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アラベスク
オー マイ ドクター
一年前の桜の花びら舞う季節、私は地元山梨を離れ東京に居た。
理由は病気の治療の為。


―――
――



「失礼しますよ、神来社さん」

「あ、白石せんせー。こんにちは」

「こんにちは。具合はどうですか?」


病室に入って来たのは白石篤(シライシアツシ)。
私の主治医だ。
36歳にして日本一と言われている國舘(クニタチ)病院、神経内科の頂点に立つ男。
父も母も、このドクターを信頼し私をこの病院に入院させた。


「具合はイイ感じです。ねぇ、先生?」

「なんでしょうか、神来社さん?」

「そろそろフリー範囲を病棟だけじゃなくて病院内にしてくれませんか?」

「車椅子でこの病院内を動くのは大変でしょう。それに、外来は多くの人が出入りするから感染の恐れもある」

「毎日、マスクもウガイも手洗いも、ちゃんとしてまーす。それに私、車椅子の運転上手いし」

「どういう理由ですか…」


苦笑し、許可を躊躇う白石ドクター。いつもこの苦笑に結局撒かれてしまうのだ。
今日は私だってここで引き下がる訳にはいかない。


「とにかく、毎日毎日こんなんじゃ脳みそ腐っちゃう」


全く、私は馬鹿だと思う。
医者相手にそんな言い訳が通じる訳がないのに。


「しょうがないですね。神来社さんの脳みそが腐ってしまっては困りますから」

「いいんですか…?」


両親は白石ドクターを信用しているが私は、時々この人が何を考えているか分からないから怖い。


「いいですよ。そのかわり、ウガイ手洗いも今まで以上にしっかりする事」

「はーい」

「感染したら辛いのは神来社さん本人だからね?」

「そんなの、解ってる…」


例えば今、風邪をひいたら肺炎になって死ぬと薬の服用を始めた頃に何度も地元のドクターに言われた。


「それはそうと神来社さん。実習に来ている学生を今日から神来社さんに付けたいんですが良いですか?」
『面白い病気の新患が入ったらからインターン3人付く様に伝えてくれ。』

「別に構いませんけど…」


正直、嫌だと思った。
白石ドクターの言葉に嫌な言葉を思い出してしまったから…







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