喪う心(スクフラ)
任務から帰還したフランの表情がまた少し消えたような気がした。
表情筋が動いていないのとは違う。消えているのだ。
感情が。心が。
少しずつ、蝕まれるように。
「あ…隊長ー、ただいま戻りましたー」
「…あぁ」
普段通りの声色、普段通りの表情。だが恐らく他の幹部は気付かないだろう、僅かな違い。
ただ黙って任務に送り出してやることしかできない自分に、無力感と不甲斐なさが折り重なり腹の底に積もっていく。
「……フラン」
「はいー?」
「もうヘルリングは使うな」
ヘルリング。
使用者の精神を食らい力を増幅させる霧属性の魔のリング。
この子供が持つリングに刻まれた数字は、聖典において神の敵と成されるサタンを示すものだ。
様々な感情に身を焦がし神に反旗を翻した輝かしい天使ルシファーは、自らの双子の弟ミカエルに敗れ地獄へ堕ち、憤怒の悪魔サタンへと変貌した。
彼の燃え上がる憤怒を更に増幅させるように、このリングは感情を食らう。
「…隊長ー?」
さすれば霧となって消えてしまいそうな、小さな体を抱き締めた。
以前はこれ程無感情な子供ではなかったのだ。
少し感情が薄いというか、感じ方の違う子供ではあったが、年相応に笑ったり、怒ったり、はたまた拗ねたりというのはちゃんとあった。
リングを手にしてからだ。笑うことも怒ることも、泣くこともしなくなったのは。
「消えるな」
少しずつ失われていく。
思い出はある。記憶もある。ただ、それらはただのフィルムでしかなく、鮮やかに彩る色だけが薄れ、褪せていく。
「…大丈夫ですよー」
じっと黙って聞いていたフランが、そろそろと腕を回してきた。力を入れ過ぎていた腕を少し緩めると、とんと体をスクアーロに預けて頬を胸元にぴたりと寄せてくる。
「ミーはまだ、隊長のこと好きでいられてますから」
そして顔を上げて精一杯の、ぎこちない微笑み。
笑い方を忘れた子供の優しい気遣いに胸が締め付けられた。つらいのは自分ではなくフランで、優しい微笑みを向けられるべきなのもフランだ。情けなさに涙も出ない。
このままではいられない。どこまでも強く、優しい子供に応えなければならない。それが唯一、自分がしてやれることならば。
「…そう、だな」
失われた感情なら取り戻せばいい。これ以上失わないよう守ってやればいい。
そして過去を、この子供の正しい未来を。
決して失わぬよう、消えてしまわないようにもう一度強く抱き締めた。
願わくは、この笑顔がいつまでも失われんことを。
fin.
フランの持つヘルリングの能力捏造してみました。
ヴァリアーは何かと悪魔関連の名前とか性格とか多いんですが、フランの場合はヘルリングのようです。
今回は珍しくスク→フラ風味な…
不完全燃焼な感じなので機会があれば書き直したいです。
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