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落つる花びらに口付けを・4
丑三つ時から朝方までの任務にその後の買い物、プラスオカマによって強制されたデート。
徹夜明けな上更に一日酷使された体と頭は既に眠気の限界にきている(買い物ってけっこう疲れるんですよねー、特にルッス先輩に付き合ってると)。
早く寝ようと買ったばかりの服を持って部屋に設置された簡易バスルームへと向かい、今まで着ていた服をするりと脱ぐと鏡に映る自分の姿が嫌でも目に入った。

「…………」

全体的に丸みを帯び、線が細くなったのがキャミソールの上からでもよくわかる。背後にある棚の位置から少しばかり身長が縮んだことも実感させられた。深緑の髪も心無しか艶を増していて、少し長さも伸びているような。
…それにしても。

「……小さい……」

いや、元々男だったのだから無くて当然なのだ、むしろいきなり大きくなって重さに肩が凝るよりはいい…と思ってみる。が、じわじわと沸き上がるこの微妙な感情は何だろう。
なんだか嫌な気分になってさっさと部屋着のワンピースに着替え、複雑な気持ちを抱えたままベッドへと横向きに倒れ込んだ。側にあった枕を引き寄せて抱き締める。
現在他の幹部達は元に戻る為の情報収集に奔走しているところだろう。街に出ている間もザンザス達が調べていてくれたらしいが、未だ有力な情報は掴めていないらしい。

「…やっぱり、ずっとこのままなんですかねー」

ぽつりと呟いた言葉は部屋に反響してすぐに消えた。
別に嫌な訳じゃない、元に戻るのはとうに諦めている。機密の研究施設だったらしいから、開発途中の怪しげな薬なんていくらでもあったに違いない。女になっただけなのだからまだましだ、動物になったり廃人になったりするような薬じゃなくてよかったと考えるべきだろう。しかし、かといってそう簡単に割り切れるはずもなかった。
もやもやした感情が渦巻く。
とても眠いはずなのに何故だか眠れず、何度も寝返りを打って天井を見上げた。瞬間、脳裏をよぎる銀色の雨。
そういえばあの人だって徹夜明けなはずだ、最近は立て続けに任務が入っていたからきっと自分達よりも疲労が溜まっている。
自分一人だけ休む訳にもいかないだろう、のそりと起き上がると枕を放って扉へと駆け、ドアノブを掴もうとした瞬間。
こん、こん。控えめなノックの音が室内に響いた。

「…起きてるか?」

次いで聞こえた声は、今会いに行こうとしていた人のものだった。一呼吸おいてかちゃりと扉を開けると、目に入ったのは予想違わず銀色の髪。シャワーを浴びた後に来たのか、僅かに湿気を含んで何束かに纏まっていた。

「起きてますよー」

「…なんつー格好してんだ、風邪引くだろうが」

「平気ですー」

薄いワンピース一枚というフランの格好を目にすると眉を寄せて呆れたような表情。世話好きという訳ではないが元々面倒見はいい性格なので、昔からよく注意された。だが恋人がこんな格好をしているというのに他に反応はないのだろうか。まあ、変態雷オヤジみたいなねちっこい視線を向けられるよりはいいけれど(淡白な人だからそれは有り得ないか)。

「…調べた結果だがな、」

案の定それ以上は突っ込まずに本題に入った。もうちょっとコメント欲しいですねー。

「元々あの施設に格納されていた薬品は全て極秘に作られていた試作品で、当然だが他の研究機関には何一つ知らされてねぇらしい。研究員の一人でも残ってりゃ吐かせるんだが生憎全員消しちまったし、せめてサンプルさえあれば何とかなるかもしれねぇと奴らは言ってたが…」

「つまり方法は無いってことですよねー?」

「そうなる」

期待はしていなかったが、やはり僅かなりとも落ち込むものは落ち込む。小さくため息をつこうとしたところで、用は済んだとばかりに背を向けたその人が目に入り思わず服の袖に手を伸ばしていた。

「なんだぁ?オレは部屋に戻…」

「…一緒にいてくれないんですかー?」

「…オレは眠ぃんだが」

「ここで寝ればいいですー」

「……本気で言ってんのかぁ?」

「本気と書いてマジですよー」

「…………」

「…お願いですから…いてください」

じっと見上げていれば先に折れるのはいつもこの人。今回もそれは同じで、諦めたようなため息をつきつつも部屋に入って後ろ手に扉を閉めた。
ぴたりと身を寄せれば背中に回される腕、平均よりは少し低いけれど確かなその温もりの心地好さに目を閉じる。

「…隊長」

「なんだぁ?」

大好きですよ。

意識を手放す直前自然と零れた言葉、あの人には伝わっただろうか。

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