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メリーさんと俺:本編
8
 またしても俺の頭に?が浮かぶ。
「標的って……なんのだよ?」
 嫌な予感がしてやや引き吊り気味の笑みでメリーに聞いた、するとメリーはなぜか頬を赤らめて俯き気味になって言った。

「私、その……こ、神崎さんを……殺しに来たんですっ!」

 俺はガックリとうなだれた。
 まるでわけがわからないよ、予想はしていたけど、やっぱりわけがわからないよ。
「はわ!? こ、神崎さん!? 大丈夫ですか!?」
 メリーが心配そうに声をかけてくれた、でもやっぱり。

「メリー……お前わけわからんわ」
「ふむ? なにがですか?」
「なにがって、俺を殺しに来たんだろ?」
 殺されそうな側が何言ってんだろうな、本当に。メリーはキョトンとするし。

「はいっ!」
 眩しいくらいに笑顔だし。
「じゃあさメリー、なんで殺す相手の家でこんなのんきに紅茶すすったりペラペラ秘密話したりするんだよ、しかも殺す相手と」
「……、しまったあぁぁぁぁ!!」
 一瞬静かになったと思ったら突然叫んだ。今夜中だぞ。

「私ったらまた……うぅ」
 今度は俯いてめそめそ泣き出した、忙しい奴だなオイ。

「だって……神崎さ……グスッ優しいんだも……ズッん……」
「あーほれハンカチ、顔とか拭きなさい」
「あう、ありがと……です」
 ポケットからハンカチを取り出して渡してやる、メリーはそれで鼻をかんだ。
 ……ティッシュにしとけばよかった。


 数十分が経ち、ようやくメリーが落ち着いた。

「神崎さんすみません」
「気にすんな気にすんな、それよりもだ」
「はい?」
 メリーの目を見る、綺麗な紅い目。

「殺すのか? 俺を」

 メリーの顔から笑みが消えた。
「神崎さんをーー」

 殺されるのか、やっぱり。だとしたら逃げてやる、できるかぎり、逃げ回ってやる。


「殺すのは失敗しましたっ!」
「やっぱりか……って、え?」
 気がつけばメリーの顔がすぐ前にあった、近い近い。

「し、失敗!?」
「はい、失敗です! それとも殺されたかったのですか?」
「いや殺されたかないけどよ」
 なんか調子狂うな……。

 メリーは笑顔で俺に言う。
「なら、いいじゃないですか!」
「あ、ああ」
 苦笑しつつ頷く、俺が思っていたよりもメリーのことは信じていいのかもしれない。


 気がつけば外も明るくなっていた。

 ……明るく?

「なあメリー、今何時だ?」
 ヒクヒクと引き吊った笑みを浮かべてメリーに聞いた、メリーはおもむろに壁に掛けている時計を見る。

 時計の表示は午前7時ちょうどを指していた。
「7時……ですね」
「……だな、寝ないで学校確定だわ」
「なんだかごめんなさい、神崎さん」
 メリーが申し訳なさそうに頭を下げる、なんだか俺にも申し訳ない気持ちができてしまった。

「いや、メリーは気にするなよ」
 そう言いながら学校に持って行っている鞄を手に持つ、メリーがそれを見て聞いてきた。
「学校行くんですか?」
「ああ、でもメリーは休んどけ。連絡入れておくから」
 メリーは頷くことで返事をくれた、というか案外素直に聞いてくれたな。


 とりあえずメリーに一通り家の構造や家具の場所等を教えた。
「……じゃ、行ってくるわ」
「はい、いってらっしゃい、神崎さん」

 メリーに見送られて玄関を出る、そういえば学校に行くときに“いってきます”を言うのは何年ぶりだったか。
 そんなことを考えながら俺は高校に向かっていつもの道を歩きだした。

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