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眠れぬ夜は(幼少スクベル)
ピシャアァ。
刹那の瞬きの後、室内の空気をも震わせビリビリと窓を鳴らした雷鳴。
ガラスを叩き付ける豪雨は激しさを増し、音という音を掻き消していく。
その中でこんこんと聞こえた小さなノック、聞き逃さなかったのは自分でも不思議だった。

「…誰だぁ?」

ノックする人物といったらマーモンかルッスーリアしか浮かばない。急な任務でも入ったのだろうか。
ザンザス不在の今、重要な書類は全てスクアーロへと回ってくる(他の幹部には任せられないものばかりだ)。卓上に積まれた大量の書類から視線を外し扉へと目を向けると、かちゃりという小さな音と共に控えめに扉が開いた。
覗いたのは、細い金糸と銀の装飾。

「…ベルフェゴールかぁ?何の用だ、ガキはもう寝る時間だぜぇ」

時計の針は午前二時。まだ書類は残っているが、明日は任務が入っていない為そろそろスクアーロも休もうと思っていた時間だ。椅子ごと向き直ると小さな体を跳ねさせて駆け寄ってきた。次いで体に軽い衝撃。

「ベル?」

身長差の為スクアーロの腰あたりに手を回し、しがみつくようにして抱き付いてきたベルフェゴールの顔を軽く屈んで覗き込む。長い前髪の隙間から僅かに覗いた瞳が不安げに揺れている。ベル、ともう一度呼びかけると、漸く伏せていた顔を上げてスクアーロを見上げた。

「…かみなり」

「雷?」

「きらい。いっしょに寝てよ」

「はぁ?」

切り裂き王子と恐れられる王子様が、まさか雷が怖いのだろうか。
思わず素っ頓狂な声を上げてまじまじと見つめていると、小さな手がぎゅっと服の裾を握ってきた。
ちらりと机に視線を戻す、嫌でも目に入るのは卓上に腰を据える書類の山。
ため息が漏れた。

「…もう少し終わさねぇと寝れねぇんだ、先に寝てろぉ」

「やだ」

「やだじゃねぇよ、ベッド貸してやるから」

「やだ!」

きつく裾を掴んでいやいやと首を振る小さな王子様。ヴァリアーに入ってからの悩みの種の一つだ。
眠れないのならマーモンを抱き枕にでもすればいいだろうに、何故自分のところに来るのか。
昔からやたらと子供になつかれる自分にまたため息。

「…わかった、なら待ってろぉ」

「はやくしろよ」

「命令すんなガキぃ」

服を掴んだままの腕を剥がして再び机に向かった、と不意に感じた膝への重み。
何事か見ずともわかる、ベルフェゴールが膝上を陣取ってスクアーロをじっと見上げていた。

「…何してんだ」

「まってるの」

「ソファーで待ってろよ」

「やだ」

先程から何回も聞いた、『やだ』。この王子様が言い出したらなかなか聞かないのは一緒に過ごすようになってから一週間で理解した。順応性が高過ぎるのも問題だと思う。

「…仕方ねぇなぁ」

「ししっ」

「しし、じゃねぇよ」

三度ため息を重ねて再びデスクワークに集中。
何枚か書類を纏めた頃(三十分くらい経ったかぁ?)、ふと我に返るとすやすやと規則正しい寝息が耳に届いた。
視線を少し下にずらせば、服を掴んだまま膝の上で熟睡している王子様。人を後目に呑気なものだと思ったが、こんな小さな子供に勝手な不満をぶつけるのも馬鹿らしい。
自分はもう子供ではいられないのだ。
ペンと書類を机に置き、全体重を預けて寝入るベルフェゴールを抱き抱えてベッドへと向かう。

「…んー…」

「悪ぃ、起こしたかぁ?」

ベルフェゴールを下ろし自分もベッドへ潜り込もうとしたところで、シーツによりくぐもった不機嫌そうな呻き声。
長い前髪に遮られても尚わかる、明らかに機嫌を損ねたぶすっとした顔。さて、どう機嫌を直すべきか。眠気に負けそうな頭を巡らせて考えていたら、不意に服を掴んで擦り寄ってきた。

「すくあーろ」

「あぁ?」

「ねむい」

「なら寝ろぉ」

「…んー」

言ってるうちに睡魔に負けたようで、服は掴んだままに小さな体を縮こませるようにして就寝体勢へ。しばらくすると再び僅かな寝息が届く。それにつられて襲ってくる睡魔の誘惑に逆らえず、スクアーロはゆっくりと目を閉じた。
仕方ない、残った書類は明日一日潰して終わらせることにしよう。





fin.





揺りかご後しばらくのスクベル。
ベルは両方の意味でレヴィが嫌いです(酷い
ベルもマーモンもたまにスクの寝床に忍び込みます。スクは何だかんだで許します。子供だから仕方ないと割り切って←
年の離れた兄弟みたいなちっちゃいスクベル可愛い。
ベルは小さい頃からスクにくっついて回ればいいよ。

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