンガーレイ!」 なのは達が放った誘導性追尾弾の総数は60。 ヴィレイサーはそれを見て、微かに笑った。 「総数は60か。 全てフォースバレットで叩き落とす。」 ヴィレイサーは身を翻し、距離を取る。 その後を、複雑怪奇に飛行しながら追尾してくる60の弾丸。 「IS、マルチロックオン。」 ISで全弾を補足し、その間にエターナルがサポートに入る。 「フォースバレット、展開。」 こちらに迫りくる弾丸を見据え、ヴィレイサーの左右に2つずつ魔法陣が展開される。 [Load Cartridge.] 「フル・バースト!」 4つの黒い砲火が前方面から来ていた弾丸をたったの1射で消し去る。 「たった1射で、60もの弾丸を、全て・・・。」 誰かが驚愕のあまり、ポツリとこぼす。 エターナルのダクトから煙が噴射される。 「この程度か。 意外とあっけないな。」 「まだまだ!」 フェイトがバルディッシュをハーケンの状態にして、向かってくる。 ヴィレイサーもそれに対応すべく、エターナルをハルバードに切り替える。 「シグナム!」 「あぁ!」 戦友のシグナムに呼び掛け、彼女もそれに応じる。 「ザフィーラ、行くぜ!」 「無論だ!」 [Master.] 「うん。 アクセルシューター!」 「リィン!」 「ハイです!」 全員が一丸となってヴィレイサーを捕らえようとするが、それは中々叶わない。 「レヴァンティン!」 [Schlange Form.] 「エターナル!」 [Sword Mode.] 「飛竜一閃!」 「閃光墜刃牙(せんこうついじんが)!」 シグナムが放った衝撃波を、ヴィレイサーは悉く打ち破るが、 技と技とがぶつかり合い、周囲が煙に包まれる。 「チッ、どこだ・・・。」 ヴィレイサーの逡巡を見透かしたかのように、突如シグナムが背後から現れる。 「っ!?」 「覚悟!」 明らかにシグナムの方が素早くヴィレイサーを捉えたかのように思えたが、 ヴィレイサーはSEEDを発現させる。 「誰がっ!」 そして、ヴィレイサーはシグナムよりも早く動く。 レヴァンティンの剣先を逸らし、エターナルを振り下ろそうとするが、 負けじとシグナムはレヴァンティンで受け止める。 「くっ! 早い。」 (周囲はまだ煙があるが、増援が来るは避けたいな。 ならば・・・。) 「レゾナンス!」 [Resonace Breaker.] カートリッジが射出され、奇妙な音が響きだす。 「な、何を? っ! レヴァンティン!?」 シグナムが気付いた時には、レヴァンティンにヒビが入っていた。 「くっ!」 シグナムは急いで退く。 なんとかレヴァンティンは無事だった。 「物質には各々、固定振動数がある。 それと同じ周波数を当て続けて破壊するのが『共鳴』の名を冠したこの技だ。」 「大丈夫か?」 傷ついたレヴァンティンをシグナムが心配する。 「あれは!?」 そこへフェイトが現れ、驚愕する。 (シグナムとレヴァンティンがあそこまで押されるなんて・・・。) 「バルディッシュ!」 フェイトの叫びに、愛機がすぐに答える。 [Zamber Form.] 「ハァーッ!」 フェイトは持ち味のスピードを活かすが、 SEEDを発現させたヴィレイサーの強さは予想外のものだった。 高速移動魔法の『ハイマットムーブ』を使わずに、簡単にフェイトに追いつき、 なのはが放った、複雑怪奇な追尾性誘導弾の砲火を容易くよける。 「どんどん距離が離れて行く。 レイジングハート、バスターモード」 [Buster Mode.] 「シャマルはシグナムとレヴァンティンを! ヴィータとザフィーラは2人の護衛! クロノくん!」 「あぁ!」 はやては手早く指示を出し、親友の元へと急ぐ。 「ディバイン・・・」 「プラズマ・・・」 2人は詠唱中のヴィレイサーを威力の高い砲撃で狙う。 「バスター!」 「スマッシャー!」 「エクレールラルム!」 だが、中々直撃はしない。 (諦めない。 絶対に!) 「お願い。 レイジングハート!」 [All Light. My Master.] 「っ!? 押され始めている?」 ヴィレイサーに焦りが生じる。 それは捕まる事に対してではなく、目的を果たせない事に対してだった。 (ここで敗れたら、俺は・・・。) 脳裏に大切な記憶が甦る。 ヴィレイサーという名を冠してくれた、いつも暖かい家族。 自分を弟として優しくしてくれた女性。 常に仲間を、友人を気にかけ、自分をここまで強くしてくれた隊長。 (俺は、皆との約束を何1つ果たせない。) 『妹達の事、よろしく。』 今は亡き母との約束。 『今度、私の娘に会わせてあげる。 あの子は人見知りだから、あなたが仲良くしてあげてね。』 それを最後に、会っていない姉との約束。 『いつか、お前と一戦交える事がある事を切に願う。』 絶対に負けないと誓った隊長との約束。 『また会えるよね? ヴィレ兄。』 目に涙を一杯浮かべた妹との約束。 何1つ、果たせない。 (それだけは絶対に!) だが、突如背後に大きな衝撃が走る。 「ぐあぁ!?」 はやてだ。 彼女の攻撃が当たった時、なのは達の士気がに上がった。 ヴィレイサーは、一気に劣勢に立たされた。 「なめるな・・・。」 [リーダー、最初のリミッターが解除可能時間に到達しました。] エターナルが告げたのは、ヴィレイサーに課したリミッターの解除許可だった。 このリミッターは、一定時間経過するとそれまでの修行を終えたとみなし、 自動的に解除されるようになっているのである。 最初のリミッターは、上級術の使用許可。 残りは、2つ。 1つはギア2の解放。 もう1つはモード3の解放だ。 「リミッター解除。」 [1st Limit Over Limit.] 解放された魔力の量に、なのは達は驚く。 「清き闇よりいでし、切なる光。 裁きの雨となりて、降り注げ! ジャッジメント!」 詠唱を終えた瞬間、大空に巨大な魔法陣が展開し、なのは達全員に光が降り注ぐ。 「さて、目的地に向かうとするか。」 なのは達が生きているのは目に見えている。 ヴィレイサーは、彼女らを殺す気が全く無いからだ。 彼が創世主軍の創られた者を殺す理由は、 何かの力を使って、勝手に命を創りだす事が許せないからだ。 しかもそれが、下らない目的だったり、 ましてや『自分のように』興味本意でやられたりしたら、たまったものではない。 しばらくそんな事を考えていると、煙が晴れた。 どうやら全員無事なようだ。 そこへ、デュアリスから通信が入る。 「どうした?」 [ヴィレイサー、今どこに居る?] 「悪い。 『創世主軍』の妨害を受けて、まだ目的地には着いてないんだ。」 ヴィレイサーの言葉を聞いたなのはは驚いた。 (何で私達と戦っていたって言わないの?) [そうか・・・。 それじゃあ、要件を済ませたら急いでレーベに来てくれ。 創世主軍がが宣戦布告してきた。] 「なんだと!? わかった、すぐに向かう。」 ヴィレイサーは通信を終え、なのは達を、否なのはを一瞥して去った。 「ヴィレくん・・・。」 「まずいな。 『父さん達』に挨拶をしていく予定だったんだけど。」 [手紙を打ち出しておきます。] 「頼む。」 (『姉さん』と『隊長』、まだ消息がつかめてないんだよな。) 「手酷くやられたな。」 シグナムがヴィータを起こしながら言う。 「無茶苦茶じゃねぇかよ。 さすがにここまでとは思ってなかった。」 「しかし、奴と通信していた男の情報では、 レーベが創世主軍に宣戦布告をされたみたいだな 確認を取ってみる。」 クロノが手早く通信する。 「バリアジャケット、結構ボロボロになっちゃったね。」 「最後の術はキツかったわー。」 「急いで療養しましょう!」 「そうだね。 1度戻ろうか。」 全員疲れていたが、それでも、普段から行っている模擬戦の方がもっと辛い。 今回の戦闘では、大きなダメージは最後の術によるものだけなので、回復も速いだろう。 「到着。」 ヴィレイサーは降りたった所で膠着せず、目的の墓石に足を運んだ。 「ただいま、母さん・・・。」 彼が静かに見つめる墓石に刻まれた名は、『クイント・ナカジマ』だった。 「『ゼスト隊長』と『メガーヌ姉さん』は、やっぱり来てないな。」 [そのようですね。] 「さて、手紙はここでいいよな。 『スバル達』なら気付くだろ。」 今日はヴィレイサーの母、クイントの命日だった。 自分をあの忌々しい『研究所』から助けだしてくれた母、姉、そして隊長。 名を冠してもらった後、彼らの部隊に所属するが、 戦闘機人事件の時は部隊から外され、後悔ばかりしていた。 母のクイントは殉職。 メガーヌとゼストは遺体すら戻って来なかった。 (そういえば、姉さんの娘さんも行方不明なんだよな。 必ず探し出さないと。) 「じゃあ、行ってきます。 母さん。」 ヴィレイサーは踵を返し、レーベへと向かった。 [*前へ][次へ#] |