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落つる花びらに口付けを・2
エントランスに出たところでベルフェゴール以外任務帰りの格好のままだということに気付いたルッスーリアに部屋へと追い返され、私服に着替えて戻ったところで漸く出発の準備が出来た。フランもいつも通りの私服だが、心無しか普段より露出が少なく体型がわかりにくい服を着込んでいて少々暑そうだ。
スクアーロの運転で街に出た途端ルッスーリアはフランを引っ張ってあちらこちらと店を出入りし始め、店を出る度に紙袋が増えていく。最後の仕上げだとばかりに飽き始めたフランを引き摺ってルッスーリアが入っていったのはランジェリーショップ。こちらの姿が見えなくなるまでフランにすがるような目でじっと見られていたが、流石に入るのは躊躇われて結局ベルフェゴールと共に外で待機することにした。

「…でもさ、正直王子もビックリなんだけど」

暇だ暇だとうるさい為に買い与えたジェラートを口に運びながら、行き交う人々を何の気なしに眺めていたベルフェゴールがぽつりと呟いた。

「だってさ、昨日まで男だった奴がいきなり女になって帰ってきたら普通驚くじゃん?スクアーロがそんなに冷静なの変じゃね?それにどう接していいかわかんないしさぁ…」

街を歩いている間ずっとにんまりと弧を描いていた口許が今はマーモンのようなそれになっている。今までの様子から見れば意外だが、ベルフェゴールもやはりというか内心驚いていたらしい。

「女扱いした方がいいのかと思ったけどオレだったらいきなり態度変えられんのやだし、結局いつも通りの反応したけど…」

そう言ったきり黙り込んでしまったベルフェゴール。未だにどうすべきか決めあぐねているのだろう、普段は天上天下唯我独尊、傍若無人が代名詞の王子様だが、思い遣りを知らない訳ではないのだ。

「…お前の対応は間違ってねぇよ、あいつは他の何よりも拒絶されんのが怖ぇんだろうからな」

「うーん…」

悩み始めた頭をくしゃっと撫でてやって携帯のディスプレイへと目をやると、そろそろ午後の一時。指定の時間を過ぎたら待ち合わせのカフェへ向かうよう取り決めてあるから、そろそろ移動するべきだろう。

「行くぞベル、いつまでうだうだやってる気だ」

「はーい…別にうだうだなんてやってねーしぃ」

ジェラートのカップをぽいとダストボックスに放り込み、うーんと背伸びをした後ベルフェゴールがついてくる。カフェでそれぞれアイスコーヒーとアイスミルクティーを注文すると、久々に見る街並みに目をやりながらしばらくの間二人を待つことにした。



「たっだいまー、待ったかしら?」

「オカマ遅いんだけどー、オレ飽きた」

時計の針が一時三十分を指す頃、ベルフェゴールが飽きて帰りたがる時間ぎりぎりに漸く二人は現れた。ルッスーリアの手にはたくさんの紙袋、一体どれだけ買ったのだろうか。
と、不意にフランの姿が見えないことに気付いて視線を巡らせると、ルッスーリアの後ろで僅かに揺れる深緑が目に入った。

「ほら、恥ずかしがってないで出てらっしゃい。隠れてたっていつかは見られるのよ」

「あっ…」

苦笑を溢したルッスーリアが振り返ってフランの腕を掴む。目の前へと引っ張り出されたフランの姿に、思わずグラスを運ぶ手が止まった。
控えめにフリルをあしらった水色のブラウスに、ふんわりと風を含んだような純白のスカート。ブラウスの上には細やかな刺繍が施された紺色のパーカーを羽織っていて、深緑の髪には向かって右側に結び目がくるよう少し工夫した結び方をされた薄いライトグリーンのリボンというおまけ付きだ。
全体的にシンプルだがお互いに主張し過ぎることなく上手く調和している、このコーディネートは流石ルッスーリアというべきか。

「ちょっとあなた達、黙り込んでないで何か言ったらどう?」

恥ずかしさからか再び俯いてしまったフランにくすくすと笑いながら、ただただフランの姿に見入る男共にルッスーリアが一言。ベルフェゴールは一言まあ悪くないんじゃね、と言っただけでそれ以上の興味は無いらしく、途中で頼んだアイスを再びつつき始めた。
改めてフランの格好を眺める。
…正直、かなり可愛い、と思う。

「…似合ってる、んじゃねぇか?」

「当然よねぇ、この子に似合う選りすぐりのものを買ってきたんだもの。これで似合わないはずないわ」

一人舞い上がるオカマ。

「あ、どうせならこのままデートして来たらどう?私は私で行きたいところもあるし、ベルちゃんと二人で行ってくるわ」

びっくりして顔を上げたフランを他所に、ベルフェゴールがはぁ?と返して二人のみの会話が成り立っていく。

「なんで王子がオカマの買い物になんか付き合わなきゃなんねーんだよ」

「あらベルちゃん、私が行こうと思ってたの、例のあのお店よ?予約取っちゃったから取りに行かなきゃならないのよ、たくさん頼んだから一人じゃ食べ切れな」

「行く!」

二十代も後半になった成人男性がそんなものにつられていいのだろうか。
六時に車の前で待ち合わせね、と言い残しあれよあれよという間に二人はさっさと行ってしまい、取り残されたのはスクアーロとフランの二人。
気まずげに視線を落とすフランに何と言うべきか悩んだが、結局何も言わずに席を立った。

「じゃあ…行くか」

こくりと頷いた深緑。傍に寄せれば控えめながらも腕に抱き付いてきて、満更でもない、と思ってしまったことは否定出来ない。

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