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暴君的セレモニー(ザンジル・ジル誕)
「……なあ、あいつは」

向かって右側のソファーに腰を下ろしコーヒーを飲みながら何かの雑誌を眺めていた銀髪は、一瞬の間考えるように視線を宙に浮かせると、ややあって「ボスのことかぁ」、と返してきた。

「用事があるとかで朝っぱらから出てったきりだなぁ。仕事は入ってねぇはずだが」

「…ふーん」

側に置いてあったクッションを手に取り抱き締める。銀髪はもう興味を失ったようで既に視線は雑誌に戻っている、再び静寂が室内を包み込んだ。
日はほとんど落ちて辺りは闇に覆われた午後六時、いつもなら何かしらのイベントがある日はやれ皆既日食だやれハロウィンだと必ず引っ張って行かれた。夏祭りだと言ってジャッポーネにまで無理矢理引き摺って行かれたことすらある(銀髪が言うには九代目もイベント好きだったなぁ、とか)。
そのあいつが、こんなわかりやすいイベントの日に朝からいないなど有り得ない。もしかして知らないのだろうか。いや、確かに自分の口からは言ったことは無いが双子の弟の方は随分可愛がっていたと銀髪に聞いたから日にちは知っているはずだ。まさかそのことに気付いていないのか。

「スクアーロー、ねぇまだぁ?」

クッションをぎゅうぎゅう抱き締めながら悶々とした思考に顔をクッションに押し付けた時、ふと聞き覚えのある声が室内に響いた。
顔を上げると楽しそうな顔をして銀髪に駆け寄ってくる片割れ。幼い頃のボーイソプラノしかお互いに知らないから、多少低くなったその声が別人のようで未だ慣れない。

「時間もちょうどいいしじゃあ行くかぁ」

「しし、やった!」

「……行くってどこに?」

立ち上がっていつもの隊服とは違う恐らく私服だろうコートを羽織る銀髪と、そいつの右腕に抱き付いて嬉しそうな笑みを浮かべる片割れを横目に見て、思わずぼそりと呟いた。言ってから後悔、これじゃまるで妬いているみたいだ。

「うししっ、スクアーロがオレの我が儘全部聞いてくれるっていうからこれから出掛けんの」

だって誕生日だし?
まるで自慢でもするかのようににんまりと口許に笑みを刻み、そいつの腕を引っ張って片割れは部屋を出ていった。
別に羨ましくなんてない、元々日陰で生きてきた身には静かに時を過ごす方が合っているのだ。今までのそれを散々引っ掻き回して乱していたのはあの緋色の瞳を持った男、昔と同じ静かな時間に戻っただけ。
そう思いながらしんしんと降りしきる粉雪を窓の外に認め、温かいココアを口にしては白い華を眺めてを繰り返していた時だった。片割れが銀髪と一緒に出ていってから半刻ばかりを過ぎた頃、不意に轟音が耳を刺激してラジエルは直ぐ様カップを置き思わず耳を塞いだ。

「うるっさ…!」

独立暗殺部隊ヴァリアーの屋敷はかなりの金がかけられているようで、各部屋はある程度の音なら全て防いでしまうし冷暖房完備、全ての部屋には無線が繋がっている。ここで問題になるのは防音効果についてだが、今までこの壁を突き破って聞こえてきたものといえばヴァリアーのボスと副官の激しい暴力のぶつかり合い(まあこれはしょっちゅうだ)、それからサイズ・大の匣兵器同士の争い(これも主にライオンと鮫)、それからあの副官がマジ切れした時に被害に遭った壁が崩れる音、とか(あの時はあの男ですら少し呆然としていたようだったから一番怒らせてはいけないのはあの副官なのかもしれない)。
多少話が脱線したから戻そう、その壁を突き破って響いたこの轟音は何なのか。
バタバタと激しい音は窓の外から聞こえてくる、何事かと窓を見遣れば半ば唖然とした。

「…は?ヘリ?」

浅く積もった雪を巻き上げ着地したそのヘリは、すぐに飛び立つつもりなのか羽根を回転させたままだ。危ないことをすると内心に思いカーテンを閉めようとした瞬間、荒々しい音を立てて談話室の扉が思い切り叩き開けられた。

「カスが」

「ザン、ザス…!?」

思わず身構えるのはいつもの癖だ、とにかく物の扱いが乱暴なそいつは優しさを持って接するということを知らないらしい。
まるで猫を目の前にしたハムスターのような反応には目もくれず、大股で歩いてきたザンザスはラジエルの腕を強引に掴み引き摺って歩き始めた。

「いた、痛いっつの馬鹿!脱臼したらてめーのせいだからな!」

「るせえっ」

ラジエルの抗議などお構い無しにずんずんと進むザンザスには既に諦めることを覚えている、ため息一つで全て飲み込んで大人しく引き摺られながら一応聞いてみた。

「……どこ行くんだよ」

「世界一周旅行だ」

「はあ?」

思わず開いた口が塞がらない、ぶっ飛んだ答えが返ってきた。突拍子も無く何を言い出すのだろうか、この男は。

「頭おかしくなったか?」

「黙っとけカス」

エントランスの扉が開け放たれる。それと同時に一瞬強い風が吹いて、粉雪を纏ったそれが肌を撫でた瞬間忘れていた寒さに体がぶるりと震えた。
当然ながら暖かい室内にいたラジエルはコートなど羽織ってないし、着る前に腕を掴まれ強制連行された。終いには小さなくしゃみまで溢れる始末だ。
寒さに対抗しようと体を小さくして両手に息を吹きかけて、ふと温もりを感じて顔を上げると、肩に乗せられた黒を基調とした大きめのコート。
口を開く前に腕を引かれて席に着かされ、当然のようにそいつが隣に座る。ヘリと一言に言っても特別に造られたものだろう、機内は暖かく一定の温度に保たれているし乗り心地がいい。

「…Buon Compleanno.」

「……!」

慌てて顔を上げたら、そいつはもうこっちなんて全然見ていない。満足げに出せと命令を出すそいつをちらりと横目に見て、かけられたコートをぎゅっと握り締めた。

「……礼なんか、言わないからな」

「ハッ、勝手にしろ」

足を組んで余裕たっぷりという表情をしてこちらを見下ろすそいつの顔がやけに楽しそうで、ふいとそっぽを向いてやった。





fin.





ジルはぴばザンジルです。
ジル誕ボスプロデュース←
ジルさまのツンデレっぷりもさることながら、ボスの無茶ぶり^^
誕生日に世界一周とか規模でかい。
後でそれを聞いたスクベル二人は唖然とした後「それはちょっと…」と手を横に振ると思います←
Buon Compleanno,Rasiel!

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