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『Magical Girl Lyrical NANOHA The MOVIE 1st』公開記念小説
映画公開記念小説(続き)
ホテルにて、パーティーの準備が続いていた頃。ミッドチルダの高速道路を一台の黒いスポーツカーが走っていた。



車内には三人の女性。一人は運転席に座り、二人は後部座席で不思議そうに前を見ていた。



なのは「あの、シグナムさん。今日はどうしたんですか?」



フェイト「運転だったら私がするのに……何かあったんですか?」



シグナム「なに、たまには私もハンドルを握ってみたくなったのさ。最近はずっと助手席だったからな」



フェイト「そんな……何か悪いですよ」



シグナム「気にするな。今日ぐらいゆっくりしていろ」



明らかに不自然なシグナムに、フェイトは腑に落ちないところがあった。



なのは「そういえば、はやてちゃんは一緒じゃないんですね」



シグナム「主はやては、定例会議で本局まで行っている。夕方までには戻られると思うが」



フェイト「ヴィータも仕事ですか?」



シグナム「ああ。急に教導の依頼が入ったらしい」



なのは「そうなんですか?」



シグナム「ああ」



フェイトだけでなく、なのはも妙な違和感を感じていた。



シグナム「そろそろ高速を降りるぞ」



フェイト「あ、なら代金は私が……」



そうやって財布を取り出すフェイトだが、シグナムが一足先に財布からカードを取り出した。



フェイト「シグナム!」



シグナム「たまには奢らせてくれ。いつも上司に払わせては、気が紛れん」



フェイト「でも……」



なのは「ま、まぁ……今日ぐらいはお言葉に甘えようよ」



フェイト「なのは……」



シグナム「そんなに払いたいなら、後日そちらに請求させてもらうよ。それなら文句はないだろう」



フェイト「う……分かりました……」



そう言って渋々財布をしまうフェイト。シグナムはバックミラーごしに微笑んでから、カードを液晶モニターにかざした。



なのは「ヴィヴィオ、ちゃんといい子でいるかな」



フェイト「あ、そう言えば。ヴィヴィオ、今日はお出かけだったよね」



なのは「うん。エリオやキャロと一緒に、社会見学もかねて」



フェイト「大丈夫かな……迷子とかになってないかな」



シグナム「相変わらずの心配性だな」



フェイト「心配もしますよ。まだ7歳の女の子ですから」



なのは「大丈夫だよ。エリオとキャロがいるし、クラナガンの中だから」



フェイト「そうかな……」



シグナム「それほど気になるなら、一緒に着いていけばよかっただろう」



フェイト「そこまで過保護じゃありませんよ」



なのは「でもフェイトちゃん、朝出ていくまでそわそわしてたよね」



フェイト「な、なのはっ!」



シグナム「十分過保護じゃないか」



フェイト「も、もう! からかわないでくださいよ!」



なのは「にゃはは」



フェイト「もう……二人で私をバカにして……」



なのは「ごめんごめん」



シグナム「さて……そろそろ着くぞ」



そう言われた二人は、思わず窓の外を見た。



なのは「あれ……?」



フェイト「ここって……」



そして走ることしばらくして、スポーツカーは豪華絢爛なホテルの前で停止した。

















はやて「……そろそろかな」



腕時計を気にしているはやて。準備は既に終わり、飾り立てられたテーブルの上には、色とりどりの料理や洋菓子が並べられていた。



と、そんなはやての腰に挿してあるトランシーバーが鳴り、はやては慌ててそれを手に取った。



リインU『はやてちゃん! お二人が到着したですよ!』



はやて「了解。ほんなら、シグナムに連絡して。二人に気付かれんようにな」



リインU『了解です!』



遂に迫った時に、はやては胸を高鳴らせる。後ろに回した手には汗がにじみ、喉が乾いたはやては思わず生唾を飲んだ。



と、その時。入り口の扉が数回ノックされ、それを聞いたはやてが素早く照明を消すよう指示する。



ゆっくりと扉が開けられ、数人の人が入ってくる足音が真っ暗な部屋に響く。



と、突然スポットライトが浴びせられ、部屋に入ってきた二人の女性が照らし出された。



なのは「わっ!」



フェイト「え……? なに?」



突然の照明に手で顔を覆う二人。あまりの出来事に、状況が上手く把握できていなかった。



二人が状況を確かめようと手を退けた時。


乾いた音と共に、色とりどりのテープと紙吹雪がクラッカーから飛び出した。



はやて「なのはちゃん、フェイトちゃん! 映画公開……」



大勢の声『おめでとーうっ!』



なのは「ふぇ……?」



フェイト「映画って……」



スバル「なのはさん、どうぞ!」



ティアナ「フェイトさんも」



パニック状態に陥っている二人に、スバルとティアナが花束を差し出した。



なのは「あ、ありがと……」



フェイト「映画って……どういうこと?」



はやて「ほら! 日本で二人が子供の時の映画が公開されたやんか」



なのは「あ……あー!」



フェイト「まさか、その為だけに?」



はやて「もちろん! 二人はあたしの親友やし、みんなにとっても大事な上司やからな」



はやての背後で笑顔を見せる、懐かしい顔ぶれ。かつて機動六課で世話になった、バックヤードのスタッフたちがわざわさこの時のために集まっていた。



なのは「みんな……」



フェイト「な、なんだか照れるね」



はやて「さて、じゃ主役の二人に一言お言葉を頂こうかな」



はやてはそう言って、どこから取り出したか二本のマイクを差し出した。



なのは「あ、じゃ花束を……」



はやて「あたしが持つよ」



フェイト「じゃ、シグナム」



シグナム「ああ」



二人はそれぞれ花束をシグナムとはやてに渡すと、マイクを握って話始めた。



なのは「今日は……わざわざ私たちのためだけにこんなパーティーを開いてくれて、本当にありがとうございます」



フェイト「突然のことでびっくりしたけど、綺麗な花束までもらっちゃって。本当に嬉しいです」



なのは「今日のことも含めて、これからも私たちを暖かく見守ってくださると嬉しいです。本当にありがとうございました」



頭を深々と下げる二人に、割れんばかりの拍手が注がれる。



はやて「さて! そんな二人に特別なプレゼント!」



なのは「え?」



フェイト「まだあるの?」



はやて「ヴィヴィオー、リインー」



はやてに呼ばれ、部屋の横にある控え室から現れたのは、ヴィヴィオとリインフォースU。しかし、格好がいつもとだいぶ違っていた。



なのは「ヴィヴィオ!?」



フェイト「その格好……!」



ヴィヴィオ「えへへ……似合うってるかな?」



リインU「映画版のなのはさんとフェイトさんのバリアジャケットを着てみたですよー」



ヴィヴィオが身に付けたのは、白と青が基調になったドレス調の衣装。対するリインフォースUは、人間体の姿で髪を二つに束ね、黒を基調にしたマント付きの衣装を身に付けていた。



それぞれ、映画で新しくデザインされた二人の幼少期のバリアジャケットである。



はやて「オーダーメイドで作ったから、高かったんやでー」



なのは「すごーい!」



フェイト「二人ともかわいいねー」



はやて「プレゼントはこれだけとちゃうよー!」



そういうはやては、スバルとティアナ、エリオとキャロを呼び出した。



スバル「あたしはこんなものしか用意できなかったんですが……どうぞ!」



スバルが差し出したのは、ミニチュアになった二人のマスコットで、ヴィヴィオたちが着ているような服を着ていた。



なのは「これ、もしかして地球の?」



スバル「おもいっきり私物なんですけど……もらってやってください!」



フェイト「かわいい……ありがとね、スバル」



なのは「わざわざ大切なものをありがとう」



はやて「じゃ、次はエリオとキャロ!」



エリオ「僕たちは、キャロと二人で選んで買いました」



キャロ「映画がお二人の子供の頃だと聞いたので、その頃に合わせてみました」


二人が差し出した箱の中には、二対のリボン。黒とピンクが可愛らしい、髪留め用のリボンだった。



なのは「わぁ……」



フェイト「懐かしいね、このリボン」



なのは「ありがとう、二人とも。明日から大切に使わせてもらうね」



エリオ「はい!」



キャロ「喜んでもらって嬉しいです」



はやて「最後はティアナから!」



ティアナは少し遠慮しがちに前へ出て、後ろ手に持っていた紙袋を差し出した。



なのは「これは?」



ティアナ「開けてみてください」



包装紙を破らないように、包みを開けていく。すると現れたのは、二人の可愛らしいイラストが描かれたラベルの、赤ワインのボトルだった。



フェイト「ワイン……だよね」



なのは「これ、高かったでしょ」



ティアナ「まぁ……少しだけ」



はやて「しかもそれ、二人が出会った年のヴィンテージ物らしいで」



なのは「本当に?」



フェイト「そんな高いものを……本当にありがとね、ティアナ」



ティアナ「いえ……。これくらいしか、お二人への恩返しは出来ませんので」



なのは「ティアナ……」


感極まったか、ティアナの目には涙が浮かび始めていた。



ティアナ「今まで、本当にありがとうございました。これからも……お元気でお仕事頑張って下さい」



涙を浮かべながら、頭を下げるティアナに合わせて、全員から暖かい拍手が上がった。



なのは「みんな……ありがとう」



フェイト「本当に……ありがとう」



そんなティアナに影響されてか、二人の目にも光るものが浮かんでいた。しかし、決して笑顔を忘れず、二人はいつまでも鳴り止まない拍手を噛み締めていた。



二人が出会ってから、11年。様々な出会いと別れがあり、激しい戦いを乗り越えて、二人は歴戦の戦士になった。



そんな二人の周りには、いつでも、どんな時でも必ず支えてくれる人たちがいた。



例え時間がどれほど過ぎようとも、二人の周りから人がいなくなることは、これからもずっとあり得ないだろう。



そんな二人に、今はただ送りたい言葉があった。



今はただ、『おめでとう』と。ただそれだけ、一言だけ送りたい言葉があった。



Fin.






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