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小説
揺れる
「着陸完了。タラップ降ろせ」
『イエス、サー』
「順次降りて良し。当直は残れよ」
『―――』
艦橋から指令を出す副官を眺め、おもむろに立ち上がる。
久々の地上だ。補給部隊に続き、基地へと赴き司令官に挨拶をしなければならない。
すると突然意味のわからない言葉をかけられた。
「隊長、戦闘服で行ってくださいね」
非常時でもないのに何事か。
「そんなわけにはいかないだろう。こちらの基地を預かる少将に失礼だよ」
「じゃあせめてマント置いてってください」
「リグディ大尉、私の名前を言ってみたまえ。階級もだ」
「シド・レインズ准将閣下、マントは置いて行かれることをお勧めします。いやマジで」
「戦闘服ですら始終着崩している君のようにはいかないのだが。末席とはいえ将官だ。軍服にはマントを着用しなければならない」
「今更俺の服なんざどうでもいいでしょうが。せめて建物の中に入るまではマント脱いどかないと大変ですよ」
「何が大変なのだ?着用していないがためにお偉方に引き留められることより重大な事態が起こるとでも?」
「起こるんですよねぇ、マジに。前回地上に降りた時のこと忘れてるのは幸せでいいよなあほんと」
この口調に腹が立ってきた。
「軍服は規定通り着用していく」
「アイサー。知りませんからね、俺は手伝いませんよ」

いくら業腹でも副官とは連れ歩くものであって、いつも通り着崩した戦闘服の男と共に私は地に足を着けた。
歩き出す。
一歩、二歩、三歩。
途端にマントが引きつれる。
「最短記録更新、と」
隣の男が呟く。どういうことだ。
マントを見ると、

黒猫がぶら下がっていた。

「……ねこ」
呆然と呟くと同時に今度はコートに重みがかかる。慌てて目をやると、
キジトラがしがみついていた。
「ねこ……うわ!?」
正面から何かが飛んできた。階級章のあたりにぶつかったそれは、
「ねこ……!」
三毛だった。
「だから戦闘服って言ったのに」
副官を見る。
「どういうことだ!」
「完璧忘れてたんでしょうけど。前もネコだらけになったんですよあんた」
「記憶にないぞ」
「俺がいちいちはがしてたんでいっぺんに沢山ってのじゃなかったんですけどね」
短い会話のうちにもどんどんネコは増えてくる。
「はがしてくれ」
「えー。だってマント脱いでいただかないと新手追いつきませんよ」
「マント?」
ネコはまだまだ増えている。一匹二匹ならともかく、その数すでに十匹以上。さすがに重い。
「多分ひらひらしてるから嬉しくなるんでしょうね、ネコ」
戦闘服の男は平然と分析している。
「……脱ぐ!脱げば良いのだろう!」

後日、散々偉そうなことを言った副官の髪にもネコがぶら下がっているのを目撃し、鬱憤を晴らした。


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あきゅろす。
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