アラベスク
X'mas Present
♪♪、♪〜
夕方、日が傾きかけた頃、机の上に置いておいた携帯が突然鳴り出した。
買い物から帰ったばかりで、調度着替えようとクローゼットを開けた時にだ。
欲しかった物が買い物先で手に入り気分が良く、今から部屋着に着替えのんびりとクラッシックでも聴こうかと考えていた矢先の事だったので私の機嫌は少々傾いた。
「もう、こんな時に誰よ」
携帯電話のサブディスプレイを覗けば、そこには《非通知》の文字。
(どうせ誰かからの悪戯電話なんだから放っておけば直ぐに切れる)
私は携帯を机の上に戻し再びクローゼットのドアノブに手を掛ける。
しかし、一行に止まないメロディー。
親しい友人や家族を除いて、ほぼこのメロディーに設定してある。
―――アラベスク。
とても大切な人に誕生日に送って貰った曲だ。
(未練なんて無いつもりだったのに…いい加減着メロ変えないと)
なかなか止まないメロディーに私はとうとう折れ、通話ボタンを押した。
「もしもし…?」
『…彩か?』
「侑士っ!?ねぇ…侑士なの?」
電話から聞こえる声の主は紛れも無く私にアラベスクを送ってくれた彼だった。
込み上げてくる涙をぐっと堪える。
(今更、電話してくるなんて…期待してもいいの?)
「侑士…」
『彩ちゃん…急に電話して勘忍な?』
「お互いのデータ電話帳から消す約束したじゃんか、馬鹿。私、ちゃんと消したんだよ…」
『うん…俺も消したんやけど、指が彩ちゃんの番号覚えてて』
そう言い電話の向こうで苦笑を浮かべる彼の顔が瞳を閉じると容易に想像出来た。
『それでな。俺、今何処に居ると思う?』
「知らないわよ、そんなの…」
『俺な、甲府行きの電車ん中におんねん』
「侑士、それって…」
『少し早いけど、最後のクリスマスプレゼント。…来てくれる?』
断る理由がなかった。
何より、もう既に体が勝手に動き始めていた。
「すぐに行くからっ!」
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