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想い、すれ違い(ザンジル♀→スク)
「……い、って…」

どれくらい眠っていたのかはわからない。ただ体はぎしぎしと軋んでだるいし腰はずきずき痛むしあちこちを疼痛が苛んでいて寝起きは最悪だ。おまけに体中に白い液体がこびりついていて、下半身にはどろりとした感触。あの野郎容赦無く出しやがって、孕んだらどうすんだよ。
体に障らないようそろそろと起き上がってシーツを全身に巻き付けた。冷えた体が少しずつ暖まり、小さく息をつくと室内に響いたノックに顔をそちらに向ける。入って来たのは長い銀の髪の男だ、確かベルやオカマにスクアーロと呼ばれていた。

「…酷ぇ有り様だな」

そいつはオレの方を一瞥すると開口一番そう言ってため息をついた。それから何か抱えたまま近寄って来る。なんだよ、こっち来るなよ、庶民が気安く王子に近寄っていいと思ってんの。
身構えてきっと睨み付けてやったらもう一度ため息をついてオレの側に抱えていた何かを放って寄越した。
よくよく見てみればそれは女物の洋服だ。
意図が掴めずにまじまじと見つめると、腕を組んだままバスルームの方を顎で指してみせた。

「ルッスーリアに用意させた。とりあえずシャワー浴びてこい、気持ち悪ぃだろ」

「……礼なんか言わないからな」

「勝手にしやがれぇ」

どういうことかわからないが、わざわざ服を用意してくれたらしい。何か企んでるんじゃないかともう一度じっくり洋服を見てみると、別段派手ではないが地味という訳ではなくところどころ細かい部分にまで拘りが見える繊細なデザイン、生地も滑らかで肌触りの良いただの上質な洋服だった。
洋服から視線を上げて今一度まじまじと見つめたら気に入らないかと問われて首を横に振った。
デザインも好みだし別に何も文句は無い。ただ敵側の人間で今は役に立つかもわからない捕虜でしかないオレに何故わざわざこんなことをするのかがわからなかった。

「…なあ」

「あ?」

「なんでわざわざオレに気ぃ遣うの」

「なんで、って……」

そう言うとさっきまでの仏頂面はどこかに行って、困惑したような戸惑うような表情を見せた。何か言いづらい理由でもあるのか、それとも特に理由など無いのか。表情を見ていたらなんとなく後者なんだろうなとわかった。
ともかくこのままでいるのは確かに嫌だしあいつが戻って来た時にそのままだとまたすぐ襲われそうだからシーツを巻き付けたまま洋服を抱え、そいつの横を擦り抜けてバスルームへと入った。



「外、出たくねぇか」

シャワーで汚れと疲れを洗い流して濡れた髪をタオルで拭きながら部屋へと戻ると、どうやら待っていたらしいそいつにそう問われた。

「……出たくない…って言ったら嘘になるけど…」

そりゃあ何日も閉じ込められてしかもあの鋭い目付きをしたいけすかない男の相手までさせられてんだから外の空気を吸いたいに決まってる。でもお前ヴァリアーだろ、しかも幹部でNo.2のやつがそんなことしていいのかと口を開きかけると「なら行くぞ」なんて腕を掴まれて強引に連れ出された。途中廊下や階段でなんで、とかいいのかよ、とか散々言っても聞きやしない、オレはお前の為に言ってやってんのに。確かに礼は言わないって言ったけど、本当は嬉しかったしちゃんと感謝してる、だってあの男のオレの扱いときたらこいつと比べて本当最悪だったから。嬉しくない訳ないじゃん。
でも久しぶりに出た街は本当に楽しかった。元々子供の頃はあんまり体が丈夫じゃなくて外に出してもらえることはなかったし、ミルフィオーレに入ってからもそんなに自由に出掛けられたことはない。
静かで少し寂しい環境ばかり見て育ってきたオレは、だから賑やかな人混みも忙しなく変化する街並みも嫌いじゃなかった。

「なあ、あれ、何?」

「あぁ?…なんだお前、サーカスも見たことねぇのか?」

「サーカス?あれが?前に城下町に来たことはあったけど、オレ体弱かったから行かせてもらえなかったし。護衛のやつとベルだけ見に行ったみたい」

別に何か嫌な感情を込めて言った訳じゃないけど、オレの言葉にただそうか、と一言だけ返して複雑な表情をした。また気ぃ遣ってんのかな、敵のはずなのに。こいつはよくわかんない。

「ねえ、オレドルチェ食べたい」

「あぁ…どこがいい?」

「美味しいとこ」

「曖昧だなぁ…」

いつまでも難しい顔をしていたのでそう服の袖を引っ張ったら漸くいつもの表情に戻った。いつものっていうか、普段からこうなのか知らないけど仏頂面。
しばらく考えるように宙に視線を彷徨わせているのを眺めていたら、それならといつもベルが来ているらしい店に連れられた。確かに双子だからか、オレとベルの好みは似てる。例えばほら、このミルフィーユに乗ってる苺や甘い甘いガトーショコラ、オレが今食べてるドルチェはきっとベルも好き。

「…よく食えんな、それだけの量」

「こんなん普通だし。食べる?」

「こっちは見てるだけで胸焼けしてんだよ」

無視してはい、と白い生クリームたっぷりのスポンジを乗せたフォークを目の前に差し出してやったら嫌そうな顔をしつつも食べたからにんまりと笑みを浮かべてやった。オレとは対照的にドルチェの甘さに眉を寄せるそいつ。
ふと窓の外へと目をやったら、既に日は沈みかけて街は夕焼け色に染まっていた。これもベルが好きな色でオレも好きな色だけど、終わりを告げるその色が今だけはつらかった。

「…お前だったらよかったのに」

かちゃりとフォークを置いて、窓に頭を凭れさせじっと夕日を眺めるオレにそいつも顔を上げた。

「あいつじゃなくて、お前だったらよかったのにな」

きっと意味は伝わってる。
薄暗く反射する窓に映ったそいつは、ただ何も言わずにオレだけを見つめていた。





fin.





ザンジル♀なんですがボスが出てません…←
ちゃんとボスはジルさまのこと好きです。でも愛の方向がちょっと痛い愛なんでs←
スクはなんとなく放っておけなかったんです。イタリアン紳士^^
しかしにょたの意味はあったのか…

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あきゅろす。
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