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◇願い星を重ねて(スクフラ・学パロ)
冬は空気が澄みきっていて空が綺麗だ。
どこまでも透明でどこまでも遠く広がる星空は、プラネタリウムなんかじゃ真似できないくらいに美しい。
星屑を溢した海のようなそれが、幼い頃からフランは大好きだった。
秋、運動部のほとんどが大きな晴れ舞台から降りて三年生は受験に向けて本格的にペンを握るけれど、内定が決まっている人など勉強する必要が無い人達の中には文化部へと移る人もたまにいるらしい。
フランが天文学部に入った時は部員は数人しかいなくて、活動も活発ではなかったから部室に顔を出すことはあまり無かった。けれど今は活動がある日は必ず部室に通っている。
きっかけは、地元に限らず全国でも名の知れた某大学から遊びに来た、この高校のOBだという人だった。
夏休みに入る前に開かれた天文学部の催しで出会ったその人はいつも仏頂面で無愛想だったけれど、本当は優しいところもあって頭がいい。
運動部よりもこっちの方に思い出があると言ってその人はよく部室に遊びに来ていた。けれど何か連絡してから遊びに来る訳じゃないから、部活がある日は一日もサボれない。
以前と打って変わって毎回必ず来る自分を、一部の先輩達は察してるみたいでことあるごとにからかってくる。それでもあの人は全く気付いていないみたいだけれど。
今日はテストの嵐も過ぎ去った待ちに待った休日だ。わざわざ冷えきった外に出る用事も無いのでイヤホンでお気に入りの曲を流しながらベッドに寝転がっていたら、先日やっとアドレスを訊くことができたその人からメールが届いた。内容は至極端的で、少し呆れながらもあの人らしいなと送信キーを押した。
冬の太陽はとても気が早い。
あっという間に日は沈み、時刻はもう夜の九時だ。今から家を出れば待ち合わせの時間にちょうどいい、夕飯もシャワーも済ませたから急いで帰ってくる理由も無い。
肌を刺すような寒さの中、待ち合わせ場所と決められた丘までの坂を登っていく。そういえばあの丘はカップルの人気スポットだっけ、他に誰もいないといいけど。
ぴゅうと吹いた凩(こがらし)に思わずマフラーを寄せると、坂道の先、丘の上に備え付けられた手摺のところに星屑と負けず劣らず綺麗な銀色が見えた。黒いイヤマフと黒いコート、闇に溶けてしまいそうな色なのに長く流れた銀に照らされてはっきりと存在を主張している。
かさりと枯れ葉を踏む音が響いて、気配に気付いたらしいその人がこちらを振り返った。

「悪ぃな、こんなところに呼び出して」

「それは全然いいんですけどー…」

側に寄ってその人の何も着けていない指先に触れると、冷えきった肌にびっくりして思わず手を離してしまった。
よくよく見てみると身に付けているのはコートとイヤマフだけで、寒がりのフランからすれば風邪を引くんじゃないかと思うくらいの軽装備だ。

「…待ちましたかー?」

「いや、そんなに待ってねぇよ。それに楽しみで早めに来てた自分の責任だしな」

「……それって…」

どういう意味だろう。
口を開く前に手を取られて、お前こそ寒くねぇのかと息を吹きかけられた。それに驚いて身を固めると、何を思ったのか不意に引き寄せられた体。

「お前寒がりだったよな」

そう言って後ろから回された腕にしっかりと抱き締められた。
これは何のつもりだろう。何の意味があるんだろう。
冬の空気ですっかり冷えていた体が急激に熱を持って、耳まで真っ赤になっている。

「空、見てみろ」

「はい…?」

恥ずかしさと嬉しさが入り交じったこそばゆい感情からいつの間にか俯いていた顔を上げた。

「……え?」

きらり。
星が一つ煌めいた。

「…綺麗だろぉ?」

一つ、また一つ。
真っ黒なキャンバスを横切って、たくさんの星屑達が澄んだ空から降り注ぐ。
流星群、生まれて初めて見たそれが心の中を満たして記憶の底に沈み、新たな思い出となった。
背中に感じる温もりと折り重なって、深く深く刻まれる。
ふと一際強く煌めいたそれが消えた瞬間、星屑の雨がぴたりと息を潜めた。

「…何か願いはかけたのかぁ?」

その声ではっと我に返った。
慌てて見上げれば頭一つ分以上高い位置にある銀の瞳にじっと見つめられている。
流れ星に願い、叶えて欲しいことがあったのにいざ目にしたらその綺麗な軌跡に飲まれてすっかり言い忘れてしまった。

「先輩は何か願ったんですかー?」

今更になって込み上げてくる悔しさ、項垂れたいのを我慢して相手を見上げる。
けれどその人はさぁなと誤魔化して、明後日の方向に視線を逸らしてしまった。
その答えでは普通に『秘密』と言われるよりも気になる、問い詰めようと口を開こうとして、ぐっと押し付けられた唇にそれを遮られた。

「…っ、…ん、ぅ」

「………」

「…ぁ……」

突然のことにびくりと肩が跳ねて、それに気付いたのかすぐに離れていった唇。それがちょっとだけ寂しくて思わず相手の服を掴むと、少し驚いたように銀の瞳が揺れた。

「っ、もっと…」

「……いいのか?」

「…ん…」

再び近付いた唇にそっと目を閉じた。後ろに回された腕が優しく背中を撫でていく。
応えるように首に腕を絡ませると、それを合図にしたかのように一気に深くなる口付け。

「…っん、ん」

慣れないそれにすぐ限界がきて、きゅっと服を掴む手に力を込めるとそっと離れていった。

「…はっ、ん…せんぱ、」

「……好きだ」

え、と思わず唇から漏れた声。
いま、なんて?
絞り出す声が震えて、途切れ途切れになる。

「お前は?やっぱり気持ち悪ぃか?」

「違っ、」

ばっと顔を上げると、普段の仏頂面とは違う酷く真剣な表情と目があった。冬の寒さに奪われていた熱が再び息を吹き返して、心臓が大きく跳ね上がる。

「…す、きです」

「ん?」

「ミーも先輩のこと…好き、です」

情けなく小さくなっていく声も、強く抱き締められて静寂に溶けていった。後に残るのはとくんとくんと速くリズムを刻む鼓動と、身を包む心地好い体温だけ。

刹那に消える流れ星達は、でもちゃんと耳を澄ませて願いを聞いてくれていたみたいだ。





fin.





前々から書きたかったスクフラ学パロネタ。
大学生×高校生の年の差萌える。天文学部とか萌える(^^)
フランは見た目(だけ)大人しそうなので文化部の方が似合いそう。スクは運動部でも文化部でもかっこいいけど文化部の場合は眼鏡装備でよろしく頼みたい←
学パロ萌え。

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あきゅろす。
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