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今も昔も遠い未来もすぐ側に(スクベル・企画)
『スクアーロ、抱っこして!』

ふと気付けば、目の前に太陽の光の色をした柔らかい髪を揺らしながら自分に向かって両手を伸ばしてくる小さな子供がいた。年相応の無邪気な笑みを浮かべ、届かない腕を一生懸命上げながらぴょんぴょんと跳ねてくる。
さて、この子供はこんなに小さかっただろうかとスクアーロは僅かに首を捻った。自分に追い付く程ではないが、身長も伸びて少し大人びてきた子供の姿を自分の中に探す。目の前の子供はその少年からは幾分幼く見えた。
ああ、そうか。
これは夢、だ。

『スクアーロってば、抱っこ!』

「わかった、わかった」

いつまでも差し伸べられない腕に不満げに口端を下げた子供に両手を広げてやると元気よく飛び付いてきた為、そのまま背中と足に腕を回して目線が同じになるように抱き上げた。
漸く満足したのか、先程とは対照的ににんまりと弧を描く唇。
こんなにも小さかったかと、すっぽりと収まってしまった腕の中の温もりを確かめた。

『あのねー、ルッスが世話してた花咲いた!王子も手伝ったの!』

「そうかぁ」

嬉しそうに指差す先に目を遣ると、僅かな風に切なげに花弁を揺らす緋い花が咲いていた。
いくつもの蕾を花開かせて、いっぱいに咲き誇る花はふと気が付けば辺り一面に広がっていた。
家も、山も、海も、生き物すら何も見えない場所で、ひっそりと佇む緋い緋い花畑。

「…リコリス、かぁ?」

『うん、スクアーロが死んだらお墓に供えてあげる!』

「う゛お゛ぉい、縁起でもねぇなぁ」

『しししっ』

まあ、仕事柄縁起がどうのと言えたものではないのだが、子供相手に言っても仕方ないだろう。
腕の中で身動ぎしたので下ろしてやろうとしたその時、強い風が長い銀糸を煽っていった。一瞬零になった視界に髪を掻き上げた瞬間、目の前に立つ子供に見慣れた面影を見つけて瞠目した。

『お前は死ぬなよな、スクアーロ』

にんまりと特徴的な笑みは、風に舞い上がる緋い花びらに紛れて消えた。



すっと伏せていた瞼を持ち上げると、既に落ちかけた日が薄暗く照らす自室が映った。
夢から醒めた後の現実はやけに現実離れしているが、目の前で揺れた金糸がそれを更に増長させていた。

「しし…起きた?」

「…あぁ」

スクアーロの膝上に肘をついてにんまりと口角を吊り上げたベルフェゴールは、さらりと肩を滑り落ちた銀糸へと手を伸ばした。

「随分寝てたじゃん?」

「……今何時だ?」

「もう晩御飯なるよ」

長い髪に指を絡めて弄び始めたベルフェゴールの背に腕を回す。何事かとベルフェゴールが顔を上げたと同時にぐいと力いっぱい抱き寄せた。

「スクアーロ?」

不思議そうな表情のベルフェゴールが視界の端に映る。それには構わずに腕の中の温もりを逃さないようにしっかりと抱き締めた。

「…夢を見たぜぇ、昔の」

「昔の?」

「あぁ、年端もいかねぇガキだったお前が、『リコリスが咲いた』、ってなぁ。オレが死んだら墓に供えるとか言ってたぜぇ」

「それいつの話?」

「さぁなぁ」

ベルフェゴールが訝るような表情で首を傾げる。子供は一つ一つの事柄に大きな興味と反応を示すのに対し、しかしそのことをいつの間にか忘れたまま大人になっていく。ベルフェゴールも既にその日のことなど忘れてしまったのだろう。
大人しく抱き締められていたベルフェゴールが、でもさ、と身動ぎして顔を覗き込んできた。

「あの時の花、もう枯れちゃってどこにも無いぜ?だから死んだら自分で取って来なきゃなんないよ」

だから死ねないじゃん、とお決まりの笑みを浮かべるベルフェゴールに、僅かばかり目を見開いた。
それはつまり、そういう意味なのか。

「んな心配いらねぇよ、そう簡単にオレは死なねぇからな」

「えー、でもボスと比べたら死にそうじゃん」

「あいつと一緒にすんじゃねぇ」

『死んで飾る花なんて無い』、裏を返せばそれはなんといじらしい言葉なのか。
言葉に秘められた意味、お前がそう望むなら遠い未来までも傍にいてやろう。





fin.





灰色のジョーカー様に提出させて頂きました。
時間軸としてはリング戦後しばらく。
ベルは表面上平気な顔してるけど内心不安でいっぱいなんじゃないかと。あとルッスの後についてってお手伝いするベルが書きたかった←
しかしあの人はよく死にかけますね全く、こっちははらはらしっぱなしです←

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