淡く霞む白雪を舞わせて(ヴァリアー・新年祝)
ジャッポーネの人々は信心深いのだろうか。
一年の始まりの日、他の幹部達と共に神社へと初詣に来たフランは、あまりの人の多さに驚かざるを得なかった。
沿道にはたくさんの出店が立ち並び、甘さを含んだ美味しそうな匂いが辺りに立ち込めている。
「久しぶりに来たけど、やっぱ人多いなー」
隣で林檎飴をかじっているベルフェゴールがきょろきょろと周りを見回す。フランもそれに倣って辺りを捜してみたが、一緒に神社までやってきた上司二人が一向に見つからない。
「何やってんですかねー、あの人達」
「何かやらかしてたら人が集まんじゃね?まあスクアーロが乗らなきゃそんなことにはなんないと思うけどさ」
相変わらず背伸びしたり飛び跳ねたりして二人を捜しているベルフェゴールを後目に、フランは先程出店で買った淡い桃色のふわふわした食べ物を少しだけ食んでみた。途端、雲のような形のふわふわしたそれが舌の上で一瞬で溶けて、ふわりと優しい甘さが広がる。小さく感嘆の声を漏らすと、いつの間にかこちらを向いていたベルフェゴールがにんまりと口許にいつもの笑みを浮かべながら眺めているのに気付いた。
「つーかお前、その格好でそんなもん食ってるとマジで女みてー」
「余計なお世話ですー、あんたも幻覚で同じような格好にしてやろうか」
「ヤダ、だってオレ王子だもん」
淡い桜色の振り袖に、紫色の蝶々が飾られた銀色の簪。ちなみにルッスーリアプロデュースだ。
初詣だから着物を着ましょう、と異様に機嫌の良いルッスーリアに誘われ、たまにはいいかとついていったのが間違いだった。
いくら顔が中性的で小柄だといったって、まさか本当に女物の着物を着せることないじゃないか。
「ししっ、あいつどんな反応するだろうな。ボスは何も言わなさそー」
「あのボスが他人の格好に興味示す訳無いですー、流石にピエロみたいな格好だったら変な目で見そうですけどー」
「パイナップルみたいな頭とか?」
「ボスでも笑い出すんじゃないですか」
二人でそれぞれ違う飴を口にしながら人混みを掻い潜って開けた場所に出る。すると未だきょろきょろしていたベルフェゴールが不意にあれ、と不自然に人がいない空間を指差した。
「スク先輩とボスじゃね?」
「あ、本当だー」
「……なんかよく見たら二人共顔に何か書いてあるんだけど」
じいっと目を凝らして見ていたベルフェゴールが、少しの間を置いてけらけらと笑い出す。どうしたのかと訝るような顔をしつつフランも上司二人をじっくりと眺めてみた。
眺めるとはいっても二人共素早く立ち回っているのでかなり見づらい(こんなところで何やってるんですかねあの人達)。少し近付いて更に目を凝らしてみると、二人が板のようなもので何かを打ち合っていることがわかった。横顔に視線を移してみると、両者共に丸やバツなど黒い模様が書いてある。
「どうしたぁボスさんよぉ、最近動きが鈍ったんじゃねぇかぁ?」
「るせえっ」
ジャッポーネにはお正月に羽根突きというスポーツをやるらしい。現在二人が本気でやっているのはどうやらそれらしいが、片や暗殺部隊のボス、片や二代目剣帝という組み合わせではただのスポーツで納まるはずがない。どうりで周りに人が集まっている訳だ。
「センパーイ、どっちに賭けますー?ミーは優勢っぽい隊長で」
「んじゃオレはボスー」
なんて呑気な会話をしていたからだろうか。右へ左へと移動するそれを眺めていたら、不意に吹いた強い風に軌道が逸れて、勢いを増したそれがひゅっとフランの頬を掠めていった。
正直見えなかった。血が流れなかった代わりに、ひやりと一つ滑った汗。
「悪ぃ、大丈夫だったかぁ!?」
「カスが、コントロールくらいまともにしやがれ」
慌ててフランの側へ駆け寄ってきたスクアーロと、それを見て勝ち誇ったような笑みを浮かべたザンザス。隣のベルフェゴールはやはりというか必死に笑いを堪えていた。後で軽く殺そ。
「チッ、同点だなぁ…時間も時間だしそろそろ帰らねぇとあいつらがうぜぇぞぉ」
「オレは先に帰る、カス共の話はお前が聞いてこい」
「はぁ!?ふざけんなクソボスがぁ!」
ザンザスは満足したように着流しの上から羽織を纏うと颯爽と歩いていった。颯爽と、などと言っても顔に丸やらバツやらが書かれている為か全然かっこよくもないのだが。
「スクアーロ、出店回ろうぜ」
「顔の墨落としたらなぁ」
「ならあいつん家でさっさと落としてこいよ、王子待たせたら二倍買わせるからな」
「さっさと行ってくればいいんだろぉ」
ベルフェゴールの我が儘にくしゃくしゃと自分の髪を掻き乱したスクアーロはそこで漸くフランの格好に気付いたらしい、頭にやっていた手を下ろすとまじまじとフランを眺めた。
「…ルッスーリアかぁ?」
「他にいませんよーこんなことする人」
「普通に似合ってんなぁ」
「それ褒めてるんですかー?」
「そのつもりだが」
ベルフェゴールもザンザスも、もちろんスクアーロも着流しなのに、自分だけこんな格好というのは納得がいかない。
でもまあ誉め言葉は素直に受け取っておこう、自分からしても珍しくそう思うことにして、フランはベルフェゴールと共にスクアーロの袖を引っ張ってやった。
「隊長ー、ミーはたこ焼きとチョコバナナで」
「んじゃ王子はお好み焼きと綿飴とかき氷と唐揚げな」
「今の時期かき氷とか頭大丈夫ですかー?」
「少しは遠慮しろガキ共ぉ!!」
fin.
新年祝の初詣ネタ。
何が書きたかったって、振り袖フランとボスVS副官の本気の羽根突きです←
フランは女の子でもいいけど、普通に女装になりました(´ω`)
しかしボスがとても楽しそうだ。そしてシュールだ。
でも満足してます、ボス(笑)
Buon Anno皆さん、良いお年を!
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