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息*数浦


部屋の真ん中で膝をたてた状態のまま藤内からじりじりと距離を取った数馬は、間にコーちゃんを挟んだ状態のまま藤内を睨み付けた。

「数馬、一生のお願い」
「だから、コーちゃんを使えばいいだろ」

藤内が自主トレ好きなのはわかってはいるが、許せることとそうでないことは有る。
今回に限っては完全に後者であった数馬は、ずいっと伊作から借りたコーちゃんを藤内に差し出して顔を背けた。

「人工呼吸の自主トレなんだから、人間のがいいに決まってるじゃないか」
「嫌だってば」

明日は泳ぎに行くから溺れた時に備えて人工呼吸の予習をしたい、と言い出した藤内に数馬は最初頭が痛くなるのを感じた。
何とか持ち直して骨格標本を借りてきたのだが、藤内は満足しなかったようだ。

「数馬、」
「………嫌」

何が悲しくて正常に呼吸しているのに息を吹き込まれなければならないんだと訴えても、一度こうと決めた藤内はなかなか引かない。
そうこうしてる内に部屋の壁ぎわまで追い込まれた数馬は、どうしたものかと悩んでいる一瞬の隙を突かれてあっという間に詰め寄られた。

「……駄目?」
「…………駄目って言ったってやるでしょ…」
「うん」

寝てる時とかに、とか不穏な事を笑いながら言う藤内に、逃げ切れなかったと数馬は深く溜め息を吐いたのだった。

***

「まず気道を確保して、と」
「ぐぇっ」

床に寝た状態で天井を仰いだ数馬は、顎を掴んだ藤内に容赦なく顔を反らされて潰れた蛙のような声を出す。
意識や呼吸の確認はしないのかと聞いたが、どちらも有るから必要ないだろと返された。変な所で大雑把である。
腹を括った数馬はぎゅっと目を瞑って、早くやるならやれと薄く口を開いて促した。

「数馬……接吻待ちしてるみたい…」
「やらないの?」

的外れな事を言うので厭きれたようにそう言えば、素直に謝った藤内がそっと唇を重ねてきた。
空気を送り込まれるという謎の事態に備えて身構えた数馬は、ぷすーっと口の隙間から漏れた息に目を開いてぱちりと瞬く。

「……藤内…」
「あれ、おかしいな……」

口を離して何が違うんだろうと首を傾げる藤内に、色々身構えていた事から力が抜けた数馬は、そのままがっと藤内に掴み掛かって逆に押し倒した。

「かっ……ずま…?」
「あんなんじゃ助からないよ、藤内」

驚く藤内ににっこりと笑いかけてから、ぐいっと先程やられたように藤内の顎を持ち上げて完全に固定する。
苦しさに開いた口から空気が漏れない為に、ぴったりと噛み付くように塞いでから、数馬は思い切り肺に空気を送り込んだ。

「ん───〜っ!」

どんっと胸板を叩いてくる藤内にぷはっと口を離せば、くるりと上半身だけ捻って俯せになった藤内がげほげほと咳き込む。
その背を撫でてやる内に落ち着いたのか、口元を乱暴に拭った藤内が脱力したように、ぽすりと寄りかかってきた。

「……死ぬかと思った…」
「僕が嫌がった理由をわかってくれて何よりだよ」
「…ごめん」

つん、と頬を突きながら言えば、あー…と藤内が小さく唸る。

「ついでに圧迫の仕方も予習する?」
「……人工呼吸しないで済む方法を予習する……」

藤内の胸の上に手を置いて試しにぐっと力を入れれば、手を掴んでゆるりと首を左右に振った藤内に、数馬は声を上げてけらけらと笑ったのだった。




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起きている人に人工呼吸は(恐らく)危ないのでやらないでくださいね







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