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アラベスク
サクラ
私の足、私の手。
私の生活。

全てが変わってしまった。
だけど…心は着いて来ない。

私は私で居たいのに。




白石ドクターが出て行ってから暫くして看護士の池田さんがやって来た。


「彩ちゃん、散歩の許可が出たんだって?」

「うん、まぁ…まだ愛車(車椅子)が手放せないですけどね」


少し悲しいな、なんて思いながら言えば不意に池田さんに頭を撫でられた。


「もう少し、頑張ろうね」

「はい…じゃー早速だけど院内フリーになった事だし、お散歩に行って来ます」

「はーい、気をつけてね!帰って来たらナースステーションに声掛けてちょうだい」

「えー…そのまま逃走しちゃったり?」

「逃走はダメだからっ!」


笑いながら池田さんに手伝って貰って車椅子に乗り換える。車椅子に乗ってしまえばこっちのモノ。
病室を出た私は早速屋上へ向かった。

別に病院の居心地が悪い訳ではないけれど、やはり室内と外の空気とは違うと思う。
上手く言えないけど、外の世界には生命力が溢れている気がする。
病院自体が死と生の混ざり合っている場所だから、余計にそう感じるのかも知れない。

エレベーターから下り二重の自動ドアを潜れば春の温かい風が私の頬を掠めた。


「ん〜…気持ちい」


風が病院の中庭から桜の花びらを屋上まで運んでいて屋上から桜の木を見下ろしているのに桜吹雪に包まれる…とても不思議な感じ。

不意に、小学生の頃、舞う桜の花びらが落ちる前にキャッチすると願いが叶うと言う遊びがあったのを思い出した。

(舞い上がる桜の花びらでも大丈夫かな?)
強い風が中庭の桜の木から花びらを掠い舞い上がる。


「とうっ!」


私は目をつむり、バチンと勢い良く手を合わせた。
方法は間違ってる気がするが、願いは叶う気がする。


「お前、何やってんの?」

「…!」


声に驚き振り向くと屋上入口のドアの所に見知らぬ男の人が立って居た。
(恥ずかしい所見られた!)


「あっ、あの、桜を…」


私は人見知りする方で、よほど打ち解けない限り本当の自分を出せない。
知らない人でも挨拶や軽い会話は出来るが、今の状況は…
知らない人に話し掛けられ更に恥ずかしい場面を見られ私は何とか返事をしたら良いのか言葉が見付からなかった。







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