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涙の上に咲く花(-10スクフラ♀)
僕は近いうちにいなくなるかもしれない。
いつも通り談話室で分厚い本を読み耽っていたマーモンがふとそんなことを言い出した。
仕事が仕事だけにそれは有り得ない話ではない、自分を含めた幹部のメンバーはその程度にしか考えなかったがザンザスはそれを聞いて何かを感じたらしい。
それから一ヶ月も経たぬうちに、新しい幹部候補だといって後任者を連れてきた。

「スクアーロ、お前が面倒を見ろ」

「…ボスさんよぉ、本気で言ってんのかぁ?」

別に幹部候補になれるような優秀な人材が新しく入ってくるのには当然だが文句は無い。しかしだ、最強の暗殺部隊として恐れられるヴァリアーの幹部候補に、この新米の容姿はとても似つかわしくないのではないだろうか。
マーモンを除く最年少幹部のベルフェゴールが入隊したのは八歳の時、そして目の前にいる子供はそれと同じくらいの…しかし、愛らしい姿をした少女なのだから。
深い森の色をした澄んだ大きな瞳で物珍しそうにこちらを見上げるその様子に、こちらに対する恐怖や怯えは全く感じられない。それはむしろ好奇心に溢れていて、先程から長く伸びた銀糸に手を伸ばしたくてそわそわと忙しなくコートの裾を両手で掴んでいる。

「なんでオレが毎回ガキの子守り役なんだぁ」

「他の奴らに小せぇガキの相手が務まると思うか」

「ベルやレヴィはともかく、ルッスーリアがいるじゃねぇか」

「おかしな影響を受けたらどうする」

「…なるほどな」

「そういうことだ。そいつをつれて今から任務に行ってこい、早く仕事に慣れさせろ」

我らが暴君はそう残すと、言いたいことだけ言ってさっさと部屋から出ていってしまった。
残されたスクアーロはというと、考える。
幹部候補として迎えられるくらいだ、実力はかなりのものなのだろう。しかしどれ程実戦を積んでいるのかわからない上、子供だ。当然ながら経験で劣る、そこをどのくらい、どうフォローしてやるかが問題だ。
なんて考えているうちに目の前の小さな子供が興味津々で近寄ってきて、くいくいと銀糸を掴み引っ張って遊んでいた。
とりあえず髪を引っ張っている手を掴み離させ、目線を合わせる為にしゃがみ込んだ。

「オレはスクアーロ、スペルビ・スクアーロだ。チビ、お前は?」

「チビなんて、レディにたいしてしつれいですー」

「ガキのくせにませやがって…。はいはいお嬢さん、貴女のお名前は?」

「れいぎはちゃんとなってるんですねー、ミーはフランですー」

いきなり生意気なガキだ。

「じゃあフラン、お前実戦経験はどのくらいだ?」

「んー…けっこう?」

「オレに聞くなぁ…」

ちょこんと首を傾げる仕草は年相応の子供として見れば可愛らしいが、暗殺者にそんなものは必要無い。ただ少し話をしてみてわかったのは、この子供は恐らく年の割りに子供っぽい部分が目立つベルフェゴールとセットにすると面倒なことになりそうだということだ。悩みの種が増えるのは大変よろしくない。
だいぶ思考が逸れた、時刻は午後四時を指している。確か今回の標的が住む場所までは車で四時間程かかるはずだ、そろそろ出なければ後々の予定に差し支えるだろう。

「…そろそろ行くかぁ、今日はお前の実力を計らせてもらうぞぉ」

「のぞむところですー。カスザメさんなんかにまけませんからねー」

…やっぱり生意気なガキだ。



標的を抹殺するだけの至極簡単な任務、それを酷く面倒に思ったのは子供付きだからだ。
ベルフェゴールの時に嫌という程経験しているが、長い移動時間をずっと車の中で過ごしていたフランはやはりというか途中で飽き始め、つまらない、帰りたい、構えと駄々をこね始めた。それを宥めすかしながらの道中で、標的がいる屋敷の近くに着いた頃にはまだ任務に入ってもいないというのに疲れてしまった。それとは対照的に車を降りた瞬間元気に飛び出したフラン。子供の体力は恐ろしい。

「早速お前の実力とやらを見せてもらおうかぁ?てめぇの相手でこっちは任務の何倍も疲れてんだぁ、しっかり働け」

「いわれなくてもやってやりますもん」

本来なら幹部が出なくとも部下小隊で片が付くこの任務なら新米の実力を試すにはちょうどいい。例え万一のことがあろうと幹部一人がいれば問題は無いだろう。
空気が変わり、辺りが霧に覆われていく。
霧が濃くなっていくのに合わせて屋敷の中へと足を踏み入れると、既に廊下の見張りは全員意識を失い昏睡していた。

「…それなりにはやるみてぇだな」

「これくらいとーぜんですー」

えへんと胸を張ってみせる子供の数歩先を歩き、人の気配を探る。部下らしき人間はほとんど倒れている為、止めを刺す以外は何の手間も無く標的の部屋まで着いてしまった。
扉を開け放てば、数人の部下達と共にやたらと厳つい顔をした小太りの男がぐったりと横たわっていた。表情がそこはかとなく険しい。

「…お前…何した?」

「たいしたことじゃないですよー、ししょーにおしえてもらったちょっとスプラッタなげんかくをみせてやっただけですー」

「…お前の師匠趣味悪ぃよなぁ、きっと」

「それはいなめないですねー」

我ながら無駄な会話だ。標的に止めを刺そうと左腕を持ち上げかけた瞬間、今までに無かった新たな気配を感じ弾かれるようにして後ろを振り返った。

「…?どうかしましたー?」

フランはまだ気付いていない。
振り上げられたダガーがやけに遅く見える。
舌打ちを一つ漏らして、思い切り床を蹴ると片手でフランを引き寄せそのまま側面へ飛んだ。一瞬左肩に鋭い熱が走ったが気になる程ではない。
不意を突いていい気になっていたのだろう、こちらの動きに反応できずに立ち竦んでいるそいつの首を振り返り様に頂いてやった。

「…油断したなぁ、オレとしたことが」

今度こそ自分達以外の気配が消えたことを確認して、小さく息をつく。腕に抱き締めたままの子供を解放してやろうとして、ふとまだ小さな体が小刻みに震えていることに気付いた。

「どうしたぁ?どっか怪我でもしたか?」

しゃがみ込んで上から下まで一通り見てみたが出血は無いようだ。となるとさっきの衝撃でどこかぶつけたか。
不意に伸びてきた腕にきゅっとコートを掴まれて子供に視線を戻すと、何故か泣きそうな顔でこっちを見ていた。

「……かた…」

「あ?……あぁ、これかぁ。大した傷じゃねぇよ」

先程切られた場所が少し熱を持って濡れている。深い傷ではないようだから帰って適当に血止めでも塗れば問題無いだろう。
ぽんと頭に手を置いてやると、ぽろぽろと大きな瞳から涙を溢しながらぎゅうっと抱き付かれだいぶ困ってしまった。
勘弁してくれ、ガキに泣かれんのは昔から苦手だ。

「ごめ、なさ…、ミーの、せ…で、きず…っ」

「大丈夫だって言ってんじゃねぇか」

仕方なしにとんとんとあやすように背中を撫でてやってもなかなか泣き止もうとしない。しばらく考えた末、着ていたコートの前を開けて昔の傷を晒してみせた。

「見てみろぉ。これなぁ、昔鮫に食われかけた時の傷だぁ」

「…さ、め?」

「この傷に比べれば肩の傷なんざ全然大したことねぇよ、だから泣き止め」

「……ん…」

まだ少しぐずってはいたが漸く泣き止んでくれたようだ、小さな体を右手に抱き上げるときゅっと服を掴んで抱き付いてきた。そのまま屋敷を出て、月の光が見守る中帰路に着く。

「…かえったらミーがかんびょうしますー」

「だから大丈夫だって」

「だめですー、ぜったいあんせーですー」

「はいはい」

仕方なしに苦笑を溢すと、涙の跡の残る顔に花のような微笑みを浮かべた。





fin.





いろいろと捏造でちっちゃいフランと二十代の隊長です。
扱いにくい幼女←
ボスはあれ、とりあえず子供は鮫に任しときゃいいだろ的なそんなノリ。深い考えは無い←
なんだかんだでちまい子供の扱いは上手いので割りとすぐ鮫に懐きます。
ショタでもよかったんですがショタ担当はちっちゃいベルがいるのでおにゃのこにしてみました。
しょたベルとろりフランもセットで書いてみたい…

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あきゅろす。
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