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例えば、目の前にとても自分好みな人間が現れたとしよう。
その容姿は太陽に照らせれる度にキラキラ輝く短めの短髪。
浅い海のように澄んだ、どこまででも透き通る碧い瞳。
刈り上げの白いうなじと、常に全開の骨格の良い鎖骨は衣服の間からまるでこちら側に見せつけてきているかのように、自然と色香を撒く。
アクロバティックな動きのままについてくる太ももはハリがあり、尾びれがひとたび、ちらりと舞えば締まった双丘が顔を出す。
顔も上物。
体格は先程述べた通り、一切問題無し。
それどころか欠点一つ見当たらない。
その判断の結果は…そう、当然襲いかかるに決まっている。





「女性恐怖症…ですか」
「ああ。女性が嫌い…という訳ではないんだが、触れたり、近寄られるのが苦手なんだ」

タルタロスからの脱出後、すぐにルークの使用人のガイと合流をした。
登場シーンといい、第一印象はあまり褒められたものではなかった。
味方とはいえ、敵国キムラスカの国民であり、赤の他人。
どうも、いくらかの手探りを入れてどんな人間性なのか自分なりに把握しておかないと納得出来ない性分だった。

「それではガイはゲイなんですね。ああ、だからあれだけルークお坊っちゃんを必死になって追いかけて、わざわざ敵国まで足を運んだ訳ですか」
「なっ…んで、さっきのでそうなるんだ!?」

隣に腰かけていた男は身を乗り出しぐいっ、と顔を近づけてきた。
冗談混じりで言ったことを、これまで本人に間に受けられるのはなかなか反応が面白い。
焚き火の炎で赤く反射されていた顔は、更に自ら赤みを増していく。

「お静かに。皆さんが起き出してしまいますよ」

ムスッ、と口を尖らせながらも観念したのかガイは身を引いていく。
それからすぐに最寄りのセントビナーを目指す予定だったが、急遽野営で一泊することになった。
非情になりきれず、タルタロスで人を殺めたことを悔やんで神託の盾騎士団の襲撃に戸惑うルークが原因。
そのルークを男勝りに庇った為に、ティアは負傷をする。
なんせ、今まで世界を全く知らないわがまま箱入り息子が急に外に羽ばたかれたのだ。
さらに生身の人間と戦っていくことを重荷に加えられ、精神が追いついていけないことも分からなくはない。

「さ、貴方はもう寝て下さい。明日は早いですよ」
「何だよ。このあとの見張り、旦那一人でやるつもりかい」
「あのわがままお坊っちゃまにやらせる訳のにはいかないでしょう」
「まぁ、言えてるな…」

焚き火の傍でごろりと横たわるルークを見て、ガイは後頭部を掻いていた。
勿論、負傷しているティアに見張は免除。
ルークに至っては「何で俺が、」と文句を言い出す始末だった。
そうなると自然的に残るは大人二人。

「それじゃ、交代の時間になったら起こしてくれよ」
「…そうですねぇ。何なら今、二人でふらっと歩きながらお話しませんか」

睡眠をとろうと、横に寝転がったガイは頭に疑問符を浮かべていた。
だって、さっき少なからず二人で会話していたろ、と言いたげな表情をしている。

「見張りの代わりに譜陣を張っておきましょう。それなら残っている二人が万が一、何者かに襲われることはありません。如何ですか?」
「そ…だな。たまには夜更かしもいいよな」





「やっぱりちょっと心配だな…」

後ろ髪を引かれる思いで、ガイは歩いて見えなくなった野営をしている辺りを眺めた。
夜により、視界は昼に比べいくらも見えはしない。

「大丈夫ですよ。いざとなれば聖獣のミュウがいるじゃないですか」
「ははっ、それもそうだ…っと。ところで、どこまで行くんだ?」

周りは微かに魔物の鳴き声がする。
森林に近いそこは夜風が葉を揺らし、少しガイに不気味な印象を与えた。
話をするだけならここまで入り組んだところに足を運ばなくたっていいだろうに、と今更ながらの解釈をガイはした。

「さて。本題に入りましょうか」

その本題というのは一体、何を指しているのだろうか。
何の為にわざわざ二人になって野営地から離れたのか。

「単刀直入に言います。私は貴方に興味があるんです」
「ははっなんだい、いきなり」

状況を察していない様子が、こちらから伺える。
何回も目にした作り笑いが向けられたからだ。
観察状況的に、それは本人が多少困った場面で使う業だった。
構いも無しに不審に思われない程度に距離を縮める。
それから、確信の一言を送った。

「おやぁ。しらを切るおつもりですか?私は貴方を抱きたい、と思っているのですが」

ガイは丸腰だ。
腰を持ち上げた時に剣を持っていくかどうか迷ったみたいだったが、引きとめた。
例え魔物が現れようと私の譜術で退治しますよ、とガイに釘を刺しておいたからだ。
タルタロスでラルゴに食らったアンチフォンスロットのせいで力は通常の半分以下に制限されていた。
それでもこの道中に十分、戦力となる戦いをしていた。
その実力にはガイも重々承知だった。
旦那なら任せられるな、と簡単にガイははにかみながら剣を置いていった。
今はその甘い判断を、ガイは心の奥底で憎むことになるだろう。

「…っく…!」
「私はあまり手荒な真似は趣味じゃないんです。貴方さえ、大人しく言う事を聞いてくれれば痛いようにはしませんよ」

予め縮めておいた距離は丁度良く、素早くガイを取り押さえることが出来た。
背後をとり、闇に染まった林の中へと誘導する。
いいように譜術で手っ取り早く手首を固定した。
盛大に抵抗することを予想していたが、意外にも本人は冷静な物腰だった。

「…一つ、お聞きしたいことがあるんですが」

振り返るようにガイは首を後ろに回す。
口を尖らせ、何かを含んだ形をしていたが…よく理解している。
ガイは拒めないことを悟っていた。



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あきゅろす。
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