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落つる花びらに口付けを・5
衝撃の事件から二週間。つまり、フランが女になってから二週間。
幹部には全て事情は知れ渡っているし、部下達にバレた場合は「実は女でしたー」みたいな感じで通すらしい。口止め付きで。適当じゃね?(まあ元々男か女かわかんないような顔だしそれで通っちゃうあたりマジでウケるんだけど)。
本人も意外と普通に生活していて、既に順応しつつあるようだ(からかうのにいいネタになってるけどな)。
今日は特に任務も無いオフの日。暇を持て余していたベルフェゴールは、ルッスーリアにドルチェでも出してもらおうと自室を出て無駄に広い廊下を歩いていた。

「…ありっ」

談話室へと続く廊下の角を曲がったところで、見知った深緑が目に入る。少しからかってやろうと近付いたところで普段と様子が違うことに気付いた。
壁に手を着いてじっとうずくまり、背中が僅かに震えている。

「…カエルー?何してんのお前」

しゃがんで顔を覗き込んでみるも、俯けられた顔は髪に隠れてよく見えない。
更に角度を変えて覗き込もうとしたらふいと顔を背けられた。
あからさまなその様子に不信感を覚えて、頭を掴んで強制的にこちらを向かせた。

「…フラン?」

「…うる…さい…」

返ってきたのはびっくりする程に弱々しい声、元々よくない顔色が普段より更に青白くなっている。額には冷や汗が浮かんでいて、そのせいか触れた首筋が異様に冷たかった。

「…ちょ、お前どうした訳?いつもの罵声返ってこないとか逆に調子狂うんだけど」

「……いたい」

「痛い?」

聞こえるか聞こえないかの極々小さな声。どこか調子が悪いのか。
こういう時はよくスクアーロのところに行っていたのだが(風邪を引いた時なんかに看ていてくれたのは大抵スクアーロだ、)彼は今任務でいない。となると、次に頼るべき人物は――

「ルッスーリア呼んでくるからちょっと待ってろ」

「…はいー…」

普段なら聞こえるはずがない素直な返事。減らず口一つ返ってこないなんて調子が狂うしつまらない、口をへの字に曲げるとベルフェゴールは談話室へ向かった。



「…これはあれねぇ」

「あれって何だよ」

自室のベッドに転がりシーツを被って丸くなっているフランを困ったような顔で眺めながら、ルッスーリアは小さくため息をついた。
つーかさっきからイモムシみてー、あのカエル。

「ベルちゃんは知らなくていいわ…でもボスとスクちゃんには知らせないといけないわねぇ」

「何それ?なんで王子に言わねーんだよ」

「本人が嫌がるわね、きっと」

「はぁ?」

納得出来ずに眉をひそめたら(まあ前髪で見えないけど)困ったような笑みで返された。まあいいや、別にキョーミ無いし。

「まあ物は揃えてて正解だったわね。ねぇベルちゃん、そろそろスクちゃん帰ってくる頃なんだけどまだ見てないかしら?」

「知らね。まだ来てないんじゃね?オレちょっと見てくる」

「あらそう?ならお願いするわ、私はフランちゃんについてるから」

「はーい」

どうせスクアーロに任務先の街限定販売のドルチェを頼んでいたところなのだ(だってオレ王子だもん)、その楽しみもあったので素直に部屋を出てエントランスへと向かった。

「…カス鮫ー」

外に出て扉に寄りかかりじっと目を凝らす。が、人影なんでどこにも無く、発した音も大気中へと拡散して消えた。
しかし今戻ってもしも擦れ違ったりしたら面倒だ、屋敷の中は無駄に広いから部屋か談話室にいなかった場合探し出すのはまた面倒。

「カス鮫ー、カースーザーメー」

「うるせぇぞぉ、誰がカス鮫だ」

「あ、やっと来た」

ぼんやりと空を見上げて連呼していたら不意に聞こえた不機嫌そうな声。目線を元に戻せば向こうから歩いてくる銀色の同僚の姿を見つけた。

「さっさとカエルの部屋行けよ」

「…何かあったのか?」

「知らね、具合は悪そうだった。詳しくは部屋にいるオカマに聞けよなー」

渡された紙袋の中をさりげなく覗き込む。甘い香りににんまりと笑みを浮かべ、眉を寄せてこちらを見ているスクアーロの背中をぐいぐいと押してやった。
訝るような目をこちらに向けながらも、屋敷内へと押し入れれば階段を上がってフランの部屋へと向かったようだ。
ミッション完了、甘いドルチェの入った紙袋を抱えてベルフェゴールは機嫌よく階段を駆け上がった。

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