小説 走る 定例会議のため議事堂に向かって歩いていると、コートに重量がかかった。何かに引っかけたのだろうか。しかし縁石からは少々距離がある。 「……ねこ?」 振り返ると裾に一匹しがみついていた。 会議に連れていくわけにはいかない。裾を揺らしてみる。 「離れてくれ」 ネコとコートが一緒に揺れるだけだった。 「ロッシュじゃねえか」 「……ロッシュ中佐?」 途方に暮れていると聞き覚えのある声がかかった。 慌てて姿勢を正し敬礼する。顔を上げると、所属の違う上官と、その副官でもある同期の男がいた。 「お前こんなとこで何……あ。ネコ」 リグディが呟くとレインズ准将がびくりと肩をすくめた。 「大丈夫ですよ、まだ一匹だけです」 「……お嫌いですか。ねこ」 「いや、嫌いというわけではないのだが」 そう言いつつも准将は視線をさまよわせ、落ち着きがない。嫌いではないのなら、アレルギーか何かだろうか。 首を傾げていると突然准将が私の顔を指差した。 「ねこ……!」 確かにコートにしがみついていますが指など差さないでいただきたい。 そう思った瞬間、後頭部に重量がかかった。 「うわ!?」 仰天して振り向くも誰もいない。いや待て、視界の端に時折もふもふした細長いものがうつる。 「すげえネコポニテ」 「リグディ大尉、増え始めたのではないかな」 「エデンは大丈夫だと思ったんですけどねえ」 どうやら髪にネコが飛びついたらしい。手をのばすとやはりもふもふした毛が感じ取れた。…暖かいが、重い。 「ロッシュ中佐、走れるね」 「は?」 「議事堂まで全力ダッシュな。隊長ひとりならともかくお前の分まで団子阻止は無理」 言いつつリグディがコートのネコをはがす。べりっ。歩きやすくなったが少し破れた気がする。繕わなければ。……待て、走るだと?突然どうしたことだ。 だがレインズ准将もリグディ大尉も、屈伸などしており、どうにも真剣のようだ。 「いいですか」 「いつでも」 「遅れたらネコ団子だからマジに走れよ。 ……んじゃ、3、2、1…GO!」 号令されると飛び出してしまうのが軍人の性か。わけもわからぬまま一緒に走り出す。 ……議事堂までの短い距離で、エデンにあれだけネコがいることを初めて知った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |