[携帯モード] [URL送信]
桜の下で逢いましょう(スクフラ・スク誕)
白蘭を倒したからと言ってすぐに未来が変わる訳ではない。
今の世界をこのように変えた根本的な原因は白蘭ではないからだ。
実際にその人物が自分勝手な行動を取らなければ白蘭の能力も目覚めることはなく、白蘭本人も極普通の生活を送っていたのだろう。
傍迷惑な話だと思う。
だが、その行動がなければ手に入れられなかったものがあるのも事実。
過去からやって来た彼らが本来いるべき場所へと戻って行く。
その寸前、そっと傍らに寄り添ってきたそいつが囁いた言葉も、塗り替えられた未来では水の無い砂漠で咲こうとした花のように枯れていくのだろう。



「君は何か大切なことを忘れてはいないかい」

隣に座り黙々と分厚い本のページを捲っていた小柄な影が、不意に頭を上げてくるりとこちらに視線を向けた。
どういう意味だと問い返せば、「どうもしっくりこないんだ」と意図の見えない答えが返される。

「僕はこの世界に漠然とした違和感を感じるのさ」

ぱたんと本を閉じ投げやりにソファーに放り、どこか苛ついているような様子でテーブルに置いてあったレモネードのグラスを掴む。

「僕は同じ時間を違う形で過ごしていた気がする。何かが違うんだ。なんで僕はここにいるんだろう。いや、いて当然のはずなのに表現し難い不安を感じるんだ」

ここにいる僕は本当にここにいるべき僕なのかい?
まるで正しい答えなど無い謎かけのようにそう唱え、マーモンは苛立ちを掻き消すようにレモネードを飲み干した。

「…何故そう考える?そしてそれをなんでオレに言うんだ?」

「ボスにはもう言ったよ。ボスはボスで何かを感じたみたい、超直感は伊達じゃないね。それと君に言ったのは必要だと感じたからさ。…全て術士の勘だよ、確実性を保証するものなんて何一つ無いんだけどね」

まあ僕は今まで通り金を集めるだけさ、そう言ってマーモンは談話室を出て行った。
訪れた静寂が先程の言葉を反復させる。
『君は何か大切なことを忘れてはいないかい』。

(…知るかよ)

大切なこと。それはどういった意味で大切なのか。それすらわからない状況で何が大切なのかなどわかるはずがない。大切、ということは何か重要な任務でも入っていただろうか。いや、全ての任務を把握して幹部や部下に当てているのは自分だ、それはない。
ならば何だ。
人に会う予定でもあったか。何か大切な予定、人に会う約束――?

――"桜の下で―"

「…桜」

いつか聞いたことがあるような気がした。だが桜は日本にのみ自生する日本の国花、イタリアには日本から送られた限られた場所にしか無いはずだ。
そういえば沢田がそろそろ桜が開花するから来てみたらどうかと言っていた。
どうせ今日から数日間の休みには何も予定が無い。何か物足りない感じがしていたが、なるほどマーモンが言っていたのはこういう感覚なのかもしれない。
ふとカレンダーを見ると三月十二日、今から飛べば明日には日本に着く時間だ。今年の桜は少しせっかちだと誰かが笑っていた気がする。



桜と聞いて向かったのは、リング争奪戦の舞台となったあの学校だった。満開の桜で埋め尽くされた校庭、外から眺めているとふと気配を感じて振り返る。
不機嫌そうに眉を寄せてこちらを睨んでいるのは、確か跳ね馬の弟子の、闘争心旺盛な雲の守護者。

「あなたは何しに来たの」

「桜が咲く頃だって聞いてなぁ、休暇を利用して見に来ただけだ」

「……桜、好きかい?」

何がお気に召したのか知らないが、先程までの不機嫌そうなオーラが柔らぎ打って変わって機嫌良さげな様子で隣へと立ち、うっすらと笑みさえ浮かべてみせた。こいつの思考回路が理解できないが、害は無いので放っておいた。

「今日は随分と大人しいじゃねぇか」

「君は群れてないからね。でも校内の風紀は荒らさないでよ」

「興味ねぇ」

「ふうん、ならいいけど。さっきは数人が侵入して騒いでいたようだからね、君は違うみたいだから好きにしていいよ」

「そうかぁ」

言いたいことを全て言い終えたのだろう、満足げに去っていく後ろ姿。面倒に捲き込まれずに済んでよかったと再び桜に視線を移した時、今の季節に似合わない深い緑が視界を掠めた。
まだ若葉が生い茂る時期ではないはず、現にすぐ側に生えている桜は淡い色の花びらだけが舞っていて気が早い木の葉はほとんど目立ってはいなかった。
思わず校庭に足を踏み入れる。
深い緑を探して歩みを進めると、すぐに見つけることができた。

「ここは侵入禁止じゃねぇのかぁ、雲雀に見つかるぜぇ」

いきなりトンファーで殴りかかられるのは誰でも遠慮したいだろう、そう思い声をかけると振り返ったその顔は年の割りに幼く瞳は髪と同じく珍しい色をしていた。
何かが思考を掠めていく。

「…やっと見つけました」

小さな唇が開いて独特の抑揚を含んだ声が鼓膜を震わせた。初めて聞いたはずのそれが何故か酷く懐かしい。

「約束、覚えてますか…?」

「…約束…?」

「『桜の下で逢いましょう』」

桜の、下で。
遠い場所にあった記憶が少しずつ引き寄せられていく。
可愛い顔して吐くのは毒ばかりで、生意気な口を叩くと思えば甘えてきたり、行動が読めなかった――

「…ああ、覚えてる」

手を伸ばして抱き付いてきたその子供を受け止める。
強く力を込めてしっかりとしがみついて、顔を上げると躊躇いがちに何も用意してないですけど、と呟いた。

「誕生日、おめでとうございます」

「…最高のプレゼントだな」

ずっと昔の、いやこれから訪れるはずの別れから数年。
巡る季節と共に再び戻ってきた子供をきつく抱き締めた。

(何度世界が変わっても、)

桜の下で逢いましょう。





fin.





スクアーロ誕生祝いのスクフラでした。
あまり誕生日の意味無いですが…
説明を入れると、白蘭を倒して過去が変わり新しくなった未来で違う時間軸を過ごしていた時の記憶の断片が僅かに残っているという。過去と記憶が丸々塗り替えられた感じです。
最終的にはちゃんと思い出しました。
ついでに言うと並中の校庭に侵入してはしゃいでたのはナッポー集団です←
Buon Compleanno,Squalo! Ti amo!!

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!