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アラベスク
家族
どうしてこの夜、貴方を引き止めてしまったんだろう。
寂しさを紛らわすなら何も貴方じゃなくてよかったはずなのにね…



「神来社さんもあんぱん好きなんや」

「甘いの好きですよ。辛いのとか…基本濃い味付け好きなんですけど、苦いのは苦手です」

「苦いのがダメとか、かわええ。患者さんやなかったら口説くわぁ…」


城山さんの不意な笑顔や言葉にドキッとしてしまう自分が信じられなかった。
きっと入院生活の中で城山さんの存在が自分の中で珍しいんだ。


「…城山さんって軟派な感じかも」

「え?」

「普通、学生さんが入院患者に簡単に可愛いとか言いませんもん」

「俺、正直やねん」

「嘘つき…」

「ほんまやって」


意地になる自分が信じられない。
それでも意地になってしまう…
今の私に可愛いなんて言われる要素は何処にもないから。


「ごめんな、怒らんといて?」

「別に、怒ってなんか…」


自分で引き止めておきながら、城山さんに嫌な思いをさせてしまった…


「私の方こそムキになってごめんなさい…」


謝ると頭を撫でられた。
大きくて温かい手。


「俺が患者やったら信じて貰えるんやろか…」

「そういう事じゃなくて…私は今の自分が嫌いなんです。大嫌い…」

「でも人間、見た目やないよ?」

「分かっているんですけど…私、ファザコンなんですよ」

「ファザコンなん?」

「ある意味凄く。父親が180センチ以上あって、空手もしてたりしたから凄く体格の良い人なんです」

「俺より背ぇ高いんや…」

「私、生まれた時から標準より大きい子供で…父親は小さくて可愛くて、みつあみとかして女の子らしい恰好させて連れて歩くのが夢だったらしいんですけど、私には出来なかった…」


父親が許せない。きっと今も…
病気になるまで父親なんて居ないも同然だったから
感謝はしているけど、それは家族愛とは違う…


「体質で髪をあまり伸ばせなくて、いつも男の子と間違われて…」


きっと、モデルになりたかったのも
父親に自分という存在を認めて欲しかったからだ。


「家族で出掛ける度に、他の家族とか可愛い女の子が居る度に"俺はああいう子供が欲しかったんだ"って…」


幼心に父からのその言葉は辛かった…


「あんたの遺伝子から、そんな子供が生まれるかっつーのっ…」







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あきゅろす。
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