W ドレス ロッシュの妹、ハーティスさん登場。ハーティスさんについてはてのひらの内藤さんのところでどうぞ。 音声着信。 非番の朝、微かな振動に目を覚ますと珍しいものに起こされた。 機密を扱う仕事柄、プライベートですら暗号化されたメールばかりなので珍しい。発信元は― 「士官学校?―ハロー?」 不在着信で音声メールに切り替わる直前、応答すると息をのむ気配がした。 「―もしもし?悪ふざけだったら逆探知してID調べてつるし上げるよ」 「あの!―あの、すみません。私、ハーティス・ロッシュです」 適当に脅すと予想外の名前が出てきた。 「ハル?どこでこの番号…ああ、あの人か。何かあった?」 「はい、兄から聞きました。…あの。お願いというか、相談したいことがあって」 「相談?直接俺に電話するなんてどんな内容か気になるな。聞くだけ聞くよ」 一通り聞き出してから眉間に皺を寄せる。確かに、従兄にしても無駄に終わりそうで、人選はしごく真っ当だ。 「―出られる?今から」 「え、でも何かしていただくなんて」 「課外授業とかない?今日土曜日だから正課はないよね」 「ありませんけど、でも」 「外出届け用意して。今から俺が迎えに行く」 「待ってください!」 「待たない。1時間くらいでつくから、私服に着替えてて」 言いたいことだけ言って切る。 「…ま、役得だ」 10代の女の子とデートするなんて。 「どうして軍服なんです?」 言った通りに私服で現れた従妹は、自分の服を見て不思議がった。 「身元しっかりした知り合いじゃないとそうそう連れ出せない。そこでこわーいおじさんたちが見張ってるから」 門の脇、守衛室を指差す。 「軍人、しかもPSICOMなら当日の届けも納得されるんだよ。急ぎの用があれば、俺かあの人を呼び出せばいい」 「連絡が取れることのほうが珍しいです」 「だろうね。だから出られる。行こうか」 「え、どこへ」 「明日の準備」 なおも不思議がる彼女の背を押し、無人タクシーに乗り込んだ。 適当な店に入ってドレスをいくつか手に取る。 「ちょっと、本当に待ってください!私こんなに払えません」 腕を掴まれる。 「俺が払うから気にしないで」 「もっと気にします!」 「全部買ったらさすがに俺もきついから、一番似合うのだけね。入学祝いだと思って受け取って」 「そんな、」 「いいから。気に入らなかったら買わないし、試着だけしておいでよ。それはタダだし」 「…はい」 しぶしぶ頷き従妹は試着室へと消える。 出てくるまでに靴と髪飾りも用意してもらった。肩から裾まで、白から藤色へ徐々に濃くなるグラデーションに目を細める。店員はセールストークを超えて誉めちぎっていた。そろそろ大人しく受け取ってくれればいいのに、ほとんど真っ青になって断ろうとする。 「気に入らない?」 「そんなことないです!」 「ならいいじゃないか。似合ってるよ。これはお祝い」 「でも」 「じゃあお礼に、このあとちょっと付き合って。デート1回」 ようやく首を縦に振ってもらう。 「……でもその言い方、援助交際みたいです」 なんてことだ! 長くなったので次へ。 [*前へ][次へ#] |