狂愛症候群
5.
「…夏輝くん。」
私は夏輝くんの姿を確認して、彼の名前を呼んだ。
呼んだと同時に、何処からか冷たい風が私の首筋をくすぐった気がした。
「遅かったね。…って、秋人?」
私の隣の秋人くんに気が付いて、夏輝くんは驚いた顔をして言った。
「やっぱり、夏輝と一緒だったんですね。」
秋人くんは夏輝くんを見て、苦笑を浮かべる。
お見通しのようだ。
「うん。」
私はコクリと頷いた。
「それじゃ、僕は邪魔になりそうだしもう帰ります。文化祭、絶対に来てくださいね。」
秋人くんは、私と夏輝くんを交互に見てペコリと頭を下げてその場を立ち去った。
「まさか、秋人がここにいるとは思わなかったよ。」
秋人くんの背中を二人で見送った後、夏輝くんが突然そう言った。
夏輝くんと秋人くんは実は兄弟。
お互いやっている事は違うけど、芸術一家なだけあって才能がある。
夏輝くんは華道で、秋人くんは美術。
そう考えると、改めて凄いと思ってしまう。
「秋人くんが入部してすぐ、私がこの場所を教えたから…。凄い、ここが気に入ってるみたい。」
嬉しさからか、思わず笑みがこぼれてしまう。
この時、気付かなかった。
夏輝くんの目の色が、一瞬変わった事に。
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