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スイート・ドロップ(スクフラ♀)
朝早く目が覚めて、二度寝するにも微妙な時間だったからシャワーを浴びて昨日の任務の報告書を提出しに行ったら、小さな紙切れに視線を落として首を傾げている隊長がいた。

「それ何ですかー?」

「…最近人気のスイーツ店の無料招待券、だそうだ」

だそうだ、ということは自分で入手してきた訳じゃないらしい。どうしたのかと聞けば、行き着けの店のマスターが自分は行かないからと譲ってきたと説明してくれた。

「行かないんですかー?」

「甘いもんは好きじゃねぇ、大体三十路過ぎの男にこんなもん渡すのが間違ってんだろ」

「勿体無いですー」

「ならお前にやるよ」

「え?」

「いらねぇか?」

なんとなく呟いた言葉に返ってきた返事に思わず顔を上げた。甘いものは大好きだしくれるのなら是非欲しい、けれど。

「…み、ミーは…」

「あ?」

前々からずっと思っていることだけど、なんで一言伝えるだけなのにこんなに勇気がいるんだろう。でも言いかけては口を閉じてを繰り返していたら訝るような表情で見られてしまった、延ばせば延ばすだけ怪しまれてしまう。たった一言伝えるだけだ、さらっと言ってしまわないと。

「どうせならた、隊長と一緒に行きたい…です」

やばい、噛んだ。
どうしよう絶対怪しまれた、変に勘繰られたら断られるかも。

「別にいいぞ」

「へっ?」

やたらと速い心臓を抑えて返事を待っていたら、意外にもあっさりとOKが出てパッと顔を上げた。

「お前一人で行くには少し遠いしなぁ、車あれば別だが」

「あ、なんだ…」

ちょっとだけ期待したのに…。

「なんだって何だぁ、行きたくねぇなら別にいいぞ」

「や、行きます行きますー!ちょっと準備して来ますから待っててくださいー」

「今から行くつもりかぁ、まぁいいけどよ…って待てフラン、報告書は置いてけ」

「あ」

せっかくの機会を潰されて堪りますかー。
慌てて部屋に戻ろうとしたら持ってきた報告書を渡すのを忘れていた、隊長の呆れたような視線が痛い。
踵を返して報告書を差し出すと、義手の方の手で受け取って反対側の手に頭を撫でられた。

「んなに浮かれる程甘いもん好きかぁ?」

「……好きですよー」

ただ甘いもの食べに行くだけならこんなに浮かれませんけどね。
とは思っても恥ずかしいから口には出さない、それに言ったところでたぶんこの人は全然意味を理解しないだろう。
鈍いって度が過ぎると罪ですねーホント、まあ暗殺者に罪も何も有りませんけどー。

「生意気なだけかと思ったら年相応に可愛い部分もあるじゃねぇか」

「…そ、それはどうも」

いきなり何を言い出すんですか、この人のことだから深い意味は無いとわかっていてもときめいてしまう自分が憎い。
朱に染まった頬は俯いて隠して、ぱたぱたと逃げるように扉へと駆けると、それ、と今着けている蝶々の髪飾りを指差しながら隊長が言ってきた台詞に髪を撫でつけるふりをして更に赤くなった顔を隠した。

「似合ってるな。可愛い」

…隊長のばーか。



「…ちょっと気合い入れ過ぎましたかねー」

先程あんなことを言われたものだから、柄にも無く服選びに熱中してしまった。
これは違う、あれに併せるならそっちの方がいいとか、色合いのバランスが悪いとか。どうせならやっぱりスカートにしようとか。
普段はあまりしないけどメイクだって頑張った。前にルッス先輩に女性としての品格がどうのと散々聞かされた時に半ば無理矢理化粧されて、でも可愛いと褒めてくれたピンク系統で纏めてみたけれど、その時の話が僅かばかり頭に残っていたのか案外悪くない。マスカラはちょっと長めにして、グロスはリップの色に合うものを。
服は悩んだけれど、結局フリースの付いたピンク色のミニスカートに、胸元に小さなリボンを結んだ白と薄紫のストライプ模様のキャミソール、その上に少し袖が余り気味の真っ白なジャケットを併せた。
それと頭にはあの人が似合うと言ってくれた、蒼い蝶々の髪飾り。
…うん、今思い返してみるとやっぱり気合い入り過ぎですねー。今更ながら恥ずかしくなってきました。

「隊長ー」

お気に入りの小さなバッグを片手に車の前で待っていたその人に駆け寄ると、何か言おうとしたのか口を開きかけて、だけど何も言わずに口を閉じてしまった。
その反応に首を傾げると、ふと視界が翳り柔らかで温かい感触を唇に感じて、目の前にある端整な顔立ちに気が付いた時にはそれは既に離れていた。
行くぞ、とぶっきらぼうな声が聞こえて我に帰る。
さっきのって、なんていうか、所謂…あれですよねー。…っていうか何気にミー初めてなんですが。
唇に残った感触が気になってせっかく食べに行ったドルチェもどんな味だったかわかりやしない、時々何か言われたような気もするけど適当に返事しただけで何を話していたのかも覚えていなかった。
何一つしっかりと楽しめないままレストランで夕飯を済ませて、そろそろ帰路に…って待ってください、ミーまだ何も楽しんでないんですけど!でもミーは悪くないですよ、全部隊長が…そうです、隊長のせいですー。
最早何を言っているのかわからない、全然自分らしくなかった。でもそんな自分にしたのはこの人で。
隣を歩くその人をちらっと盗み見てみたけれど、こっちの方は全然見ていない。ちょっとだけ落胆して視線を外そうとした瞬間、思い切り目が合ってしまった。

「え、と」

「………」

だけどすぐに逸らされて、あの人の視線はもう闇の向こう。なんとなくきゅっと唇を噛んだら、相手から唐突に話を振られて少しだけびっくりしてしまった。

「…お前」

「は、はいっ?」

…ちょっと声裏返りました、かっこ悪いです。

「そんな格好もするんだな」

「はい?えーっと…た、たまには…といいますかー」

「そうかぁ」

「…変、です?」

「いや…」

目だけを振り返らせてそう言うと、再び前を向いてしまった。…あの、なんか気まずいです、もう帰りたいです。いや、帰るところなんですけれども。

「似合ってる」

「へ?…あ、え」

だからいきなりは止めて欲しい、返答に詰まって俯き小さくありがとうございます、と返すとぶっきらぼうにだけど返事をしてくれた。

「…また」

「はい?」

「また、来るか?」

理解するのに少し時間がかかった。しばらくして漸く意味がわかって、期待が胸を膨らませる。

「……連れてきてくれるんですか?」

「お前がいいならな」

視線を在らぬ方へと逸らしてぼそっと呟いた。そんなの答えは決まってる、普段なんて出来っこないから雰囲気で誤魔化してぎゅっと腕に抱き付いた。

「…喜んで」

突如落とされたそれはドルチェより甘い雫、

(期待しても、いいんですよね?)





fin.





焦れったくて仕方ないスクフラ♀。
見てる方がすごいやきもきする感じです、くっつくならさっさとくっつけ的な←
じわじわと距離が縮まってくその途中。
数日後にどっちかが告白してさっさと付き合えばいいよ(^^)
女の子書くの楽しいです。

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あきゅろす。
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